36話 逃走劇
建物が周囲全て崩壊した荒地でリビングデッド達に囲まれたルナとイバンだったが実はイバンは魔力感知を全く行っていなかった訳ではない。むしろそれなりに頻繁にやっていた。
だが、その魔力感知の精度が問題だった。更地なので周囲を見渡せるというこの場所なら基本的には目視での警戒で事足りるとイバンは考えていた。それでも一応の保険とクロウド探索を兼ねて魔力感知は度々発動させておきたい。しかしそんなことをしていると一向に魔力が回復しない。
そこでイバンは折衷案として精度を落とした消費魔力の少ない、いわば劣化魔力感知を使うことにしたのだ。これはリビングデッドやスカイアリゲターなどの魔力の少ない生物は感知できないがそれらは目視で警戒しておけば問題ないと考えていた。しかし危険は意識の外、瓦礫の下にあった。瓦礫の下にリビングデッドが潜んでいるなんて想定外だったのだ。
こうしてルナとイバンは見える位置におらず劣化魔力感知にかからないリビングデッド達に急襲をくらったわけだ。
そしてこれをイバンはこう考える。
「我の責任だな」
イバンはクロウドを探し、その代わりにルナはイバンのダンジョンからの脱出を手伝う。彼らの関係はそれだけの協力関係だった。
しかしイバンは言葉には出していなかったが協力関係になる上で魔力感知によるモンスターの警戒も自身の役目だと認識していた。本来そんな約束も契約もない。モンスターの警戒などいわばイバンが勝手にやっていたボランティアだ。だがイバンは妙なところで律儀だった。
「おい、小娘!掴まれ!」
イバンは翼を羽ばたかせ宙を舞い、ルナの頭上へ移動する。そうして後ろ足を差し出した。
「助かる!」
ルナはすぐにその足に掴まった。イバンは翼を強く羽ばたかせ高度を上げる。リビングデッド達の攻撃は間一髪でルナに当たらなかった。
イバンは羽ばたきルナはそれに捕まり二人(正確には一人と1匹だがめんどくさいのでこう表記する)で空を飛ぶ。しかしそれも長い間は持ちそうもない。
「流石に重いな!仕方ない、一旦魔物共が少ないところに降りるぞ!」
「嘘っ私そんなに重い⁉︎」
言ってる場合ではない。
今のイバンは1匹で飛ぶだけでもそれなりに辛いのでそこに人間1人分の重さが加わると当然まともに飛ばなくなる。
イバンはゆっくりと高度を下げながら飛び比較的リビングデッドの少ないところに着地した。
「とにかく先に走るぞ!」
後ろには多くの敵。前にも敵がいるが後ろよりかはマシだった。それはルナも分かっていたので迷わずに走り始める。
「こいつらの攻撃は一発でもくらったらアウトだから!」
ルナはクロウドに教えてもらった知識をイバンに伝える。リビングデッド達に傷をつけられたら同じくリビングデッドになる。そのルールがドラゴンであるイバンにも適応されるかは分からなかったが用心するに越したことはないだろうという判断だった。
(だけど無駄な心配だったかな)
イバンはその小さな体を活かしてリビングデッド達の間を身軽にすり抜ける。一向に攻撃が当たる気配はない。この非常事態にデメリットばかりの小さな体の利点を上手く活かした、人生経験の豊富さゆえ出来た技だと言えよう。
(さて、こうなると心配なのは私の方か......)
そう、イバンよりも体の大きなルナはリビングデッド達にとって格好の獲物だ。避けながら進むなんてことは出来ない。
(倒すのは容易だけど一発くらうだけでアウトっていうのが理不尽すぎ。迂闊に直接攻撃出来ない)
ルナは前に立ち塞がるリビングデッド達の突破方法を考える。だが周囲から着実にリビングデッド達は迫っているので時間はない。そんな焦るルナの視界に地面に無数にばら撒かれた瓦礫が入った。
(これだ......!)
ルナは閃き、早速瓦礫を掴む。それがルナの予想通り軽く掴める。ルナの「力」の恩恵だ。
ルナは思い出す。
ルナ‘sキッチンを終えて7層に到達する期間にクロウドはルナに語ったことがあった。
『単純に筋力が強いってのは変に凝った魔術なんかよりもよっぽど強い武器になる』
『なんでです?力が強いだけって単純な気がしますけど』
『単純だからだよ。単純だから使い方が沢山ある。応用が効くんだ。色んなことに応用できる力ってのは冒険者やってると便利だし強力だぞ』
回想終わり!
(あの時は応用ってのがピンとこなくてただ殴ることしかしてこなかったけど今分かった......!)
「応用ってのは......!」
ルナは瓦礫を掴んだ腕を大きく振りかぶる。
「こういうことだァァァ!」
ルナは振りかぶった腕でそのまま瓦礫を前方のリビングデッドに向かって投げ飛ばした。投げ飛ばされた瓦礫はプロの投手が投げたストレートのようにまっすぐと脅威のスピードで飛んでいき、それに当たったリビングデッド達はボウリングのピンのように吹き飛ばされた。
「よぉし!」
ルナは走りながらガッツポーズをする。これで前方の逃げ道が空いた。
(あの小娘魔力も少ないのにやるな)
イバンは追ってくるリビングデッドから逃げながら感心する。
(これで二人揃って逃げれそうだな。別にあの小娘が死のうが何も思わぬが居ないとクロウドとやらの協力が得られぬだろうからな。生きていてもらわないと困る)
そんな風に考えるイバンを新たな脅威が襲う。
後方のリビングデッドの群れの中から唐突に風の刃がイバンの方へ向かって飛んできたのだ。それはイバンに擦り地面の瓦礫を削った。
「な、何ぃ!これは「風刃」か!」
イバンは驚愕を隠せない。「風刃」は何もイバンの専売特許という訳ではない。人間でも練習すれば問題なく使えるだろう。しかし問題がそこではない。
(だが何故後方から魔術が飛んでくるのだ!ルナが我に飛ばす理由はない!というか使えるとは思えない。新手の魔術師がいるのか?)
イバンは急いで魔力感知を使う。これで周囲に魔術師がいれば分かるだろう。しかし魔術師の反応も新たな人間の反応もない。だが一つ、明確な異変をイバンは感じ取った。
(明らかに魔力が膨れ上がっているニンゲンモドキが何匹かいる)
そう、一部のリビングデッドの魔力が強くなっていたのだ。それはまるで人間が魔術を使う時のようだった。
イバンは察して後方を確認する。そこには丁度「風刃」を再び発動させているリビングデッドが見えた。
「小娘、こいつら魔術を使うぞ!」
イバンはルナへ目掛けてそう叫んだ。
ルナがその言葉に反応しイバンの方を向いたその時、野球ボールほどの大きさの火球がルナの髪を掠った。
「ほんとだ熱!」
それを皮切りにいくつも後方から魔術が飛んできた。ルナとイバンはそれをなんとか躱しながら走る。幸いだったのは簡素で威力の低い魔術ばかりだったことだ。そのおかげでたまに掠ることはあっても二人共致命傷は負っていない。
そして逃げていると二人の目にそれが写った。
「建物が見えた!瓦礫地帯が終わる!」
ルナが叫ぶ。リビングデッド達とルナ達ではルナ達の方が少し速い。このまま建物の間を縫って逃げれば撒くことができるだろう。
「魔力感知をしてみたが街の方に魔物の気配は殆どない。このまま逃げ込むぞ!」
そうして二人はラストスパートだと言わんばかりにスピードを上げる。勿論飛んでくる魔術の攻撃も避ける。このペースでいけば順当に逃げ切れるだろう。
——しかしここで、イバンをとてつもない疲労が襲う。
イバンの現在の体は消耗が激しい。だがイバンは疲労を直前まで認識することができない。それは元の体から現在の体に移る際に起きる不具合と言ったところだろう。そのせいでイバンは前に急に飛べなくなり煙突へ落ちたのだ。
そして今、その時が来た。イバンの足が急に言うことを効かなくなる。
(まずい......!そろそろ限界が来そうなのは分かっていたがどうしようも出来なかった......!)
足が動かなくなり前向きに倒れる。そこを狙い澄ましたかのようにリビングデッドが放った火球が燃やしにかかった。イバンにそれを避ける手段はない。
しかしそれがイバンに当たることはなかった。
「危ない!」
ルナが庇うようにイバンと火球の間に入っていたのだ。そして火球は必然的に直撃した。
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