39話 逃走劇-2
時は遡り、ルナとクロウドが分かれた直後、クロウドはクイーンスパイダーに追われていた。
屋根を降り、建物の影に隠れながら逃げる。クイーンスパイダーはオレの方を追ってきている。今は仲間の無事を喜ぼう。
「あぶねっ!」
クイーンスパイダーが体の突起から針を飛ばしていた。間一髪で回避する。あれに当たれば一発アウトだ。警戒しないと。
しかしどうやって逃げ切ろうか。正直言って追いかけられたら仕方ないから死ぬくらいに考えていたのだが......
「またねって言っちまったからなあ」
仕方あるまい。どうにかして逃げ切ろう。
問題なのはオレよりもクイーンスパイダーの方が速いことだ。そもそものサイズが違う上にオレは建物の隙間を走るしかないのに対し、クイーンスパイダーは屋根の上を真っ直ぐ這っているのだからスピードで差が出るのは当然だろう。オマケに地面にはリビングデッドもウヨウヨいるのでそいつらを倒すなり避ける何しなければならない。
このままではいつまで経っても逃げられない。先にオレの体力が尽きるのが落ちだろう。
オレの使える魔術は主に7つ。
浄化魔術「白蛇の慈悲」
強化魔術「ライジン」
極東魔術「煙幕の術」
治癒魔術「地獄の英雄」
幻影魔術「蜃気楼」
自然魔術「氷の霧」
促進魔術「森の贄」
支援魔術「水上歩行」
後は簡単に覚えられる浄化魔術とか簡易魔術だ。
それらを最大限活用して逃げる。
実はいくつか策は思いついている。どれも上手くいく気がしないが......ダメ元で試してみるか。
極東魔術「煙幕の術」
久しぶりに魔術を使う気がするな。この「煙幕の術」はウッタクル戦でも使ったが魔力を煙に変換して体から煙幕を張る魔術だ。これを最大出力で使う。
そうすると周囲は煙で覆われ、周囲一体を巻き込んでオレの体を完全に隠した。
クイーンスパイダーが度々飛ばしてきていた針はとんで来なくなった。よし、ヤツはオレの姿を完全に見失ったようだ。
ただこの作戦には一つ問題がある。それはオレ自身も何も見えないと言うことだ。何も見えないのでまともに動けない。これでは逃げることが出来ない。
だがそれでいい......!発想の逆転だ。動けないのなら動かない。この煙幕は長く続く。ならば動かずにここで息を潜めクイーンスパイダーが去るのを待てばいい。クイーンスパイダーもその内オレに興味を失うだろう。ヒュー!オレって頭いー!ダメ元で始めた作戦だったが案外上手くいくんじゃねーの?
その瞬間、突如激風が吹き煙幕が晴れた。
「なんだ!」
オレは驚愕しクイーンスパイダーの方を見る。クイーンスパイダーの周囲から煙が遠のいていくのが分かる。よく見てみるとどうやら突起から風を出しているようだ。この風で煙幕をはらっていたのだ。
「そんなことできんのお前......」
ヤツは針を突起から射出する時、風を利用していると聞いたことがある。自身の身体能力の応用というわけか。
オレは瞬時に再び走り始めた。煙幕作戦は失敗だ。
別にいいもんね!元々ダメ元の作戦だったんだ。上手くいかなくて当然。むしろあんなので撒けてたら拍子抜けだったし。
気持ちを切り替えて次の作戦だ。
幻影魔術「蜃気楼」
この魔術は自分の幻影を作り出しそれを操れるというものだ。だがこの魔術は精度が酷い。
オレはとりあえず2体の幻影を作り出す。その2体は形がフニャフニャで人間が見れば一発で偽物だと分かる出来だった。しかし今の相手はモンスターだ。これでも十分騙せるはずだ。
「お前は前、お前は左に行け!」
幻影達に命令を出す。幻影達はフラフラと命令あれた方向に走り始めた。そしてオレが右へ走る。クイーンスパイダーからすればオレが3人に増えて別の方向に走り始めたのだから困惑するだろう。
だがオレは一応やってみただけで子に魔術を信頼していない。理由はすぐに分かる。オレはチラリと幻影の方を見た。
「あ」
幻影達は道につまづき消えていた。オレはため息をつく。この魔術で生み出した幻影達はつまづいたり壁に当たったりしてしまうと消えてしまうというポンコツ魔術だ。オレが覚えている魔術の中でトップクラスに役に立たない。なんで覚えたんだろこんなの。
これでデコイ作戦も失敗と。気を取り直して次の作戦だ!
「ああああ、あああ〜」
オレは一旦建物の影に隠れてからリビングデッドの真似を始める。リビングデッドは元人間だ。ならば人間であるオレが真似をすればたかがモンスターであるクイーンスパイダーに見抜ける道理はないというわけだ!
「うああああ。うあっ」
見ろクイーンスパイダー!オレの迫真の演技を!どう見てもオレはリビングデッドだろう!
クイーンスパイダーはオレの迫真の演技を目にし!何も躊躇いなく針を射出してきた。
「知ってた!」
オレは演技をやめ急いで回避する。本気でやったのだがなかなかの観察眼を持っているなクイーンスパイダー。
煙幕作戦、デコイ作戦、モノマネ作戦、どれも失敗。いよいよ残っている作戦は一つだけになった。
だが問題ない。後一つが本命だからだ。じゃあ最初からそれをやればよかったではないかというと、もしこの作戦が失敗すれば完全に逃げることが出来なくなる。だから先に他の作戦を試しておきたかったというわけだ。
オレは最後の作戦を実行するために屋根へ登った。そもそも地上を走っていたのはクイーンスパイダーの針に当たらないようにするためだった。だがもう避けてしまえばいいとして割り切ろう。
強化魔術「ライジン」
最後の作戦はあまりに単純。純粋にクイーンスパイダーのスピードを越えることで逃げ切ることだ。「ライジン」を使って身体能力を底上げすることでそのスピードを実現する。
タイムリミットは「ライジン」の反動が来るまで。
オレは屋根瓦を強く蹴り、屋根を伝って高速で移動する。クイーンスパイダーの姿が少しずつ離れていくのが分かった。目論見通りだ。だがそれでもかなりギリギリ。距離をとって隠れる時間が取れるかどうか。
だがそれは杞憂に終わった。そもそも距離なんて取れなかったからだ。
クイーンスパイダーはオレのスピードが上がり距離を離されたのを見て自身もスピードを上げた。そう、今までのはフルスピードではなかったのだ。
ヤツは全力など出していなかったのだ。後ろからクイーンスパイダーが建物を崩しながら迫ってくるのが分かる。
クイーンスパイダーがスピードを上げたので全く距離が離せない。これはまずい......!反動が来る前にどうにかして逃げ切らないといけないのに......逆に距離を詰められ始めた。
もっとだ!もっと足を早く動かせ!再会を約束したのだ。もっともっと速く......!「ライジン」の出力を上げる。体への反動は増えるが背に腹はかえられない。全身の筋肉に魔力が流れる。今のオレには例え機関車でも追いつけない......!
チラリと後ろを振り返る。出力を上げたおかげでクイーンスパイダーは再び遠のいていた。よし、このスピードを維持すれば......!
その瞬間、クイーンスパイダーの針が背中を刺した。
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