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20話 カナリヤ地下迷宮第7層に関しての資料 2/2

 ソイツは巨大な蜘蛛だった。鎌のように鋭い8本の足は死神を連想させた。その全長は目測で10メートルは超えている。体からは無数の細い煙突のような突起を生やしておりその巨体に見合った大きい目は死を間近に感じるには十分な恐怖感を纏っていた。

 

 ひっ......という声を漏らす。

 

 その蜘蛛と目が合う。私達は一瞬、蛇に睨まれたカエルのように硬直する。圧倒的な存在と対峙する。それは冒険者をしている以上何度も体験してきたことだが、これほどの絶望感ははじめての経験だった。


 私がそうして動けずにいると先に正気を取り戻した魔法使いに背中を叩かれた。私もそれによって動けるようになった。

 

 正気を取り戻してからはまず転送石を探し始める。もう転送が始まるまでもう少しだったはずだ。それまで耐えることは出来れば生還できる。そういう思惑によるものだった。それはこの状況に置いて最も現実的な希望だったのだ。


 しかし、その唯一と言っていい希望は文字通り砕かれていたのだ。転送石は弓使いと共に切り裂かれた天井の下敷きになり砕けていた。

 

 私は絶望した。ここから生き残る手段が消えてしまったのだ。強化した扉は今にも破られそうだ。蜘蛛はその様子を動かずにずっと見ている。私はもう動けなくなってしまったのだ。


 だが魔法使いは違った。彼女は扉と逆の壁を爆破の魔法で破壊し逃げ道を作った。彼女は私と違い諦めていなかったのだ。

 

 魔法使いは脱力した私を引っ張り、作った穴を潜る。学者も転送石を持っていたはずなので合流できれば帰ることができるはずと言うのだ。私はその言葉を聞き性懲りも無くまた生き残るため力を入れ走り始めた。こうして書き起こしてみると私は本当に情けない人間だと思う。自身の保身ばかりで仲間に迷惑をかけ挙句1人生き残った。本当に恥ずかしい。いや、ここで書くことではないのでもうやめよう。それに私も生き残りはしたがもう長くない。

 

 話を戻そう。魔法使いの作った逃げ道から走る私達だが、逃げ出した私達を見て蜘蛛が動いた。いや、動いてはいない。奴はその場から動かずに体の突起から針のようなものを私達に向け射出した。私はその瞬間道に躓き結果的にそれを避けることができたが魔法使いはそれを肩に喰らってしまった。

 

 魔法使いの歩みが止まった。私は立ち上がりながら後ろにいる魔法使いの方を振り返る。

 

 彼女の肌が変色していく。目が充血し焦点があっていない。鼻や口、体中から血が噴き出している。


 数秒ほどで、彼女はソレになった。

 

 私は叫ぶこともできずにただひたすらに走り始めた。たった今の眼前で起きた狂気から目を逸らすように。

 

 ソレは、人間だったのだ。


 私は走った。ソレから逃げるため走った。生きるため走った。恐怖を振り払うため走った。走って走って怯えて走って走って走って走って怯えた。

 

 それから何時間か何日か分からないが、長い時間が経って(帰還してから調べたところ2日程度だった)私は彼と出会った。

 

 あの時別れた学者だ。彼はいくつもの咬み傷や引っ掻き傷があり血だらけだったが生きていたのだ。


 私はその時怯えた。仲間が生きていたというのに怯えた。私は彼を見捨てたことや1人生き残ったことを彼に責められることを恐れたのだ。

 

 だが、学者は何も言わずにまず私を抱きしめた。そして、もう帰ろうと彼は掠れた声で言った。


 その後、建物の中に隠れ学者の転送石に魔力を込めた。彼が言うにはソレらを傷を負いながらも振り切ったのはいいが何故か魔力をコントロール出来ないようになっていたらしい。それで転送石が使えなかったようだ。蜘蛛には遭遇しなかったらしい。


 私と合流できたから転送石を使える。2人の結末を聞いた学者はいつか魔法使いを迎えに来ようと言った。私はうなづいた。それが彼女に散々迷惑をかけた私に出来る精一杯の贖罪だと思った。


 そうして2人では今までのこととこれからのこと話し、転送開始までもう少しと言った所で学者の様子がおかしくなった。

 

 彼の肌が変色していく。目が充血し焦点があっていない。鼻や口、体中から血が噴き出している。

 

 私は魔法使いの結末を思い出し冷や汗が止まらなくなった。そのあんまりな現実に動けなくなる。


 学者はソレになった。

 

 ソレになった学者は隣にいた私に襲いかかる。私に覆い被さり首元を噛もうとしてきた。私は殴ったり押し退けたりしたりと必死に抵抗する。爪で引っ掻かれ指を噛まれ血が噴き出た。

 

 魔術を使う余裕はない。私は腰から短剣を抜きソレの頭に突き刺した。ソレは、学者は、動きを止めた。

 

 その瞬間、転送が始まった。私は学者を必死に抱きしめた。

 

 

 その後、ギルドに学者の屍を渡し、治療を受け、今に至る。

 

 私はもう長くないので最後に少しでも正確な情報を残すためにこれを書いていると言うわけだ。


 今の私は魔力をコントロール出来ない。学者につけられた傷が魔術で治療したはずなのに熱い。


 今私は隔離され誰とも接触できないようになっているが、今から24時間後信頼出来る冒険者に安全な方法で殺される手筈になっている。もっともその時点の私は死んでいるようなものではあるだろうが。


 その後私の死体はギルドを通し学者と同じように解剖、研究のサンプルに回される手筈だ。


 是非とも役立ててほしい。それでこそ仲間の無念も少しは晴らされると言うものだろう。もし研究が不足したまま再び7層に挑み、帰ってくる人間が出ればそれを引き金に起こりかねないからだ。

 

 人類が滅ぶ未曾有の生物災害が。

 

 この後何しようか。まずは仲間達に謝りに行こう。随分と迷惑をかけた。


 最後に。もしもこれを読んだ者が第七層に行き、ソレと化した魔法使いと遭遇することがあったら彼女を楽にしてやってはくれないだろうか。彼女は綺麗な黒髪で特注で作った金色の冒険者バッジが特徴だ。よろしく頼む。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 この記録に記された学者、ガルシクと著者であるグラウス両名の遺体の研究によって人をモンスターにする魔力を2人が内包している事が判明した(迷宮で発見された新生物を定義上モンスターとする)この魔力を内包しモンスターに変異した人間が歯や爪で人間に傷害を加えることで魔力が伝染し、傷つけられた人間もそのモンスターに変異することも次いで発覚。


 これにより7国連合及びカナリヤギルド本部は協議を重ねこの人間が変異したモンスターを「リビングデッド」と名称すること、また討伐レベル2(小規模のパーティで勝てる程度の強さ)ながらも第2段階特別指定危険生物(大陸及び世界の社会を崩壊させる危険性がある生物)に指定することを発表。


 このことからダンジョンの入り口に検問を設置。帰還した人間にはリビングデッドの魔力を有していないかの検査が義務付けられた。これを逃れようとした冒険者は即座に冒険者バッジとライセンスの剥奪、罰金及び投獄となる。


 また記録に記された「蜘蛛のモンスター」に関しても後続のパーティにより存在が確認された。こちらは名称を「クイーンスパイダー」討伐レベル4(ギルドで対応が必要な程度の強さ)とし、同じく第2段階特別指定危険生物と認定された。

 

 そしてここから103年たった現代でもこの第7層の危険性は変わっておらずここで足止めされる冒険者は非常に多い。この第7層へ辿り着き生還したパーティが現時点で25パーティ、第8層へ辿り着き生還したパーティは現時点で僅か2パーティである。

読んでいただきありがとうございます

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