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29話 ラウンド1

 ぞくぞくと集まるリビングデッド達を龍は口から炎を吐いて焼き尽くす。周囲に熱風が吹き荒れる。その様子を1人の人間、クロウドが煙突の影から見ていた。これはクロウドとルナが散開する前、24話時点の話だ。


 (人間共も来ているな。まあ後回しでいいだろう。まずはこの溢れるニンゲンモドキ共を削ってやるわ)


 龍はクロウドに気が付いていたが特に気に留めることもなくリビングデッド達を焼き続ける。


 人間に追い詰められた経験はあるがここにいるのは精々2匹。しかも一体は中の上程度、もう片方に至っては下の下。魔術なんて一切使えないレベルの魔力量だ。だから放っておいても自身に大した被害はない。ならば先にヤツの眷属であろうリビングデッド共を始末しておく。そういった龍の判断だった。


 実際にその判断は合っている。クロウド達は龍に攻撃する理由も方法もない。そしてリビングデッド、龍風に言うとニンゲンモドキ。それらを減らしておくのは状況に適した判断だと言える。何故なら、ヤツとの対峙はもうすぐそこまで迫っていたからだ。


 (———来たか!)


 魔力感知は周囲の魔力を探る上級魔術だ(カナリヤでは探知観測魔術と呼ばれる)


 そんな魔力感知にも幾つか種類はあるのだが今回龍は広範囲に渡って魔力の反応を感知するものを使っていた。つまり龍はヤツの動きを常に把握していた。


 そう、龍は把握していた。自分がここに来てすぎは動いていなかったこと。ニンゲンモドキ達を倒し始めてから十数分でこちらに近づき始めたこと。


 そして猛スピードで移動を始め今。ここに到着したこと。


 (蜘蛛か......!)


 龍はその姿を一瞥する。


 ヤツが来たのだ。鎌のような8本の足。巨大な瞳。体中から生えた煙突のような突起。そして異質かつ膨大な魔力量。


 クイーンスパイダーだ。


「GAAAAAAAAA!」


 龍はクイーンスパイダーに向かって吠える。その音は空気を揺らし地響きを起こす。龍にとってこれは攻撃ではない。威嚇だ。その辺の人間やモンスターに対しては吠えるだけで十分な攻撃になるだろう。現にクロウドやルナは耳を塞がないと鼓膜が破れていたしリビングデッド達はもがき苦しんでいる。しかしクイーンスパイダーに直接的にダメージが入らないことを龍は理解していたのだ。


 だが威嚇としては効果があった。自分にダメージないとしても常識はずれの声量、巨大な音はクイーンスパイダーを怯ませるのには十分だった。


 (2度は効かんだろうな。ではまず小手調べといこうか)


 龍はかつてない強敵の登場に退屈を忘れ内心喜びながら飛び上がった。その巨大な両翼を羽ばたかせる。


 変異魔術「風刃」


 龍は翼を羽ばたかせ起こした風を魔術で変異させ何本もの風の刃に変える。そうしてできた刃は風の速度でクイーンスパイダーに迫った。


 しかしその攻撃はクイーンスパイダーの体にいともたやすく弾かれた。否、厳密には体に届いていない。クイーンスパイダーの体を薄く覆う魔力のシールドに弾かれたのだ。


 (シールド......魔術というにはあまりにも原始的なものだ。その魔力量ゆえに頑丈だが分かった上でやっているのか......?)


 攻撃を耐えたクイーンスパイダーは龍を睨みその8本の足で跳んだ。その脚力は巨体をいとも容易く龍のいる高度まで浮かせた。


 そのまま足を振り龍に襲いかかる。龍はその攻撃をヒラリとかわす。翼をもつ龍とただジャンプしか出来ないクイーンスパイダー。空中戦での龍の有利のは明らかだった。


 クイーンスパイダーは何度もジャンプし攻撃を試みるが龍はそれを容易くかわす。さらにはかわす合間に「風刃」を飛ばす。だがそれはやはりシールドに阻まれ無駄に終わる。


 (だがわかったことが一つある......!蜘蛛は自身がシールドを使っていることを理解していない。魔力感知で魔力の流れを見てみたがあまりに無駄が多くチグハグだ。魔術を使える生物の魔力の流れ方ではないのだ。つまりあのシールドは蜘蛛が本能で無意識に発動させた自己防衛だ。蜘蛛には魔術を意識して使う知恵も理解する知能もない。


 ——ならばこれは聡き賢者との決闘ではなく、ただ圧倒的な体躯を持った獣を狩るただ純然なる狩猟だ......!)


 それならばやり方を変えようと龍は高度を上げる。


 龍は考える。人は熊に生物としての強さは大きく劣る。だがいつだって狩る側は人だった。理由は単純。知恵と知性に大きな差があるからだ。力ある知性なき者は策を弄する知性ある弱者に狩られるのだ。


 (蜘蛛に知性がないというのなら今回も同じこと。知恵を蓄えた我が華麗にただの強者を狩ってやろう)

 

 攻撃が通らなければ当然龍に勝ち目はない。勝利するため、クイーンスパイダーを狩るためにはシールドを突破することが絶対条件だ。


 つまり龍はシールドを突破するための強力な矛を用意する必要がある。そして龍はその矛を用意する算段があった。


 地面から50m、龍は大きく息を吸い喉元に魔力を集める。そしてその集めた魔力を炎に変換し圧縮する。そうして宙に留まりながら喉元に炎と熱を溜め続ける。この濃縮した炎をクイーンスパイダーにぶつけてシールドごと焼き尽くすというのが龍の算段だ。


 (恐らく普通のブレスではダメージを与えることができずに「風刃」同様、無意に終わるだろう。故にヤツのシールドを突破できるようになるまで熱を溜める......!)


 龍の飛ぶ高度ならクイーンスパイダーの攻撃は届かず安全に熱を溜めることが出来るというのが龍の見通しでありこの作戦を実行できると思った理由だった。


 だがその見通しは仮にも第7層の主人であり最強の生物であるクイーンスパイダーを侮りすぎたものだったいう他ない。


 龍の真下、意識と視界の死角から白い糸が伸びてきた。それは龍の足にくっつく。


「蜘蛛が出したものか......!」


 糸が縮み始める。したにはクイーンスパイダーがぶら下がっていた。


 (これでくっついて直接攻撃しようという魂胆か!)


 龍は「風刃」を出し糸にぶつける。しかし糸は形を歪めるだけで傷もつかなかった。


 さらに追い討ちをかけるように自身の高度が下がり始めたことに龍は気がついた。


 (くそ......!蜘蛛の重さでまともに飛べん!)


 バタバタと龍は翼をばたつかせるが一向に高度が上がる気配はない。その間にもクイーンスパイダーは龍に近づく。


 (逃れるすべはないか......!ならばそれに対応するのみ。残りの時間は......)

 

 20、19、18と龍は頭の中で数を数える。龍とクイーンスパイダーの距離が少しずつ縮まる。龍に攻撃できる距離になるまであと15秒もないだろう。


 13、12、11、龍は熱を溜めながら「風刃」を撃つ。もちろん龍もこれでダメージを与えられるとは思っていない。これは単なる時間稼ぎだ。クイーンスパイダーは「風刃」に怯むながらも着実に迫る。


 8、7、6、「風刃」で時間を稼いだおかげでクイーンスパイダーの進行は確実に遅れていた。しかしもうすぐそこまで迫っていた。


 5、4、3、クイーンスパイダーの鎌のような足が龍に迫る。それを龍はあえて羽ばたくのをやめ高度を一気に下げることによって回避する。


 2、1、そして龍は、クイーンスパイダーの眼前で口を広げた。


 0。溜め続けた熱と炎が解放され、熱線となり熱風を生む。その灼熱が、クイーンスパイダーを灼いた。

読んでいただきありがとうございます。

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