4話 眠る少女
水晶の中で少女が眠っていた。
その少女は整った顔をしていて、髪が黒かった。地毛だろうか。だとしたら珍しい。東の方では黒髪が主流だと聞くがこの辺ではなかなかいない。
とまあそんな事は今はどうでもいいのだが...これは一体どういう状況なのだろうか。
誰かが魔術でこの少女を水晶に閉じ込めた?しかしそんな魔術は聞いたことがない。じゃあ魔物にやられたのかもしくはアーティファクトの力かもしれない。
そんな考察をしながら少女を見ていると一つのことに気がついた。胸の辺りに冒険者バッジが付いている。
冒険者バッジとはギルドが発行する冒険者を証明するバッジだ。これをつけることで一部の店で割引などのサービスを受けることができるので付けている冒険者は多い。
要するにこのバッジを付けているということは初めからダンジョンに存在したわけではなく、ダンジョンが発見された後に入ってきたオレと同じ冒険者だったということだ。
「しかしこの八層までこれたのはオレ達の他には後一つ。あの伝説のパーティだけのはずなんだがな」
まだ疑問は多いがこれで一つ合点がいった。先程の石の家具は恐らくこの少女が用意したものだろう。きっとここでしばらく生活していたのだ。そうしているうちにきっとなんやかんやあってこの水晶に閉じ込められた状態になったのだろう。大雑把すぎるがそれがオレなりの考察だ。
とりあえずこの少女が冒険者だったならなんとか水晶の中から救出出来れば転送石を持っているかも知れない。
ただ、その救出の仕方が見当もつかないのだが。
はあ、とため息混じりにその水晶に指先で触れてなぞってみる。
その瞬間、理外の出来事が起こる。
触れたその部分からヒビが入ったのだ。そのヒビは少しずつ広がり始める。
「おおう!」
びっくりして後ずさる。その間にもヒビは広がり続ける。
え、まずいんじゃないの?これ。このままヒビが広がり続けたら...。
水晶と共に少女も割れる。そんな最悪な未来が脳裏をよぎる。しかしヒビは止まらない。
そしてヒビが広がりきり水晶がバシッと音を立てて割れた。オレは急いで目を手で覆う。
それからガシャガシャと崩れる音がした後、静寂が訪れた。
恐る恐る閉じた目を開き、指の隙間から少女の方を見る。少女は割れた水晶の破片にまみれていたが傷はなかった。
想像していたような事態にはなっていなかったことに安堵した。
手首を押さえ鼓動を確認してみる。
この少女について色々考えたがそもそも既に死んでいる可能性が高いだろう。あんな水晶の中にとじこめられていたのだからな。
しかし実際はその考えの逆だった。
「生きてる...!」
確かにその心臓は脈を打っていた。その鼓動がどんどん強くなるのが手首越しに分かる。
そうして強くなる鼓動に呼応する様に少女の目が開いた。
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