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〔3〕

「…驚いたな…」

一通りの話を聞いて思わず呟いた俺に、向かい側でメイドが大きく頷く。

「ビックリですよ、ホントに。アイちゃんのお友だちだって言うから、女性か、女性に興味ない人だと思ったのに…。もう、アイちゃん何考えてるんだろう」

メイドが俺をチラッと見てため息をついた。

ため息つかれるのは納得できないが、藍希については否定しない。昔っから恋愛が最優先。そこだけは1ミリも譲らない、そういうやつだから。

今ここに、こいつがいるのもそのせいだ。

マンションが手違いで取り壊されて困ってるのを知って「ボクの家、使ってない部屋があるからおいでよ」と提案したまではいい。

なにせ藍希は一戸建てに一人暮らし。

それに恋愛対象は男女問わないけど、意中の相手以外には人畜無害。さらに本人いわく「大恋愛中」らしいから 、今ならひとつ屋根の下で暮らしたところで問題ない。

それが、その大恋愛中の彼女だか彼氏だかが転がり込んできたんで「しゅーのとこ使ってない部屋があったよね?」って、酔っぱらって前後不覚の俺に押し付けるとはどういうことだ?

しかも、ヲタ子を、だぞ。

まぁ、藍希はいろいろ気付いてないみたいだけど、な。

いろいろ…いい加減、俺がストレートだって気付いてほしいよな。俺は女嫌いなんじゃなくて、ラウンド絡みの女恐怖症なだけで、他の場所なら普通に対応できる、はずだ、多分。

で、子猫ちゃんと呼んでるこいつが、ラウンドのお気に入りのニコちゃんで、俺が苦手なヲタ子とも同一人物だってことにも、気付いてないよな。

どうしてわからないのか謎だよ、俺には。

でもな、俺が驚いてるのはこれまでの経緯もさることながら、お前のことなんだよな。

初めてフルネームを聞いたが「ヒヨコ?」だって…?

「やめてください。そのイントネーションじゃ、ニワトリのヒナになっちゃいます。樋口一葉のヒ、縦横のヨコ、樋横、です。名前はタマキ。数珠のずでタマ、樹木のじゅでキ、珠樹、です」

珍しい名字なんだけど、藍希の入れ込み方からして、もしかして「ヒヨコ´(ダッシュ)のデザイナー?」だったりして…?

半信半疑で声に出してみたら、ビンゴ、だったらしい。

「…女の子のファッションに興味あるんですか?」

「ないよ」

そう、女子高生の間で最近やたら流行ってるらしいブランドを、どうして四捨五入したら30にもなる俺が知ってるのかと言えば「藍希がハマってる」からだ。

上目遣いで引きぎみな質問を速攻で否定すると、パッと笑顔になった。

なんだよ、俺だとNGで、藍希だとOKなのかよ。

って、仕方ないか。同い年には見えないし、綺麗な顔してるし、サイズは縦も横も重さも俺の半分って感じだしなぁ。

「アイちゃんってすっごくセンスよくて、ショーでもプロのモデルよりステキだったの」

「あーそう」

そんなコトまでやってんのかよ、他で。

って、あれ?

「男服もあるのか?」

「ないですよ。アイちゃんは女の子と一緒だったけど…」

楽しそうに説明しかけるのを「誰も男だって気付かなかったんだろ?」って遮る。

「どうしてわかったんです?」

普通はそうやって驚くんだろうけど、男にも女にも見えるような格好は「いつものことだから」すっかり慣れたし、その場その場で男にも女にもなる器用さは演技って枠を越えててもう気にすることも忘れてる。

「あたしはスーツが似合うお兄さんだって思ってたから、ものすごく驚いたんです、ホントに」

「…スーツ? お前、仕事絡みなの?」

藍希がスーツを着るのは本業だけ。一度だけ見たことあるんだけど、腹立つくらいカッコいいんだけどな。

「あ、アイちゃんがやってるカフェのユニフォームをオーダーしてくれて、ちょっと話題になってるんです」

なる。

好きなブランドのデザイナーと客ってだけにしちゃ気合い入ってると思ったら、そういう仕事絡みの関係もあるわけか。

藍希はああ見えて年商億単位の社長で、多角経営だとかでいろんなことやってるらしい。

俺も詳しくは知らないけど、こっちの仕事は完璧に趣味。

本業だけでも忙しいんだろうに、体力と神経使う趣味に、恋愛まで謳歌して、華奢なくせに本当にタフなやつだよな。

「今度カフェとタイアップしたフワモコにゃーを冬小物で展開するんです」

「知ってる」

「え? まだ販売してないけど…」

「藍希にニット帽とマフラーをもらった」

「…男の人でも可愛いと思いますけど…」

言いながら口元が緩んでるぞ。

「使えるか。ピンクだぞ、ピンク」

藍希になら似合うだろうが、なぁ…。

「…ですよねぇ…」

頷きながら口元を慌てて両手で隠してるが、すでに目が笑ってる。

「しかも、レースにリボンだ。…想像するな」

ガマンできずに顔を伏せて肩を震わせながら「…ご、ごめん、なさい…」とは言っても笑いは止まらない。

ふわふわと揺れ続ける髪の毛を眺めながら、どうしたもんだかなぁ…と目がキッチンへ向く。

いい加減、外食にもコンビニ弁当にも飽きたんだよな。

それに藍希の言う通り、部屋は空いてる。

もともとは先輩とシェアしてたんだ。だけど結婚するからって先輩が出てそのままになってる。

イベント入れ替え時期で忙しかったし、新しく探すのも面倒だったしで、そのまま更新しちゃったんだけど、よく知らないやつと同居するのも鬱陶しいし煩わしい…なんて思ってる間に半年経過。埃だけが溜まってる。

藍希が勝手に決めた条件は、新しい部屋が見つかるまで家事一切をやる代わり家賃不要で空いてる部屋を使ってもいいって、大雑把なことだけらしい。

プライバシーに関わることとか、ちゃんと考えなきゃいけないよな、やっぱり。

…あー、シェアするって方向だよな、これって。

うーん…、ヲタ子と一緒に住むのか、俺?

えー、何を考えてるんだろうなぁ、俺は…。

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