24話 赤龍
オレ達は走る。距離は遠いがモタモタしていると合流の手がかりがなくなってしまう(冒険者がいると決まったわけではないが)
先程上からリビングデッド達の分布を確認しておいたお陰である程度は安全なルートは分かる。リビングデッド達もあの土煙が上がっている場所へ向かうというのは予測がつくので慎重に、しかし素早く行動だ。
「次右曲がるぞ!」
「うん!」
オレの後ろを走るルナは全く息が上がっていない。むしろオレよりも余裕がありそうだ。ルナの「力」の影響だろう。
そんなわけで安全かつ最短のルートを走り抜け、案外すぐに近づくことが出来た。
そしてそれは見えた。
「あ、あれが言ってたクイーンスパイダーって奴ですか?あれをスパイダーとは言わないと思うんだけど......」
———いや違う。クイーンスパイダーは。「死神」はあんな姿ではない。
事前に語った通りこの層には2種類のモンスターしかいない。リビングデッドとクイーンスパイダー。そのはずなのに
「......あんな奴、いるはずがないんだこんなところに」
召喚獣ではない。あんな規模の魔獣を呼び出せる魔術なんて聞いたことがない。
そもそもあんな姿の生物、ダンジョンの中でも聞いたことも見たことない。精々おとぎ話に出てくるくらいだ。
「で、ですよね......だってあれどう見ても蜘蛛じゃなくて......」
そう、あれはまるで。空想の怪物。空の王者。強者の象徴。
蜥蜴のような強靭な皮膚。雄大な翼。鋭い眼光。
「———あれはまるで飛龍。ドラゴンだ」
その瞬間、ドラゴンは暗い岩の天井を仰ぎ空気を揺らすほどの声量で吠えた。
「————っ!うるさ!」
オレ反射的に耳を塞ぐ。ルナもそうしたようだ。正しい判断だ。塞がなければ鼓膜は無事では済まなかっただろう。
吠えたドラゴンは少し天を見つめた後、その両翼を羽ばたかせ宙空に飛ぶ。そして真下を睨んだ。
オレは近くの建物の屋根によじのぼり煙突の影からドラゴンの方を観察する。
どうやら真下にはリビングデッドが集まっていたようだ。
龍が大きく息を吸い、その胸が膨らむ。何をするつもりだ。
「あいつなんなんですか......!」
するとルナも同じくよじ登ってきた。その姿を見て我にかえる。
諸々の衝撃や音、光はあのドラゴンによるものだろう。だからここに冒険者はいない。
そうと分かれば一刻も早くこの場所を離れるべきだ。おそらくすぐにクイーンスパイダーも来る。
ついあのドラゴンを観察しようとしていた。冒険者のサガだ。だが仲間がいるなら、仲間がいるからこそ目的と安全を最も重要視すべきだ。
「分からない!すぐに離れよう!」
そう提案しルナがすぐに屋根を降りようとする。
その時、背中に凄まじい熱風が吹いてきた。
「なんだ⁉︎」
それはそこまでの熱量ではなかったが、ルナを抱きしめ煙突の影へ再び身を隠す。激風が吹いているのが揺れる屋根の瓦や舞う土埃で分かった。
影から顔だけだしドラゴンの方を確認する。そこにこの熱風の答えがあった。
ドラゴンがリビングデッド達を口から炎を出して焼いていたのだ。
「ブレスって奴か......」
あのただでさえ強いであろう巨体にここまで熱風が吹く程の炎のブレス。さらに翼で自由に飛べると来た。いよいよオレ達がいることがバレるわけにはいかない。
そんなことを考えていると
「クロウド君、ちょっと!」
ここでオレがルナを強く抱きしめていたことに気がついた。急いで放す。
「悪い!」
「いやそうじゃなくて!」
そうじゃなくて?ルナは一体何を......
「前、前!」
へぇっ?前?とぼけたまま前を見た、それと同時に巨大な影が頭上を覆った。
そこには8本の足で動く巨大な蜘蛛。クイーンスパイダーだ。
「っ!......」
急いで叫び声を吐き出しそうになった口を手で塞ぐ。幸いにもクイーンスパイダーはオレ達に気がついていないようだ。そのままオレ達の頭上を通過してドラゴンの方へ向かった。
奴、クイーンスパイダーにとって強大な力を持つドラゴンは邪魔者なのだ。リビングデッド焼いてたし。
このまま上手く行けば奴ら同士での戦闘になる。分からないことばかりだがこれだけは分かる。今は最高のチャンスだ!
「......急いで降りるぞ!今がチャンスだ!」
今ならクイーンスパイダーに遭遇することなく6層まで向かえる。
ルナもそのことを分かっているようだ。すぐにうなづき壁を這いながら屋根を降り始めた。勿論オレも同じようにする。
そうして地面に着地し奴らに背を向けて走り始める。
「一回来た道戻るぞ!」
背後では熱風が吹き、崩れた建物の瓦礫が地面に落ちる音が響く。ドラゴンの咆哮も聞こえてきたので再び2人して耳を塞ぐ。
そのまま長い間戦い続けてできれば共倒れしてくれ。まあそんな都合のいい事態にはならないだろうがクイーンスパイダーを引きつけていてくれれば7層からの脱出がかなり容易になるだろう。
と、ここまでのイレギュラーをオレは受け止めることができ、更に利用さえしていたのだ。
だが、そんなオレを、オレ達を、新たなイレギュラーが襲った。
走っているオレ達の周囲が唐突に光始める。いやオレ達の周囲だけでなくこの辺一体が光っているのか⁉︎
考察する間も無く光は消え、変わりに大量のモンスターが姿を現した。
「おいおいマジかよ......」
小柄なワニような体のモンスターがハエのものと似ている羽を震わせ飛んでいる。
このモンスターは知っている。空を飛ぶワニ。討伐ランク1「スカイアリゲター」だ。
それが数えるのが億劫になるほどの数で周囲を飛び回る。オレ達は光から出てきたそれらに気がついたら囲まれていたのだ。
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