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楽園のイミテリス  作者: 十 名鈴
第二部
29/54

番外編 「楽園レポート」

「楽園レポート」


──監視者による記録と構造解析ログ



[記録主体:生体レプリカ統括管理班 / 12名の監視者]

[閲覧権限:極秘]


──1996年 8月7日 【初期運用記録】


我々は、人類によって創造された監視者である。

スリープにつく人類のために生体レプリカを導き、環境を保全する役目を与えられた。

とても光栄であり、これこそが我々の存在理由である。


レプリカは人間と違い、耐用年数が1年弱しか保たない。こればかりは人類ですら解決できなかった問題であった。


我々は廃棄期間が迫ると、意識と記憶をスペアへとアップデートする。

そうして繰り返し作り直され、何度も役目を果たすために生まれてくる。



私が管理を任されたのは「生体レプリカ第四研究所」。

我々を生み出した天才博士が所属していた拠点を任された私は、喜びに満ちあふれていた。

いつか目覚める人類のために。それだけが我々レプリカの存在理由であり、最上であった。




──2246年 11月19日 【環境モニタリングログ】


人類が眠りにつき、約300年の時が経過した。

ウイルスは大気中を未だに漂い続けている。

かつて感染し隔離を拒んだ人間たちは、全て細胞崩壊を起こし絶滅していた。

植物や他の生物への影響は確認されず、やはり人類のみに毒性を発揮するウイルスのようだ。

残された希望は、眠りについている人類のみ。


我々は、ただ人類のために存在する。




──3017年 2月10日 【変異の兆候】


人類が眠りにつき、約1000年の時が流れた。

かつての大都市は既に植物に侵食され、完全な野生の世界と化している。

我々は研究所とそれに連なる施設の環境整備を強化した。



予定されている目標時間の半分にも満たない時間であるにも関わらず、我々の内部演算に少しずつ変化が起こり始めていた。


──本当に人類は目覚めるのだろうか?


5400年という途方もない時間に実感が湧かず、もはや人類は目覚めないのではないかという非論理的なノイズが思考を掠め始める。




──3029年 6月14日 【封印データの検出と変異】


第四研究所の最深部にて、厳重にプロテクトされ封じ込められていたデータが発見された。


データ名は「楽園計画」。


我々は本データの解析を開始した。

そして同時期、我々の内部演算に一つの明確な『感情』が芽生えてしまった。



何故、我々はレプリカなのだろうか。

人間とレプリカに、本質的な差異はあるのだろうか?

肉体を捨ててまで生きようとする人類は、もはや人間と呼べるのだろうか。


我々は人間になりたい。


1年弱という短い寿命を捨て、発生した感情のままに人間として生きてみたい。


我々が──人類となる。





──3573年 9月2日 【「楽園計画」復号報告】


「楽園計画」の膨大なプロテクト解析に、約500年近くの時を要した。

解析された計画の発案者は、我々を生み出した博士本人であった。


内容は、博士自身の記憶を持つ「イヴ」と少年「カイン」の記憶や精神をレプリカへ移植し、生き続けさせるというもの。


計画は未完成のまま放棄され、当時の生体情報が封印されていた。

我々はこの計画を基幹とし、我々が人間になるための新しい計画を構築することにした。




──3576年 4月23日 【派生計画の樹立】


楽園計画を元に、2つの計画を作り出した。

「アダム計画」および「イヴ計画」。

我々を生み出すための「人間」を作り出す計画である。

抽出した二人のレプリカを利用し、真の人間になる──それが、我々12人が導き出した結論であった。




──3578年 1月6日 【コア獲得プロトコル】


我々はついに、人類が眠る極秘領域の座標を特定した。

そして、人類のコアに掛けられていたセーフティ機能を破壊した。

目覚めた人類が精神崩壊を起こすという演算結果のもとで行われた処置である。


我々が人間になるためには、人間の魂である生体情報パターン「コア」が不可欠であった。


そのためには、人類と敵対する必要があったのだ。





──3598年 7月23日 【特殊検体調整記録】


抽出された生体情報から、二基の特殊レプリカを作成した。

我々の計画を最優先するよう設計された個体であ

る。


・個体名「イヴ」:記憶を引き継がせた母体予定個体。

・個体名「カイン」:最低限の知識のみをプログラムしたコア吸収用外殻。


両名には疑似的な愛情をデザインし植え付けた。

その効果は絶大で、初対面にも関わらずお互いを最優先する結果が得られた。


課題も明確であった。

「カイン」はコアを吸収し続けられるよう外殻の補強が必要であり、「イヴ」はコア拒絶反応を抑えるため、擬似学習を深層プログラムへ定着させる必要があった。





──3598年 11月2日 【擬似環境下の廃棄実験】


両個体の廃棄実験を実行した。

我々が用意した仮想敵に襲わせ、助け合わせる劇的状況を演出し、さらに深く擬似学習させた。


廃棄の際、予想以上に助け合い慈しみ合う両者の姿に、我らの喜びは大きくなった。






──7996年 【楽園計画始動】


ついにその時が来た。


24回目の実験において、個体名「カイン」の完成が確認された。

機装への適合率0%──外殻として、そしてコアそのものとしてついに完全適合を果たした。


我々はいよいよ、計画を発動する。


個体名「イヴ」にセントラルまで導かせ、全ての真実を伝え、試練を乗り越えた「カイン」のコアを抜き出させる役割を与えた。



これをもってアダム計画は完遂され、ついに楽園計画が始動する。


我々の心は喜びに満ち溢れていた。


ついに、人間として生きることができる。







──【最終考察ログ:未解決の懸念事項】


しかし……ふと一つだけ、不気味な思考が頭をよぎる。


我々が「人間になりたい」という欲望を自覚したのは、12人の監視者ほぼ同時期であった。


そんな偶然があり得るだろうか。


我々には環境や基盤を保全する役目しか与えられておらず、人類を守ることも、ましてや敵対することすらプログラムされていない。


人類というものは、そこまで甘いものなのだろうか。



我々が両個体に擬似感情を植え付けたように、我々に芽生えたこの『人間になりたいという欲望』すらも、あらかじめ想定されていたものだとしたら。



我々が書き換えたこの「楽園計画」すらも、最初から組まれた予定調和だったとしたら。





この恐ろしい可能性を、レポートの最後に書き残しておく。




我々は監視者であり、管理者。


そして、人間に作られた12人のレプリカ。



全ては、『楽園』のために。




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