10話 足手まとい
「うわあああ!」
体に限界がきて担いでいたルナごと前のめりにずっこけた。土が口に入り苦味が口内に広がる。
「悪い、大丈夫か...」
土を吐きながら、同じくずっこけているルナに問いかける。ルナは大丈夫だと言うように拳をあげて立ち上がった。
オレは立ち上がれないので首の向きだけ変えて後方を確認する。
結構離れられたな。モンスター達の姿は見えなくなっていた。
だがこれで撒けるなら最初から逃げている。案の定ツリーパラサイトが何匹か周りで飛んでいるのが見える。今にウッタクルはオレ達の場所まで辿り着くだろう。
しかし体は一向に動かせるようにならない。魔力を体に巡らせることすらもおぼつかない。
...こういう状況になることは逃げ出した時点で分かっていたことだ。
まあ、仕方ないな。最初から生還するのは難しかったんだ。冒険者をやっているならこんな終わり方もあるだろう。
「ルナ、動けるよな」
「はい、大丈夫...です」
「これを渡す」
なんとか腕を動かして背負っていたカバンをルナに差し出す。ルナは戸惑った顔でオレを見た。
「中には色んな道具と地図と水が入ってる。地図を見て八層の入り口まで行ってそこで隠れてろ。そうすればワンチャン餓死する前に助けが来るかもしれない」
ウッタクルもオレを仕留めたらそれで満足して索敵をやめるだろう。
「い、言っている意味がよく...」
オレは戸惑うルナの震える目を見て言った。
「さっきまで戦っていたモンスターには索敵能力がある。すぐに追ってくる」
「じゃあ2人で逃げましょうよ!」
「オレはさっき使った魔術の反動でもう動けない...。お前1人で逃げるんだ」
「...!」
ルナはオレの言葉を聞いて絶句したようだった。冷や汗を流している。ウッタクルがこちらに来るまでそんなに時間はないのだから早く逃げて欲しいのだが。
「その魔術って...さっきの速くなる奴ですか?」
「ああ、そうだ。そんなことはいいから早く逃げろ」
と、言い終えるとルナはしばらく考え事をするように動かなくなった後、こちらに近づいてきてオレの脇を掴んで引きずり始めた。オレが呆気に取られている間に近くの木の根元まで運ばれた。ルナの何かを見据えたように目つきは何かしらの決意を感じさせた。
「おい、何やって...」
「これ貸してください」
オレの言葉を無視してルナはオレの腰からナイフを抜いた。
「まさか戦うつもりか!魔術も使えないのに」
ルナは答えずにただナイフをブンブンと振る。素振りだろうか。素人なのが振り方から丸わかりだ。
「あの速くなる魔術、私がいなければ使う必要ありませんでしたよね」
「......」
ルナのその言葉は確信をついていた。実際ルナがいなければオレがこんなリスクを負うことはなかったろう。なのでオレはルナの問いに何も言えなかった。
「考えてみれば私って足手纏いでしかないですよね。クロウドさんに助けられるだけの私がいる意味なんてない」
「そんな...ことは」
上手く誤魔化す言葉が思いつかない。ルナは素振りを続けながら喋る。
「何で私を見捨てなかったんですか?」
「なんでそんなことを...」
ルナが淡々と喋りつづける。
「だって私が邪魔になるなんて分かってたことじゃないですか。私に構わなければこんなことにはならなかった」
小さな音だがドタドタと触手を動かす音がする。ウッタクルがこちらに迫っているのだ。
このままでは共倒れだ。速く逃げさせるには...。
「オレが、お前のこと見捨てて生還したとしてさ」
本音で喋ることにした。本音で喋って、心から説得すれば逃げてくれるかもしれない。
「多分その時は嬉しいんだ。生きて帰れて。でも朝起きた時とかに、たまにお前を見捨てたこと思い出して最悪な気分になると思う。多分一生それが続く。そんなのは嫌だ。オレはその人生を楽しめない。だから見捨てなかっただけだよ」
だから逃げてくれ。目の前で死なれたら死んだ後に最悪な気分になる。せめてスッキリと死にたい。そう言った旨を伝える。するとルナは素振りをやめこちらへ振り返って言った。
「私も同じ。ここであなたを見捨てて逃げたら一生最悪な気分になる。足引っ張った上に見捨てたんだって。私もそれはいやです。」
だから戦う。ルナはそう言った。
「それに私冒険者だったんですよね!じゃあ案外戦えるんじゃないですか?余裕で勝っちゃったりして」
「馬鹿野郎...」
ルナは笑っていたがその笑顔は強ばっていた。そんなに怖いなら大人しく逃げてくれればいいのに。
だがもう逃げても間に合わない。触手の音はどんどん大きく、すぐそこまで迫っていた。
「じゃ、私の勇姿見ててくださいね」
ルナはそう言って音の方向にナイフを構える。
それを待っていたかのように木々の中からウッタクルが姿を見せた。
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