31話 弱者の魔術
クイーンスパイダーはその足で龍の体を引き裂き続け、息がないのを察したのか静かに去った。
血塗れになった龍の体が地面に横たわる。翼は破れ、肉は裂け、血は噴き出し、息は既にない。その体がこれから動くことはなく、それは既に命あるものの体ではなくただの肉の塊だった。
その肉の塊の腹から、ひょっこりと小さな生き物が顔を出した。
「クソ、この魔術を使うのは相変わらず気分が悪い」
その生き物が小さく呟く。
それは魔術で姿を変えた龍だった。小さくなって声まで低音から男子小学生のような高さに変わっている。
「これではしばらく戦えん。癪だが早めに離れるべきか」
そう言って龍は静かに羽ばたいた。
龍が使用した魔術は変身魔術「尻尾切り」という。自身の肉体を捨て新しい小さな肉体を作りそっちに乗り移ることが出来るというものだ。龍は今でこそ最強になってしばらく使っていなかったが弱かった時代は多用していた。
(しかし元の体に戻れるように魔力が回復するまで数ヶ月はかかるな......厄介なことになりおった)
「尻尾切り」で作った肉体は魔力量が少ないが時間をかけて魔力を貯めれば元の肉体に完全に戻ることが出来る。だが魔力の回復量が遅くかなり時間がかかる。その上魔術を使ってしまえばその分貯めた魔力が減るので非常に不便なのだ。
(とりあえずこの地下空間から脱出するとしよう。この体ではしばらく食わねばすぐに死んでしまう上今度蜘蛛に見つかれば死あるのみだろうからな)
そのためにまずはこの場所のことを把握しようと龍は街の上を飛んだ。
龍は上空(と言っても地下だが)から見える範囲の様子を確認する。
(ふむ......広すぎて全容は把握できんな。ところどころ崩壊していて、他は何も変哲のない民家が並んでいると)
そこまで考えて龍はあることに気がついた。
(なんだ?北の方にやたら家が崩れている場所があるな)
龍が見つけたそこは一帯の建物が殆ど崩壊し焼け野原になっている。
(まずはあそこへ向かうか。何処へ行けばいいのかも分からんしあそこなら見晴らしもいいだろう)
龍はそう決めてその場所へ向かって再び飛び始めた。
(しかしこの体でいると昔を思い出すな)
龍は久々の感覚に飛びながら過去を思い返す。
(この体でいるときは大抵何かから逃げたあとだったからな。懐かしい。貝を集めていたら巨大ヤドカリに殺されかけた。兄達のふざけた遊びで危うく死にそうになってこの術を使ったこともあったな。人間共に槍を刺されまくって死にかけたことも......うむ、やはり思い返すのはやめておくか)
当然「尻尾切り」を使った時の記憶というのは死にかけた記憶と同義なのでろくな思い出ではない。ちなみに龍にこの術を使った記憶が幾つもあるのは何度も死にかけるような龍生(人生の龍版)だったと言うこと。いわばこの術は弱かった龍が生き残るために身につけた生存戦略なのだ。
そんなことは端に置いておいて龍はある体の異変に気がついた。
(なんだ?少ししか飛んでいないのに酷く体が疲れている......!)
龍は酷く疲労を感じていた。これは先程の戦いの疲れではない。「尻尾切り」で新たな体になった時点で疲労は全てリセットされている。
(そうだ......!この小さな体は酷くスタミナが少ない。少し飛んだだけで疲労を感じて体が動かなくなるのだ)
この術を使うのが久々で龍は忘れていたのだ。今の体が欠点だらけだと言うことを。
(まずい、既に体の自由が効かない......!)
徐々に翼が動かなくなり龍が落下する。
(だが高度を下げて飛んでいたのが幸いした!このまま屋根に落下してしばらく体を休めて......いや待て、今我の真下にあるのは屋根でも地面でもなく、)
「煙突だ!」
龍は煙突から家の中に真っ直ぐ落下した。
どかーん!
龍は煙突から暖炉の中に着地、はできていない。頭から落ちて体を打った。
「いたたたた」
龍は埃にまみれながらのそりと立ち上がる。
(かなり痛いが......怪我はないな。まあ丁度いい。この家に身を潜めて休憩するか)
龍はそう考えて痛みを我慢しフラフラと暖炉から出る。
龍は普段魔力感知で周囲の魔力を探っているので余程遠くから攻撃しない限り奇襲は通用しない。
だがこの時龍は魔力を貯めるために魔力感知をやめていた。だから気づかなかったのだ。部屋の隅。タンスの隙間から龍を見ている獰猛な獣の存在に。
バン!タンスが開く。
「うおおおおおお!」
タンスの中から少女が飛び出して龍を襲った。それに遅れて龍が気がつく。
「わあああああちょっと待て人間!」
今の状態では避けれない。このまま攻撃を喰らえばただでは済まない。龍はその少女を制止した。
だが少女は止まれない。少女、ルナはそのまま龍の方へ飛び込んできた。
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