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30話 龍の話−2

 龍は過去を思い返す。


「お前は自由だ。何処へなりとも行くがいい」


 龍は10歳の時に父にそう言われた。その真意は優秀な兄達に比べて自身の才のなさを悲観しての追放なのだということは幼い龍にも分かっていた。


 その真意を踏まえ発言を改めて聞いてみると非常に冷酷に思えるだろう。少なくとも人間の基準では毒親、いやそれ以上に非情な親だ。


 だが強さこそが全て、気に食わなければ身内でさえも躊躇なく殺すのが多くの龍種の生き方だ。そう考えると不良品の息子を処分するのではなく追放で済ませた龍の父の判断は温情に満ちたものだと言えよう。むしろ強い兄達に殺される前に追放という形で逃した、そんな最後の親としての愛だという風にも思える。


 そんな父の言葉に龍は特に何も言わずにただこくりとうなづいた。


 家族の元にいれば家族が怖いし家族の元を離れれば外敵が怖い。どちらも龍にとってはそう変わったものではなかった。


 そうして龍は冷え切った山の空気を小さな翼で切り裂き家族の元を飛び立った。その光景を父は一瞥して興味を失ったようにそっぽを向いた。


 それから龍は色んな場所を旅して色んなものに触れた。世界には今まで食べたことのない美味いものが沢山あった。兄弟を超える強さを誇る生物も沢山いた。思わず涙を流してしまうような美しい景色も沢山あった。世界には龍の知らないものもことも沢山あった。


 旅するうちに龍は他の龍達のコミュニティに出会った。


 そこでは様々な龍種が群を作って狩り食事などを共にしていたのだ。龍はそこの龍種に敗北し流れでそのコミュニティに入ることになった。


 そこでの龍の仕事は主に雑用だ。食糧の調達、拠点周辺の調査など弱い龍に任せられる仕事だ。


 龍は生きるためにその仕事に懸命に励んだが他の強い龍達からは嘲笑われた。当然、友も出来なかった。龍は集団の中でも孤独だった。


 龍は家族の元を離れ、旅をして、コミュニティに入った。その中で変わっていくものばかりだったがただ一つ今までもこれからも変わらないものがあった。


 ただ一つ、1人で寝る夜は酷く寒い。それだけはずっと変わらなかった。


 (そういえばなぜ我は戦闘中に過去を思い返しているのだ?やけに時間の流れが遅く感じる。は!聞いたことがある。これは......走馬灯というヤツか!)


 クイーンスパイダーに溜めた濃縮ブレスをぶつけた龍だったが実はブレスをもっと長い時間溜めるつもりだった。実際に溜めることができた時間よりもあと4、5秒は溜めるつもりだったのだ。そうすることでようやくクイーンスパイダーのシールドを突破できる見込みだった。


 しかしクイーンスパイダーの想定外の攻撃により時間はなくなり、想定よりも火力の低いブレスを撃つことを余儀なくされた。だが龍はこれを想定よりも近い距離で撃つことで火力の低さを補った。想定以下の火力を想定以上の距離の近さでイーブンにしたのだ。


 その機転により火力の低さはカバーされ目論み通りシールドを破ることは出来た。だが、それだけでは足りなかった。


 龍がブレスを吐き終わった瞬間、煙の中からクイーンスパイダーが顔を出し、その足で龍の翼を裂いた。


「ぐ、がアアアあぁアアア!」


 龍が走馬灯から我を取り戻す。龍は魔力感知で無意識にクイーンスパイダーの生存を確信していた。そして生存しているということはブレスを撃ったばかりで疲弊している自分がクイーンスパイダーに殺されるであろうことも無意識に理解していた。そのことから龍の脳がもうじき死ぬと判断し走馬灯を流していたのだ。


 これは龍の考えが甘かったのではない。クイーンスパイダーという存在が異質すぎた。


 ただ単純にクイーンスパイダーは自身が張っていたシールドよりも体のほうが強かったのだ。


 なのでシールドを破れるほどの火力でもクイーンスパイダーには傷一つつかなかったというわけだ。


「があああ!」


 クイーンスパイダーの足が龍の翼を裂き、体に突き刺さり、命を狩りにいく。龍とクイーンスパイダーは共に地面へ堕ちた。龍が必死の抵抗をしようとクイーンスパイダーに噛みつこうとするが復活したシールドに阻まれる。もっともシールドがなくともダメージはなかっただろうが。


 (くそ、ダメージが大きすぎて魔力が練れん!我がこのまま死ぬ前に使えたとしてあと一つ。それもあまり高度なものは無理だ。何を使えばこの状況を打破出来る!)


 龍は足で刻まれ血を噴き出しながら考える。そもそも龍はこの状況からクイーンスパイダーを倒すことの出来る魔術など使えない。ならば如何にして足に糸をつけられ密着されている現状から生き延びるか、どの魔術を使えば生き残ることが出来るかという展開に既に変わっているのだ。


 しかしながら龍はどの魔術を使えば生き残れるか、その答えを既に持っていた。


 だがその魔術を使えば龍は戦う力を失いこの場から逃げるしかなくなる。それは実質的な敗北であり龍にとっては何者にも変え難い屈辱だった。しかしそれしか生き残る術しかないことを龍は理解していた。


 (ぐうううううううう!クソおおお!)


 瞬間、クイーンスパイダーの足が龍のうなじを突き刺し龍の体は生命体からただの肉塊へと化した。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字や評価、感想などありましたらよろしければ書いていただけると嬉しいです


今日からしばらく午後5時に投稿します

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