12話 なんかやっちゃいました?
「ルっルナ!」
攻撃を外したルナをウッタクルの触手が弾き飛ばした。ルナは吹っ飛んで近くの木に激突した。
...あれは無事では済んでないだろう。死んではいなかったとしても骨が砕けてもうまともに動けないはずだ。途中まで調子良かったんだけどな。
ウッタクルがヘタったルナから目を離してこちらを向いた。目をつけられた。ウッタクルがズリズリと這いずりながらこちらに近づいてくる。さっきから思っていたがオレが切った触手が少しずつ再生している。コイツ再生能力なんてあったのか。今となってはどうでもいい。
終わりだ。オレもルナもここでコイツに殺される。危惧していた最低な結末だ。
まあ、ルナまで殺されてしまうのは可哀想だが......仕方ない。互いに全力で自分の意志を貫いた結果だ。文句はない。ルナだってそうだろう。
せめて苦しくないように殺してほしいものだ。自害するためのナイフを持つ力すら残っていないからな。そんなことを考えながらそっと目を閉じようとした時、目の前に一つの影が現れた。
「いたぁ〜、しくっちゃいました」
その影はふらふらとウッタクルからオレを庇うようにして立っている。その正体は先程吹っ飛ばされたばかりの少女、ルナだった。
「あ、ルナ......なんで」
困惑が頭を支配する。
ウッタクルの触手は結構重い。その触手の攻撃に当たるというのは最高速度で走る競争馬に撥ねられるようなものだ。彼女はそれを完全に無防備な状態で、魔術もなしで、背中からもろにくらったのだ。しかもそのあと受け身を取ることもできずに木に激突している。死んでて当然、瀕死で上等。少なくとも今後一生寝たきり状態。そうなるはずだ。間違っても立って、歩くなんてことはあり得ない。
それなのに彼女は今、オレの前まで移動してきて立っている。あり得ない!いや、あり得るのか?彼女が実は魔術を使えたとか今使えるようになったとか。可能性としてはそのくらいしか思いつかない。
......いいや、そんなことはどうでもいい。それよりも今はルナを......!
「お、おい、動けるなら今からでも逃げろ......。オレを庇ったって死ぬだけだ」
「嫌です。クロウドさんも守られる側になって見てくださいよ」
オレの言うことを聞く気は全くないらしい。逃げずにウッタクルと戦い始めた時といい頑固だ。オレを見捨てることつもりはないということだろう。ナイフは落としたのだろうか。素手であった。
勝てるわけがない。ナイフあっても勝てなかったのだ。それを素手で、しかも先程もろに触手を食らったばかり。たてているだけで奇跡。そんな状態で勝てるわけがないのだ。自分だけでも助かるのが賢い選択なのだ。なんとか説得するため声を絞り出そうとするが掠れた咳しか出ない。
そんなオレの状態、考えを知ってか知らずかルナは背中に左手をつけて小さく親指を立てた。
それを見てフッとやけ気味に笑ってしまった。......もういいだろう。黙って見守ろう。戦いの顛末を。オレにはもはや喚くことすら出来ないのだから。
ウッタクルが触手を振りかざす。ルナが拳闘家のように拳を構える。開戦の火蓋は既に切られた。オレの、オレ達の未来はあの小さな拳にかかっている。
先制パンチはウッタクル。触手を斜めに振り下ろす。ただ先程の戦いの様子から見てルナなら避けることは出来るだろう。避けてナイフを取りに行く。これが正解の動きだ。ルナが動いているなら注意はルナの方に向くと思うしな。オレを守るというルナの目的は果たしたまま反撃のチャンスを掴める。
だが実際のルナの行動は真逆をいくものだった。
迫る触手をルナは脇腹で受け止めていた。脇腹で受けてそのまま両腕で抱えている。
......どうしてだ!さっきのダメージが残っていたから避けられなかったのか。いや、そもそも避ける気が無かったように見えた。
「......!」
ここでオレはその理由を察した。
オレを守ったからだ。あのままルナが避けていればその触手はオレに当たっていた。
......これがただ守られる側の気持ち、か。ルナの戦う理由とその感情が少し理解出来た気がする。
でも今度こそ終わりだ。全力で振られた触手を脇腹で受け止めたりしたら骨が砕け散って......、待てよ。そもそも受け止めるってなんだ。普通あんな攻撃をくらったらそのまま吹き飛ばされるはずなのだ。さっきみたいに。
しかしルナはそれを受け止めオレの眼前にとどまっていた。あれ、しかもなんか案外大丈夫そうだぞ?ルナは少しだけ悶えた後すぐにウッタクルを睨みつけた。
「さっきのは痛かったぞ......」
ルナはそう言い終わるとあああと叫びながら触手を引っ張り始めた。ウッタクルは困惑しているのか攻撃が止まっている。
すると......
「あ、千切れた!」
......千切れた⁉︎
ウッタクルの触手は信じられないが言葉通り根本から千切れている。今度はウッタクルが叫び声を上げた。
な、なにがおこっているんだ。ルナは魔術を使っていないはずだ。体に魔力が流れていないのが見て分かる。本当になにがおこっているんだ!
困惑するオレをよそに戦いは続く。ウッタクルは残った触手の内2本を使いルナの左右両方から迫るように同時に振った。
ルナはそれをそれぞれに対応した方向の腕一本ずつで止める。どちらも上腕でガードした形だ。
「クソ痛いけど......痛いだけですね!」
止めた触手2本どちらも掴んで引っ張る。今度は千切れずウッタクルがズルズルとルナの方に引っ張られていく。
「おら!キックキック!」
そのまま自身の手前まできたウッタクルをルナはキックした。掴んでいた触手が千切れてウッタクルが吹き飛んだ。
「意外に軽くて、脆い......!」
いやウッタクルは軽くもなければ脆くもない。確実に彼女の何かがおかしいのだ。
ルナは吹き飛んだウッタクルの方へ走った。その速度は凄まじくライジンを使ったオレにも匹敵するかもしれない。
ウッタクルはすぐに立ち上がって触手を縦横無尽に振り回す。その姿はまるでルナに怯えているかのようだった。
ルナはその振り回される触手のシールドを前に一瞬立ち止まったが、すぐに再び動き出した。
「なんだか体、軽い!」
攻撃に機会を探っているだろう。触手をスレスレで避けながらウッタクルの周囲を跳び回っている。さっきから避けるのが上手い。
そうして彼女が避け続けているうちに一瞬触手の勢いが緩んだのが分かった。ルナもその隙を見逃さなかったようだ。触手を一本掴んでそれを握り潰していた。こわ。
そうしたらウッタクルの動きが痛みからか驚愕からか一瞬止まった。
ルナは右で拳を構える。そしてそのまま構えた拳をまっすぐ突き出した。
そして、その小さな拳を受けたウッタクルの幹は木っ端微塵に吹き飛んだ。ウッタクルだったものの破片がそこらに散らばる。刺さったままだったらしい発炎刀も一緒に地面に落ちたのが見えた。残ったウッタクルの体は立ったまま絶命している。
......唖然である。何が起こっているのか理解しきる前に終わった。魔術を使っていないのにあのパワー。まさか......聞いたことがある。ルナの顔を見る。
オレは怪訝な顔をしてしまっていたのだろうか。オレと目があったルナはなんだか気まずそうな顔になって言った。
「もしかしてわ、わたし、なんかやっちゃいました......?」
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