26話 またねの約束
スカイアリゲターの集団から逃げることに成功したオレ達は6層に向かって歩き続けていた。本当は走った方がいいのだろうが流石に体力の限界だ。
かと言ってこの好機に立ち止まって休むわけにも行かない。6層の入り口まで直線距離で後100km(実際に移動する距離はもっと長くなるだろう)5日で踏破する予定だったが今日出来るだけ進めれば大分時短できそうだ。
取り敢えず今日は後3時間歩く。オレは平気だがルナはどうだろう。後ろを振り向く。
「?どうしました」
「いや......」
汗一つかいていない。体力に関してはむしろオレの方が心配ということか。
とまあこに調子でスムーズに移動できれば生還も余裕なのだが......。
ダンジョンはそんな甘い場所ではない。
「......!隠れろ」
ルナと共に建物の影、路地裏に隠れる。前方でスカイアリゲターが数匹飛び回っていた。
大した数ではないが先程の場所だけでなくここにもいるのか。こうなると常に警戒しておいた方がいいな。
「数匹だけですし倒せばいいんじゃ?」
「いや、不必要な戦闘は避けたい」
他にも潜んでいる可能性があるしすぐに仕留められなければ他のモンスターが寄ってくるかもしれない。その旨をルナに伝える。余計なリスクを取るべきではないだろう。
「迂回して行こう」
そう言って振り返ると、建物の角からリビングデッドが出てきた。
「——!」
リビングデッドがこちらを認識する。周囲に居たのか。ぬかっていた。
だが、ミスをしたなら即座に取り返すだけのこと。オレは叫ぼうとするリビングデッドの喉を切り裂き頭を潰した。
リビングデッドは敵を見つけた時叫んで仲間やクイーンスパイダーを呼ぶ習性がある。それさえさせなければ倒すのは容易だ。
「流石の手際ですね。すごい」
「へへっ」
ルナがオレのエレガントな手際を見て感嘆の声を漏らす。もちろん褒められて悪い気はしない。
「まあオレは一流の冒険者だからな。5匹でも10匹でもまあ余裕よ」
オレは調子に乗って調子のいいことを言う「分かりやすく調子乗ってる」とルナに突っ込まれてしまった。
その時さっき角からリビングデッドが10匹まとめて出てきた。
「わあーー!」
ルナが叫ぶ。これはまずい事態になった。長年の経験がそう告げている。
「あ、でも10匹ぐらいは余裕って言ってましたよね
!」
「ごめんやっぱ無理!」
見栄は張るものではないな。
リビングデッド達が叫ぶ予備動作に入る。この数は止められない。
「逃げるぞ!」
ルナの手を引き建物の影から出ようとしたその時、羽虫のような不愉快な羽音がオレ達の前に立ちはだかる。
スカイアリゲターだ。さっき見つけた奴がオレ達に気が付いたのだ。
数は4匹。通常であれば楽勝だが今は後ろからリビングデッド達が迫っている。
———一瞬で仕留める!
手前に1匹。その後に3匹。敵の配置を確認する。
まずは手前の1匹。ナイフで顎から脳を突き刺し絶命させる。ナイフが頭から突き出し血が溢れる。
そのまま刺さったスカイアリゲターごと右後方にいる2匹目に目がけてナイフを振るった。顎から頭まで貫通したナイフの刃先が2匹目の眉間に刺さる。そのまま壁へ激突させ息の根を止めた。
3匹目のスカイアリゲターが迫る。右手は2匹のスカイアリゲターを仕留めたナイフで塞がっているがオレにまだ左手が残っている。
左手で腰の発炎刀を抜き3匹目のスカイアリゲターの喉笛を切り裂いた。
だが、それだけではスカイアリゲターは絶命しなかった。切れた喉から血を吹き出させながらオレの腕に噛みついてくる。じきに死ぬだろうが最後っ屁という奴だろう。
「くそ!」
痛みが噛みつかれた箇所から走る。こいつに対した攻撃力はない。軽傷だろう。だがこの噛みつきによって負ったダメージではなくできた隙が問題だ。
すかさず4匹目がオレを殺りに来る。まずい。反撃できない!うしろではリビングデッドの叫び声が聞こえる。今スカイアリゲターの攻撃をもろにくらえばリビングデッド達から逃げられなくなる。オレは一瞬死を覚悟した。
しかし、現実は有情だった。ルナが4匹目のスカイアリゲターの上から殴った。スカイアリゲターはその勢いのまま地面に激突する。惚れちゃいそうだ。
ルナがこちらを振り返る。オレはすかさず判断を伝えた。
「逃げるぞ!」
ルナが前を向いて走り出す。オレも腕に噛み付いたスカイアリゲターを外しルナに続く。
オレ達は危機一髪で路地裏から脱出し通りに出た。さっき襲ってきたスカイアリゲターが飛んでいた場所だ。そこは既にリビングデッドで溢れていた。スカイアリゲターはもう周囲にはいなさそうだ。姿が見えない。
「うわっ多すぎでしょ!」
「屋根に登るぞ!」
丁度近くに窓や装飾で凹凸が多くて登りやすそうな壁があったのでそこを登る。
本来7層で屋根の上を伝って移動するのは愚策だ。理由は単純。クイーンスパイダーに見つかるからだ。
奴は目がいい。こちらから見えなくてもあちらはこちらのことを補足してくる。だからリビングデッドに襲われる危険があっても地上を歩くのがセオリーだ。
だがもう既にリビングデッドに見つかって叫ばれている以上見つかったようなものだから気にする必要はない。それに奴は今ドラゴンとの戦いでそれどころではないというのがオレの見立てだ。
「このままここを離れ一旦身を隠す!」
「了解!」
オレ達は屋根の上を走る。スカイアリゲターもいないのでストレスフリーだ。このまま奴らを振り切って......と、そんな簡単にはいかないところがダンジョンの面白いところだ。
まあ、今はそんな面白さ求めてないんだが......
「あ、あれって......」
「ああ......奴だ」
遠くから奴が来ている。それも猛スピードで。その巨大な眼はオレ達を既に捕捉しているのだろう。
鎌のような足で地面や建物を貫きながら走る。その姿はまるで......
「死神だ」
さっき遭遇した時とは状況がまるで。違う。今度は見つかっていて、そんでもってターゲットはオレ達だ。
......ドラゴンもっと頑張れよ。あいつ傷一つついてなくね?マジやべー。
毒づいている暇はない。この状況は想定されていたことだ。想定されていたことだから既に結論は出している。
「ルナ、話したことは覚えているよな」
「......そうするのが最善なんですよね」
オレは、静かにうなづいた。このまま2人で逃げても屍が二つ出来るのがおおよそのオチだ。
だから二手に別れればどちらかは生き残る可能性が高まる。これはそういった現実しか見えてない後ろ向きな作戦だ。そのことはルナにも説明してある。
追いかけられた方が十中八九死ぬ。
死者が出ることを前提とした愚の骨頂とも言える作戦。だがそれが今の最善なのだ。そのことはルナも分かっているようだ。反論も抗議もしてこない。この作戦しかないことを分かってるのだ。
......クイーンスパイダーが迫る。オレは屋根に立ち尽くして言った。
「それじゃあな」
短いながらそれでも何度か死線を乗り越えた仲だ。別れ際に言いたことは沢山ある。だが、時間もないし、......あまり情が移るのも情を持たれるのも嫌だったのだ。だからこれだけだ。
そんなオレの言葉も聞いたルナが拳を強く握り、言った。
「次は6層の入り口で。またね!」
そう言ってはにかむ彼女の表情には暗さも悲しさもなかった。
彼女はこの作戦の意味は分かっていながら、どちらかが死ぬなんて思っていなかったのだ。
「ふっふふ!あははハハハ!」
「......私笑われるようなこと言いましたか⁉︎」
これじゃ勝手に悲壮な気持ちになってたオレが馬鹿みたいだ。いや、実際馬鹿だったのだ!ロマン求める冒険者なんだ。大ピンチでも現実が見えてないくらいが丁度いい。
そんな考え、普段のオレなら軽く一蹴するだろうが今のオレにはそう思えて仕方ない。
ルナには教わることが多いな。合流したら今度は何を教えてもらおうか。
「そうだな。じゃあまたな!」
オレは目尻に浮かんだ笑い涙を擦る。
そしてオレ達は互いに背を向け、走り始めた。
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