32話 同盟
「で、貴方なに?」
喋るチビドラゴンに正面から向かい合って聞く。さっきドラゴンとぶつかって後、気を取り直して色々と謎なこのドラゴンと対話しようというわけだ。むこうも敵意はないらしい。特に攻撃とかはしてこなかった。
「ふん、まずは貴様が名乗れ......と言いたいところだがまあ許そう。今の姿では我の偉大さが分からんのも仕方あるまいからな」
やたら偉そうなヤツだな。モンスターって全員心の中ではこんな感じなのかな。喋るモンスターって初めてだから具合が分からない。
「我が名を聞いて慄け!我は龍帝。世界の覇者であるぞ!」
「へえ......」
そんな小さな体で世界の覇者とは大きく出たな。ていうか龍帝って名前なの?
「......へえってなんだ。目の前に龍帝がいるのだぞ。もっとこう......大袈裟に反応するだろう普通」
「いやまず龍帝が誰かしらな......」
言いかけて気がつく。
この自信満々な態度。さも自分が知られていて当然って感じの顔。私が記憶喪失だから分からないだけで「龍帝」って実は世界規模の有名人(有名ドラゴン?)なのでは。
ここで知らないって言ったら訝しがられる。最悪記憶喪失がバレるかも。記憶喪失ってことをこんなよく分からないヤツに知られない方がいい。適当に話を合わせよう。
「りゅ、りゅうてぇ〜だと〜!どっひゃー、こりゃすげえや!」
私は渾身の演技をする。これは自然だっただろう。ドラゴンの反応は......?
「大袈裟に反応しろと言ったのは我だが......大丈夫かお主」
めっちゃ引いとる〜。めちゃくちゃ眉間にしわよってるよ。そんなに演技下手だったかな。自信あったんだけど。
「まあ我の偉大さが分かるならいい。それより小娘。お主も名乗れ」
取り敢えず納得してくれたようだ。
「私はルナ。冒険者をやってる」
与えるのは最低限の情報でいい。喋ると言っても相手はモンスタ
ー。敵か味方か分からない。多分敵だと思うけど。
「冒険者?具体的にはなにをするのだ?」
「......知らないの?」
いや、モンスターだったら知らなくても不思議ではないのかな。
「ここダンジョンを探索、攻略する仕事」
これはクロウド君の受け売りなんだけど。
「そうか、この地下空間はダンジョンと言うのか。全く変な場所だ」
「え......」
さっきのは流石に聞き逃せない。
「ちょっと待って貴方ここのモンスターなんだよね?」
クロウド君の話ではダンジョン以外にモンスターはいないはず。それなのにダンジョンに対して初見のような反応している。妙だ。
「いや、我は何者かの転送魔術でここに連れてこられただけだ。悠々と空を飛んでいたら急に光に包まれてな」
......そういえばスカイアリゲターが現れるときは突然光り始めた後現れた。まるで何処かから連れてこられたかのように。
このドラゴンも何処からか連れてこられたってこと?いやでも外にはモンスターはいないはずだし。前にクロウド君にチラッと聞いた魔獣ってやつかな。
「ところで小娘、一緒にいた男は何処へ行ったのだ」
「え、なんで知ってるの」
「いやお前我のことを影から見ていただろう。あの男と共に」
「.....あ、はい」
バレてたのか。私もクロウド君もバレてないものだと思ってた。少し恥ずかしい。というかこのドラゴン。あの時のドラゴンと同一ドラゴンだったのか。なんでこんなにちっちゃくなってるのだろう。
「共にいないと言うことは......ああ、死んだか」
「死んでない!不吉なこと言うな!」
この状況だと冗談にならない。
「じゃあ見捨てられたのか......」
「見捨てられてない!」
「ならばはぐれたのだな」
「......ち、違う」
図星だがわざわざこいつに教えてやることもない。
「だがこれ以外に選択肢があるか?」
「貴方に教える必要ないでしょ」
「ふむ......そうか。はぐれたのであれば我が探すのに協力してやろうと思ったのだがな」
ガタっとつい立ち上がりそうになる。
「はぐれたのだな」
ドラゴンがニッと笑う。ぐぬぬ悔しい。
「それよりさっき話は......」
「ああ本当だ。我は周囲の魔力を探れる魔力感知という魔術を使える。これを使えばそうだな、この体であれば半径3km以内にいたなら分かるだろう」
......そんな魔術があればクロウド君との合流が容易になる本当なら即刻乗るような美味しい話だ。だが不可解だ。
「それをして貴方になんのメリットがあるの?」
そう、私に協力する意味がドラゴンにあるとは思えないのだ。
「何、簡単な話だ。代わりに我がここを出るのに協力してくれればいい。ダンジョンと言ったか?こんな地下空間はジメジメとたまらん」
「なるほど......いやなるほどじゃないな」
やはり不可解だ。要するにこのドラゴンは私に協力関係を申し込んでいるわけだが、こいつにそんなまどろっこしいことをする理由はないはずだ。
だってそんなことをせずとも私を脅せばいいのだ。ここから出る方法を教えろって。だって先刻の様子を見る限り相当の強さなのだから。
だけどドラゴンは今それをできない。そもそもクイーンスパイダーとの戦いはどうなったのか。どうして小さくなっている?
様々な要素から導き出される答えは——
「ああなるほど」
「あ?」
「なんらかの要因で弱くなってるんでしょ。今の貴方」
「むっ......」
私はニッと笑う。ドラゴンは図星でぐぬぬって顔だ。
私の考察はこうだ。まずここに来たドラゴンはクイーンスパイダーと戦うことになった。しかし負けてしまう。それでなんやかんやあってこの小さな体になった。その小さな体ではろくに戦えず私を脅すこともここから脱出することもままならない。だから私と協力することで窮地を脱しようという魂胆なわけだ。
名探偵かな?
「......まあよい。貴様の言う通り今の我は弱い。ある魔術の影響でな。ともすれば貴様にも勝てないやもしれんな」
「素直に認めるんだ」
「ああ、見破られたからには誠意を持って接しよう。娘、貴様我と協力しろ。互いに協力する意味こそあれど争う意味はないはずだ」
......正直言って迷っている。
相手はモンスターだ。信用できない。協力したとしていつ後ろから刺されるか分かったもんじゃない。
だがこいつの力を利用すればクロウド君と合流出来る確率がグッと高まる。合流できれば道に迷うこともないだろう。
「うーーーん」
迷う......迷うが......!ええい!私は生き残るんだ。モンスターだって利用してみせる!
「じゃあよろしく!」
「うむ、ではこれから我らは利害の一致した協力関係、いわば同盟だ。仲間や友ではないから勘違いするでないぞ」
ふん、どっちでもいいよ。可愛げがないなこいつ。
「じゃあまずクロウド君を探そう。そうすれば道も分かるから取り敢えず7層からは脱出できる」
「7層?このダンジョンに関してもよく聞かせてもらうぞ。ではとりあえず休憩も出来たし行くとするか」
ドラゴンは早速行こうかと扉の方へ歩く。飛ばないんだ。
「あ、ちょっと待って。貴方のことなんて呼べばいい?龍帝は名前じゃないでしょ?」
私の言葉を聞いてドラゴンは顎に手をやって悩み始めた。
「呼び名か......好きなように呼べばいいが、親にはイバンと呼ばれていたな」
「じゃあそれで。よろしくイバン」
こうして私とイバンの「同盟」はそれぞれの目的に向け歩き始めた。
「ところでお主は道が分からぬような口振りだったが地図などはないのか」
「ああ、あるんだけど現在地が分からないから意味ないんだよね」
「まあ見せてみろ」
意味ないと思うけどなーと私はカバンから地図を取り出しイバンに渡す。
「ふむふむ......今我らがいるのはここではないのか?」
「えっ?」
「ほれ、ここの道がこうなっているからここと同じに」
「ほ、ほんとだ!ど、ドラゴンってすごいんだね!」
まさかこんなすぐに分かってしまうとは。これでは私がバカみたいではないか。
「これが分からなかったのか。ドラゴンがすごいというより......お主がバカなだけだな」
「んなっ!あ、それより地図見ないでよ。道がイバンに分かっちゃ意味ないじゃん!」
「あ、こら離せ!愚弄するなよ小娘。我は今まで約束を破ったことがないのだぞ!道が分かってもクロウドとやらはキチンと探してやるわ」
「いや信用なんねーから!」
「なんだと!さっきから生意気だぞ小娘!」
こうして「同盟」は見事に初手喧嘩という最悪なスタートを切ったのだった。これから大丈夫かな。
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