37話 友
リビングデッドの放った火球がルナの背中に直撃する。ルナはバランスを崩し前のめりに倒れ始めた。
「小娘!」
イバンは叫び、力を振り絞ってルナを支える。
「貴様なぜ......!」
「へへ......ちょっと熱かった」
ルナはそう言って少しだけ笑って己を支えたまま動けないイバンを抱えた。イバンがもう動けないことを察知したのだ。そうしてイバンを抱えたままルナは瓦礫地帯を抜けようと走る。
「こ、小娘......大丈夫なのか!」
「まあ熱かったけど、私は丈夫らしいから」
イバンは理解が出来なかった。確かにルナはイバンが居なくなれば地図も読めないしクロウドを探すのも大変になるのでイバンを助ける意味はある。そのことはイバンも理解していた。しかし言ってしまえばそれだけだ。イバンがいればルナにとって便利というだけでいないとしても今すぐ死ぬわけではない。
だが今のルナの行動は当たりどころ次第では死んでいてもおかしくなかった。むしろ熱い程度で済んだのは幸運以外の何者でもない。命をかけてまで自分との協力関係を保つ必要があったのか。それがイバンには理解できなかったのだ。
「何故......」
ルナは抱え、イバンは抱えられ、二人は瓦礫の荒地を抜け街のmへ逃げ込んだ。
「撒いたみたいだね......」
二人は街に入ってからしばらく走り、家へ逃げ込んだ。そこは古びてはいるものの部屋がいくつもある結構大きな豪邸だった。少なくとも周囲の家と比べてもその違いは顕著だった。
「イバンももう動けそう?」
「......うむ」
イバンはルナの腕の中から降ろされて床に立つ。もう問題なく歩けそうだ。しかしそんなことはイバンにとってどうでもよかった。
「それより小娘、背中を見せろ」
「え?いや大丈夫だけど」
「いいから見せろ」
イバンは半ば強引にルナの背中を覗き見る。
「......」
「あーまあそんなに痛くないから」
一言で言うと、痛々しい。その言葉に尽きる。服は丸く焼けて穴が開き、皮膚も焼け焦げて肉が見えている。焼けた服の繊維が傷口に張り付き悲壮感を際立たせていた。
「......すこしじっとしているのだぞ」
(今の魔力でも応急措置くらいは出来るだろう)
治癒魔術「天使の涙」
「え!なになに⁉︎」
「治療してやる。静かにしていろ」
イバンは魔術を使いルナの傷跡を治癒する。血は止まり、焼けた皮膚は色を取り戻す。
「すごい!痛みが引いてく」
「少し時間がかかるから故動くでないぞ」
イバンとしては服も戻したかったがそんな魔術は使えなかったので断念することにした。
「なあ小娘、何故我を庇った。場合によっては死んでいたやも知れなかったのだぞ」
「......やっぱ居ないと困るし」
「それだけか?」
「もう一つあるけど......言うと馬鹿にされるから言わない」
「馬鹿にせぬから言え。このままでは気持ちが悪い」
理由が不透明なまま貸しを作られるというのはイバンからすれば気分が良くなかった。借りを返すにしてもこのままでは気持ち良く清算ができない。イバンはそう思った。
「......じゃあ言うけど、私イバンのこと友達だと思ってるから」
「友達だぁ〜?」
イバンは訝しむ。自分達は友達でも仲間でもない。それは以前に言っていた筈だ。
「私記憶がないから友達いなくてさ。クロウド君は友達なのかも知れないけどそれよりも頼りになる恩人って感じがするし。だから対等な関係のイバンが友達なのかなって」
ルナが恥ずかしそうにそう言った。イバンはそれを聞き少し考えてからため息をついた。
「やはりお主バカだな」
「馬鹿にしないって言ったじゃん!」
「それよりも終わったぞ」
治療を終えたルナの背中は傷はまだ残っているものの血は完全に止まり、皮膚が剥がれ見えていた肉なんかもカサブタやら再生した皮膚やらで見えなくなっていた。
(元の体なら完全に治せていた、むしろ怪我する前より綺麗になっていたであろう。もっとも、この体にならなければ小娘を治療するような関係にはなっていなかったであろうが)
「全然痛くない!ありがとイバン」
ルナは嬉しそうに笑う。イバンはそれを見て無意識に笑みをこぼした。
「それよりも一旦休むぞ。治癒魔術は治される側も体力を使う故今のお主はかなり疲労が溜まっている筈だ」
「あ、確かに結構疲れてるかも」
ルナは気づかぬ間に肩で息をするほどに疲弊していた。それはもちろん治癒魔術の影響もあるが先程まで全力疾走していたことも影響している。
「じゃあ見張りのために交代で寝ようか」
「我は寝ずとも充分に回復出来る。寝るのはお主だけで良い」
イバンは龍種の特徴として1週間に3時間程度の睡眠さえとっていれば起きたままでも充分に体力を回復することが出来るのだ。
「じゃあお言葉に甘えて。3時間立ったら起こして」
ルナはそう言って近くにあったボロボロのソファに寝そべった。寝心地は綺麗なベッドなどに比べれば酷いものだが体力を消耗しているルナにとっては速攻で睡眠をとれる環境だった。
「出口、6層への階段か?それももう近い。起きたらノーストップでそこへ向かうからな」
イバンがルナが既に眠りについているのに気がついたのはそう言い終わった後だった。
(では我も休むとしよう)
イバンはルナが寝たソファの端に登って丸まった。かなり大きめなソファだったのでそのくらいのスペースはあった。無論目は閉じない。
イバンは魔力感知を一瞬発動させる。周囲にモンスターはいない。先程までの騒ぎで蜘蛛が来ていたら困るとイバンは考えていたがそれは杞憂で終わった。
(友達などと......くだらん)
その思いとは裏腹にイバンは空を見つめながら考える。己の生は孤独なものだった。しかしそれで最強になれたのだからそれで良かった(クイーンスパイダーに負けたけど)しかし、友がいれば自分の生き様は変わっていたのであろうか。
イバンはそんなふうに考え、自身の半生を振り返り始めた。
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