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楽園のイミテリス  作者: 十 名鈴
第一部
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第五話 地獄の訓練

キャンプの硬いベッドで目が覚める。


「ふわぁ、いててて……。疲れがあまり取れた気がしないな……って、うわぁ!?」


身体を起こすと、至近距離からイヴに覗き込まれていた。


「ふふっ、その割にはぐっすりだったよ? おはよう、カイン。アルヴァルが待ってるよ」


「はぁ、びっくりさせるなよ……。アルヴァルが? ってことは、完成したのか!?」


昨日回収した素材は、アルヴァルに預けていた。

一日も経っていないのにもう出来上がったのか?

本当に腕が良いというか、手際が凄すぎるな、アルヴァル。

俺はイヴと一緒に、アルヴァルの作業場へと向かった。


「よぉ! やっと起きたか! いやぁ、いい素材だったんでな。すぐ作業に取り掛かったら、気付けば朝になってたわ! がははは!」


「寝ずに作業してくれたのか……? 助かるよ、本当にありがとうアルヴァル」


これで少しでも早くイヴに近づける。アルヴァルには感謝しかなかった。


「これがお前さんの武器だ。機装とは違ってコアは使ってねぇ。お前さんの『特異な力』に合わせた特注品ってわけだ。ほら、受け取ってくれ」


渡されたのは……刀か? ずしりと確かな重みを感じるが、驚くほど手になじむ。


「とにかく頑丈さに全てを振り切ってある。多少重いかもしれねぇが、お前さんなら使いこなせると信じてるぜ。細けぇ仕様は端末に送っといてやるから、暇な時にでも見といてくれ」


俺だけの武器……。アルヴァルの期待にしっかりと応えなければな。


「ありがとう、アルヴァル。使いこなせるよう努力するよ」


俺が武器を握りしめたのを確かめると、イヴが嬉しそうに口を開いた。


「よかったね、カイン。それじゃあ今日は、その武器を使いこなせるように特訓でもしよっか」


願ってもない提案だ。

イヴに負けていられない。俺ももっと強くならないと。


「じゃあ私は大事な予定があるから、ラババに訓練をお願いしておくよ」


……へ? イヴとの訓練じゃなくて……ラババ?

あの物理的に眩しすぎる、ラババ??


「ラババと訓練って……その、言っちゃ悪いが大丈夫なのか?」


正直、不安しか湧いてこない。


「大丈夫だよ。ああ見えてすっごく強いから。それじゃあ頑張ってね? また後でね」


イヴはひらひらと手を振りながら立ち去ってしまった。

仕方がない……文句を言っている場合じゃないな。やるしかない。

俺は重い足取りで、ラババの元へと向かった。


「やっほぉ、カインちゃん! イヴちゃんから聞いてるわよん? 新しい武器のために特訓したいんですって? あたしにお任せなさぁい!」


「あ、ああ……よろしく頼むよ、ラババ」


今日のラババは、なぜか赤・黄・青の3色に光っていた。信号機か何かか?

一体どういう原理で発光しているんだ、この人は……。


「じゃあ早速行きましょっ! あたしの特訓は、キッビシィわよぉ~!」


はぁ……覚悟を決めるしかないか。



俺は歩き出したラババの後を追った。

旧市街を抜け、しばらく歩いたところでラババが足を止めた。


「カインちゃん、あそこを見てちょうだい。イデアがたっくさんいるのが見えるかしら?」


言われて崖の下を覗き込むと、十数体のイデアが俺たちのいる丘の下で蠢いていた。

サイズ的にはクラス1だろうか。

それでもあの数は極めて危険だ。


「うふふっ、あらぁ、そんな怖い顔してどうしたの? 大丈夫よぉ、任せて!」


俺の不安を余所に、ラババがコソコソと何かを準備している。

やばい……猛烈に嫌な予感がする。


「な、なぁラババ……まさかとは思うが、その……」


ラババはニヤリと怪しく笑うと、俺の背中に何かを取り付けた。


「その『まさか』よっ! ほぉら、いっておいでぇ!」


3色に派手に発光する『謎の装置』を取り付けられた俺は、そのままイデアの群れがいる方向へと蹴り飛ばされた。


「あああぁぁぁ! どうせそんなことだと思ったよ!」


丘の斜面を滑り落ち、俺は複数体のイデアの中心へと放り出された。

ピカピカと3色に光る俺を認識した途端、イデアたちは狂暴化し、一斉に襲いかかってきた。


「くそっ! 生き残ったら覚えてろよあいつ……!」


悪態をつきながら、今朝受け取ったばかりの刀を抜く。鈍い光を放つ無骨な刀身が現れた。


「やってやるよ……! 全部ぶっ壊してやる!」


一番近くにいたイデアが飛びかかってくる。

それを寸前で回避し、一刀のもとに頭部を叩き割る。


「ははっ! 本当に良い武器を作ってくれたな、アルヴァル……!」


次々と襲い来るイデアを、避けては斬り、避けては斬る。

体は思った以上に動いているが、それでも攻撃をかすめ、皮膚が裂けて血が滲む。


「はぁ、はぁ……こんなところで苦戦してられるかよ……!」


複数体のイデアによる猛攻をくぐり抜け、着実に数を減らしていく。

自分の体にも傷が増え、疲労で動きが鈍くなりつつあるのを感じる。

だがそれと同時に、刀を握る手には力が満ち、壊すべき最短の軌道を刀身が自動的に辿っているような感覚に陥っていた。


「ふーん……イヴちゃんから聞いていた通りね。本当に機装でもないのに、イデアを破壊できている……。それに、イデアを破壊するたびに一撃が鋭く強烈になっているわね。……面白い子じゃないの」


ラババは丘の上から、腕を組んでカインの戦いぶりを見つめていた。

カインを囲んでいたイデアの群れは、残すところあと3体ほどになっていた。


「はぁ、はぁ……あと少し……! あああああッ!」


重くなっていたはずの体が、むしろ軽くなっていく。

イデアを破壊するたび、全身に底知れぬ力が湧き上がってくる。

残るイデアは、目の前の一体のみ。


「これで……終わりだぁぁッ!」


イデアの鋭い爪を紙一重でかわし、一閃。

最後の一撃は、イデアの強固な装甲をまるで豆腐のように容易く叩き斬り、両断した。


「はぁ、はぁ……やった……。やったぞ! 俺は戦える……!」


全てのイデアを討ち果たし、俺は思わず勝利の咆哮を上げた。

あの数を、いくらクラス1とはいえ、たった一人で倒し切ったのだ。

最初は重く感じていた刀が、今は手と完全に一体化したかのように軽く馴染んでいた。


勝利の余韻に浸っていた――その背後で。

破壊されたはずのイデア体が1体、不気味に動き出し、俺の背後から飛びかかってきた。


しまっ……! 気づくのが遅れた……!!



「こーら、カインちゃん。油断禁物よ? 戦場では勝利に浸る暇なんてないんだから」



いつの間にか丘を降りてきていたラババが、目にも留まらぬ速さで蹴りを放った。

その瞬間、イデアは縦に両断され、音もなく崩れ去った。


「……すごい。ありがとう、助かった……」


足の動きがほとんど見えなかった。

ラババの足がピクリと動いた瞬間、空気を裂く強烈な風切り音が聞こえ、次の瞬間にはイデアが切り刻まれていたのだ。


「よく生き残ったわね、偉いわカインちゃん! じゃあ……次はあたしの攻撃を捌き続けなさい。こんなのに苦戦しているようじゃ、とてもじゃないけれどイヴちゃんには追いつけないわよ?」


上等だよ……やってやる。

こいつには少なからず言いたいことが山ほどあったのだ。


「ああ……遠慮せずに本気で来てくれ。そうじゃなきゃ意味がない」


俺の言葉に、ラババはニヤリと不敵に笑った。


「いい子ね、あたしそういう生意気な子、嫌いじゃないわ。……これが私の機装『アマンダちゃん』よ」


ラババの両脚には、重厚なアーマーが装着されていた。

踵から膝裏にかけて鋭利な刃が伸びており、さっきの切断はこれで行ったのだと容易に理解できた。


「ところでさぁ……カインちゃん、ピカピカ眩しすぎっ! 真剣な時にふざけちゃダメよん?」



……こいつ。


決めた。絶対に一撃叩き込んでやる。

誰のせいで信号機みたいに光らされてると思ってるんだ。


「ふふっ……いい顔ね。いらっしゃい、ダンスの練習にはちょうどいいわ!」




「後悔するなよ……! おらぁぁぁッ!!」




◇◇◇




「ぷっ……あははははっ! それでそんなに顔がパンパンなんだ! あははははっ!」


ラババとの訓練を終えた俺は、夜になって帰ってきたイヴに盛大に爆笑されていた。


……信じられないほどボコボコにされた。

一撃入れるつもりが見事なまでに掠りもせず、逆に何度も何度も蹴り飛ばされ、今の俺の顔は腫れ上がってパンパンだ。


「笑いすぎだろ……。それより、なんでラババはあんなに強いんだよ? 機装も使ってたし、一体何者なんだ?」


イヴは笑いすぎて目元に浮かんだ涙を指で拭いながら答えた。


「あははっ……ごめんごめん。ふぅ……。ラババはね、元部隊長なんだよ。言ってなかったね」


なるほど……それならあの異常な強さにも納得がいく。

思い出しても腹が立つが、結局一撃も入れられず、攻撃を避けられたのも二割程度だった。


「ラババ、褒めてたよ? 『荒削りだけどすごく期待できる』って。……それより、ぷっ……あはははっ! なんで光ってるの、カインッ!?」


「こ、これは……成り行きだ! 成り行きっ!」


ちなみに今の俺は、顔がパンパンに腫れた状態で、信号機のように赤・黄・青の3色にピカピカと発光している。

ラババに一撃も入れられず、攻撃もろくに避けられなかった戒めとして、自らこの姿のままでいるのだ。


「イヴ、俺はもっと強くなる。お前にも、必ず追いついて見せるからな」


「う、うん……分かっ……あははははっ! 今そんな真面目な話をするのは反則だよぉ!」


イヴは腹を抱えて涙を流しながら笑っている。

悔しい……けれど、こんなにも楽しそうに笑うイヴを初めて見た嬉しさもあり、なんとも複雑な気持ちだった。



その夜、旧市街のキャンプには俺を見た仲間たちの笑い声が絶え間なく響いていた。



俺は結局、朝までピカピカと光り続けていた。





◇◇◇




キャンプの住人たちが静かに寝静まった深夜。

薄暗い室内で、イヴとラババの二人が密かに言葉を交わしていた。


「お疲れさま、ラババ。カインの例の件……どうだったかな?」


イヴが静かなトーンで尋ねる。

ラババはいつになく真剣な面持ちで口を開いた。


「イヴちゃんの言っていた通りだったわ。彼、イデアを破壊するたびに一撃が強くなっていっていた……。まるで、イデアから力を吸い取っているみたいにね」


予想していた通りの報告に、イヴの瞳に影が落ちる。



「そっか。……ということは、カインも……」


イヴはポツリと、消え入りそうな声で溢した。


「ん? イヴちゃん、何か言った?」


「ううん、何でもない。疲れたでしょ? ラババもゆっくり休んでね」


ラババは少し不思議そうな顔を浮かべつつも、深くは追求せずに自分の部屋へと戻っていった。



一人残されたイヴは、暗闇を見つめながら静かに呟く。


「やっぱりそうなんだね……。カインと私は、同じなんだ。……だとしても。二人の行き着く先が破滅しか残されていないとしても……私は君だけは絶対に守ってみせるよ、カイン」



イヴの儚い声は、夜の静寂の中に静かに溶けて消えていった。




***



セントラルより、特定秘匿レベル1に関する情報開示。




【概要】

『アストラン』

総人口:7万8409人。

西暦7872年、建造。

■■■■博士により考案された『電磁ドーム』を採用した防衛都市。

イデアの認知を阻害する特殊な電磁波を展開する。

現在、五つの地区に分かれ管轄されている。


【管轄部隊及びその管轄区域】

イーストシティ:ネウロン部隊

ウェストシティ:ハイマ部隊

サウスシティ:オプシス部隊

ノースシティ:パレイア部隊

セントラル:■■■■■


セントラル内部は『秘匿レベル4』に相当し、部隊長以下の立ち入りを厳重に禁止している。


ただし、対イデア特殊作戦部隊である『イヴ』に関しては、現時点ですべての施設へのアクセス権限が与えられている。


尚、居住者はすべて■■■■によって構成されている。

故に、建造から現在に至るまで■■■の数値は変化していない。


居住者に対し、■■■■■■■の行為はアストランにおける最大の重罪とされる。




現在、開示可能な秘匿情報は以上。


秘匿レベル2への情報開示申請を■■■より確認。


本申請を一部制限付きで受理。



7996年 ■■月■日

担当者 ■■■ ■■

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― 新着の感想 ―
アルヴァルお手製の無骨な刀のカッコよさと、ラババの常軌を逸したドタバタ訓練、面白かったです! ラババの理不尽さと、イヴに爆笑されるカインの姿も面白かったです。 イヴが密かに抱えるシリアスな伏線が…
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