50 土の精霊の熱弁は続く!
「えっと、確かにこの辺りでは見ない肌色ですね」
私が答えたら、土の精霊様はうんうんと大きく頷いた。
「そうでしょう。だけどね、ヨアヒムを売ろうとフェリシアの祖国に着いた商人は、騎士団に捕縛されることになったのよ」
「それって、人身売買のことでですか」
「違うわよ。商人は前回この国に来た時に、違法に毒物を販売していたのね。その毒物を買った人が陰謀をしくじって捕まってしまったのよ。そこから毒物の入手ルートを調べて、商人に行き着いたというわけなの。でも、その商人は国を出た後だったから、名前を検問所に伝えておいたのね。それで、そんなことになっているとは知らない商人は、名前を変えるようなことをせずに、フェリシアの祖国に入ろうとしたの。だから、検問所の役人も気がついたってわけ」
えへんと胸を張る土の精霊様。……精霊様は、この件では何もしていないわよね?
「それでね、商品はもちろん差し押さえられたわけよ。その中にいたヨアヒムは保護されることになったわけよねえ。でもね、この珍しい肌色ということで、ヨアヒムの扱いに困ってしまったのよ。ヨアヒムにどうしてここまで連れてこられたのか、話を聞いてもさ、ヨアヒムに答えられるわけがないでしょう。だって、本当のことを言ったら、国に戻されるわけじゃない」
「えっ? でも、生まれた国に戻った方がいいんじゃないの?」
私があげた声に土の精霊様は人差し指を立てて「チッ、チッ、チッ」と言いながら、横に振ったの。
「甘いわ、カミーラ。ヨアヒムは殺されそうになったのよ。それにヨアヒムを売った男が、ヨアヒムにそれを話さないでいたと思う? 真実を知らされた8歳の少年が、口を閉ざしたとしたって、仕方がないことでしょう。まあ、そのおかげなのか、ヨアヒムはフェリシアの祖国の第2騎士団の団長に預けられることになったのよ。その団長はね、妻の家系に赤銅色の肌をした国から、婿を取ったことがあって、この素晴らしい筋肉のついた妻の兄弟たちがうらやましかったのよ。それで、自分の家系に取り込もうと妻をその女性に選んだくらいの、筋肉フェチ! だから、ヨアヒムの将来を期待したってわけ!」
……えーと、土の精霊様。あまりの言葉にこの部屋にいる皆様は、目が点になっていますけどー。……で、筋肉フェチって、何かしら?
私がそんなことを思ったのを感じたのか、土の精霊様は「コホン!」と咳ばらいをした。
「えーと、そうそう。それで、団長に鍛えられてヨアヒムは頭角を現してね~。でも、異国の者ってことで、かな~り、苦労をしたのね。そんな時に国王の目に留まって、近衛に抜擢しようとしたのよ。でも、周りからの反対が起きたわけで、さすがに国王も断念したのよ。でも、着実にヨアヒムは力をつけて武功もあげていったのね。そんな人物をフェリシアの祖国も、だんだん認めるようになったの」
また、土の精霊様は胸を張った。
「そんなある日に、ヨアヒムとフェリシアの運命的な出会いがあったのよ。まだ10歳と幼いフェリシアだったけど、気品や風格は王族として恥ずかしくないものがあったわ。それに近隣諸国との関係から、この時にフェリシアは国の外にお嫁に行かなくてよかったの。それもよかったのよねえ。フェリシアがヨアヒムに心を許していく様子を見た国王は、ヨアヒムに『10年後、王女を娶れるくらいの功績を立てたら、フェリシアとの婚姻を許可する』と、言ったのよ。それをヨアヒムは5年で成し遂げたのよ」
腰に手を当ててふんぞり返るようにした土の精霊様。……ミポルやスラミーだけでなく精霊王様方まで、目をキラキラさせながら頷いている。
えーと、本気にしていなかったわけではないけど、本当に下克上の話や恋愛話が、お好きなのね。
「それを引き裂かれた二人の真実の姿での再会なのよ。ほらほら~。恥ずかしがらずに、思いっ切り、ぐわっと、抱きしめちゃいなさいよ!」
土の精霊様の言葉に……フェリシア様とヨアヒムは固まって動けずにいた。……うん。この状態って拷問に近いわよね。どっかのお花畑な頭をしている人たちでなければ、公衆の面前で抱き合うって無理! ですよねー。
なのに、動かない二人に土の精霊様は不満そうに口を尖らせた。何を言おうとしているのか察した私は、疑問に思ったことを訊ねてみることにした。
「えーと、土の精霊様。お聞きしたいことがあるのですけど、いいですか」
「なにかしら」
「そのですねえ、オリバー様の父親がヨアヒム様だとして、そのー、どういった状況でそうなったのでしょうか?」
土の精霊様は楽しそうに口角をあげて笑った。
「あら~、それを聞いちゃうの?」
「えーと、本当に素朴な疑問なので、答えてくれなくてもいいですけど……」
フェリシア様が恥ずかしそうな、懇願するような視線を向けてきたので、私は無理に聞きたくないという、思いを込めて言った。……けど、土の精霊様には通じなかったようだ。
「うふふっ。私は意地悪じゃないから、教えてあげるわ。フェリシアが嫁いできて、初夜が散々だったのは知っているでしょう。あのバカは明け方を待たずに部屋を出て行ったのよ。残されたフェリシアはベッドで泣いていたの。それをヨアヒムが慰めたのよ」




