51 フェリシア様を泣かせてしまいました……
土の精霊様の言葉に……でも、それって不貞ってやつじゃ……と、思ったのは内緒だ。……いやいや。先に二人の仲を引き裂いたのは、フェリシア様のバカ兄と、おおバカの父親……じゃなくてそのまた父親だったか。ほんと、ろくでもない奴が国王をやっていたのね。
「でもね、悲しいわよね。愛する女性を汚すように抱かれるのを見ていなければならなかったのよ、ヨアヒムは」
「えっ?」
漏れ出たのは、私の口からだったのか、それともほかの方だったのか。
「あのいけ好かないバカは、初夜の床入りの証明を、ヨアヒムとあの愚弟に命じたの。普通は女官長辺りがつくものよ。一国の王女を妻に迎えたのに、フェリシアの祖国に喧嘩を売っているかと思ったけど、あのバカ兄が支配した国じゃあ、抗議なんてするわけないわよね。それに、この制度は廃止されたはずなのよ。今は処女の証明なんて、翌朝のシーツを見ればわかるじゃない。嫌がらせにもほどがあったわ」
プンと怒る土の精霊様。それ以上は口を開こうとしなかったから、何があったのかは想像するしかない。
……でも、なんとなく察したかな。手ひどく抱かれたと言っていたし、その様子をあのラザクレア騎士団長と、ヨアヒムに見られていたのよね。ことが済むと、国王と騎士団長はさっさと出て行ったのだろうし。
残されたフェリシア様は……傷ついて、女としての自信を失いかけた。それをヨアヒムが……偽りの姿だったけど……それでも、フェリシア様の心を守るために……お慰めしたのね。
うん。これは、二人を引き離した周りが悪いのよ。フェリシア様は悪くない。
「うわ~」
突然叫び声が聞こえてきて、私はビクッとなった。見れば、フェリシア様が顔を覆って泣いておられる。……それを見て、土の精霊様は不思議そうな顔をしていた。
「どうしちゃったの、フェリシア?」
ミルキア様のお母さまであるパターナ様が、フェリシア様のそばへと移動して、そっと肩に手を添えました。そして土の精霊様のことを見据えました。
「土の精霊様、閨のことを話されて、羞恥を感じない女性はいませんわ」
「えっ? あっ、その」
土の精霊様は混乱したように、言葉を探しているようです。
「それから、カミーラ。気になったからと言って、この場で聞くことではないでしょう」
私も睨まれました。でも、私が悪かったので、素直に謝ります。
「はい、ごめんなさい」
まさか、精霊様があけすけに話すとは思わなかったんです。……とは、言えませんものね。
パターナ様は私に微笑んで頷くと、フェリシア様を立たせて部屋の外へと連れ出してくれました。
「えーと、もしかして、私は余計なことを言っちゃったのかしら」
土の精霊様はしょんぼりと言いました。精霊王様方も不思議そうな顔で見ています。
「土の精霊様、ごめんなさい。私が余計なことを言ったばかりに、フェリシア様を泣かせてしまいました」
「えーと、でも、そんなに悪いことを言ったのかしら」
土の精霊様はしょんぼりとしながらも、まだ不思議そうに呟きました。……私もつい忘れがちだけど、精霊と人とではそういうことの感じ方が違うのよね。……えーと、私も隔離されたところで育ったから、人の心の機微には疎いと思うし。……うん。反省です。
「そうだね~。普通~、閨でのことは~、隠しておきたい~、話になるね~」
ミポルが土の精霊様に言いました。土の精霊様はミポルのことをじっと見つめました。ミポルはニカッと笑うと言葉を続けました。
「君がさ~、フェリシアと~、ヨアヒムの恋を~、見てきたのは~、わかるよ~。でもね~、忘れちゃいけないよ~。ボクらは~、見ているだけに~、徹しなければ~、いけないと~。口出しする権利は~、加護を与えた精霊の~、特権だよ~。特に室内で行われたことは~、口に出しちゃいけないんだからね~」
土の精霊様は、何がいけなかったのかわかったようで、気まずそうにしています。
「まあ~、あとで~、謝れば~、いいと思うよ~。君は~、少なからず~、フェリシアたちのことを~、助けてきたんだもの~。あの子のことを~、土の精霊王に~、伝えたのは~、君でしょう~。君のおかげで~、あの子も~、消えずに済んだんだからさ~」
「うん。そうする」
ミポルの言葉に土の精霊様は、殊勝な顔をして頷きました。その様子を見ていたヨアヒムが口を開いたの。
「私からもフェリシア様に話しておきます」
◇-◇
さて、こうして精霊王様方のご助力もあり、とりあえず私とレニー、ミルキア様、ジョシュは部屋から出されてしまいました。まあ、これ以上は私達には出来ることはないもんね。
ミルキア様とジョシュ……じゃなかった。ジョシュ様だった。いっけな~い。まだ頭の中が切り替わらないわ。……えーと、お二人は学院へと戻るそうです。今回のことで南の地に行った者が学院生にもいるだろうから、それの確認やらをするとか。……まあ、生徒会が後輩に引き継がれていて、よかったと思うしかないか。これがあの三バカが生徒会役員の時だったら、目も当てられないもの。
私とレニーは研究棟に戻り、レニーの部屋へと入ってくつろいでいる。そして、なぜか精霊王様方も一緒に移動してきたのでした。




