11話 間抜け少女
私を見ててくれとか威勢のいいこと言ってみたけど体は正直だ。体の内側にある芯がキュッと冷たくなって縮こまっているのが分かる。なんとか抑えてるけど膝は今にも小刻みに震え始めそうだ。目頭がじんわりと熱くなった。
負けたくない。逃げ出したくない。足を引っ張ったままでいられない。
...自分のことも知らないまま死にたくない。
私は目頭から顔を出している弱虫を乱暴に拭ってナイフを構える。
それを待っていたかのように木のモンスターが木々の間から姿を見せた。
「そいつの弱点は、頭の茂みの中にあるコアだ...!中心あたりにあるから、刺せば一発で殺れる」
クロウドさんが掠れた声で言った。今気づいたけど喋るのも途切れ途切れで辛そうだ。あの術の負荷はそれほどまでに強かったのだろう。やはり申し訳ない。
だが良いことを聞いた。正直どうやって倒せばいいのか分からなかったから助かった。
とりあえず殺すなら近づかないといけない。私は恐る恐るモンスターに近づく。本当は素早く距離を詰めたほうがいいんだろうけどそこまで思い切った行動は取れなかった。
瞬間、ノロノロと動く私を狙ってモンスターは触手をムチのように振るった。
「ひぃっ!」
背筋に悪寒が走る。間一髪でしゃがんで回避できた。恐怖で腰が抜けそうだ。
しかしモンスターはそんな私にお構いなしで追撃を仕掛けてくる。具体的に言うと何本もの触手が間髪入れずに速度をつけて私を殺しにきた。
「ひいぅっごめんなさい!キャア!」
迫り来る触手を必死で避け続ける。それも当たるギリギリだ。情けないことに恐怖で何故か謝ってしまった。
一向に攻勢に出れず必死にヒャアだのギャアだの叫びながら避け続けているとヘタっているクロウドさんと目が合った。彼は『あの女あんな調子いいこと言ってたのにこの醜態かよ...』って顔をしていた。すいません。
だけど、だんだん避けるのにも慣れてきた。このまま余裕を持って避け続けられたら攻撃する隙が出来るかもしれない。
それにしても、やはり私は冒険者という奴だったのだろう。攻撃を避けるたびにそう感じる。
避ける時、体をどう動かせばいいかなんとなく分かるのだ。そのおかげでなんとか反応できている。きっと以前の私の感覚が残っているのだろう。
そしてその時は来た。
触手の猛攻だけ一瞬、緩んだ。それが疲れによるものなのか驕りによるものなのかそれ以外のものなのか要因は分からない。否、分からなくていい。
気の抜けない猛攻。緊迫した状況。感覚は研ぎ澄まされている。
隙が出来たのならただそれを突くだけ...!。
瞬時に体を避ける動きから攻撃する動きに
スイッチする。意識をナイフとそれを握る手、モンスターだけに集中させる。
まずは触手を削ぐ...!そうすればさらに隙が増えて攻撃できる機会も増えるはずだ。
ナイフを頭上に掲げる。周囲の動きがスローモーションに見える。あとはこれを奴の触手に向かって振り下ろすだけ。
自分の感覚を信じる。こんなに大きなモンスターと戦えているのだ(いまんとこ避けてるだけだけど)。きっと私はすごい奴だったんだ..!
ナイフを握った右手と添えた左手を頭上から一気に振り下ろす。鏡のように美しい頭身はこんな地底でも鈍く輝いた。
渇望を乗せた刃先が鋭く空を切り裂きながら下る。それはさながら罪人を裁くギロチンのようだった。
そしてそのギロチン、白き刃先は空を切り、空を切り...、モンスターにかすることもなく空を切り裂き続けた。つまり、空振った。
「あっ」
想定外の事態に間抜けな声が出てしまった。いやだって渇望がどうとかギロチンがどうとか、かっちょいい描写しまくっといて空振るとは思わないじゃないですか。ていうか前の私ナイフ振ったことなかったんですかね。どうやって振ればいいか全く分かんなかったよ。あんなに避ける感覚は分かったのに。いや〜恥かいちゃったね。全然掠ってすらないんだもんなー。私が戦い始める前、ナイフ素振りしてた時クロウドさんは『コイツナイフ扱うの下手くそやなー』とか思ってたのかなー。ほんま困っちゃいますよね〜。
で、私はナイフが当たること前提でナイフを両手で大振りしたわけで。今の私は隙だらけなわけで。そこをモンスターが見逃してくれるわけもなくて。
ビュオッっと触手が風を切る音が背後から聞こえた。
嗚呼、モンスターも空振りしてくれたらいいのにな、なんて。
直後、振られた触手が私の背中に激突した。一瞬、クロウドさんの叫び声が鼓膜を掠った。
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