48 えーと、どうして連れ出そうとするのかしら
ミポルは「ふい~」と息を吐き出した。そこにどこからか、ブドウの房が飛んできた。他にもイチゴや桃などの果物がフワフワと窓から入ってくる。
えーと、お分かりかと思いますけど、精霊たちが大役を終えたミポルをねぎらうために、もぎたての果物たちを持ってきたのよ。ミポルだけでなく精霊王様方の前にも置かれていくわ。……というか、持ってき過ぎよ。小山が出来ているじゃない。
そうしたら、いきなり部屋の外からガヤガヤという声が聞こえてきた。どうやら3時間が経ち、使用人の方々が戻ってきたようだ。耳を澄ましていると、「それでは、皆様、名前と所属している部署別に並んでください」と言っていた。
えーと、宰相付きの文官だったかな? その人が廊下へと出て行った。すぐに戻ってきた彼は「部署別の名簿を作ってくれるようです。そうしてから、仕事に戻ると言っています」と、報告をした。
「これで~、とりあえずはいいかな~。いいのなら~、ボクらは~、失礼するよ~」
ミポルがウィルキン新国王にそう言いました。
「は、はい。ご助力をありがとうございました」
ウィルキン新国王以下、部屋の中の人々が精霊王様方に頭を下げました。
そうして、私とレイニー、フェリシア様とオリバー様、騎士が促されて部屋の外へと向かいます。……ん? フェリシア様とオリバー様と騎士の方?
「ねえ、ミポル。何でフェリシア様達も外に連れていこうとするの?」
私の言葉に、ミポルはしまったという顔をしました。そして何事もなかったように言葉を口にしました。
「いやー、フェリシアたちも、疲れているんじゃないかなー、と思ったんだけどー」
焦っているからか、いつもの間延び口調ではない言い方です。私は怪しいとミポルのことをみました。
「でもね、これからのことを考えたら、フェリシア様達もこの場にいたほうがいいのではないの? フェリシア様方のこれからのお立場をどうするとか」
私の言葉に、ハッとしたようにウィルキン新国王とクラルス宰相は、顔を見合わせました。一つ頷くとウィルキン新国王が言いました。
「フェリシア様、祖国に戻られるおつもりがございませんでしたら、このままこの国に留まっていただけませんか。公爵位は差し上げられませんが、侯爵位で新たに家名を作っていただきたいのです」
「私共は他国のものですわよ。その者に侯爵位を授けるなどしていいのですか」
「もとより、今までこの国が何とかなっていたのは、フェリシア様の功績が大きいですから。それよりもこの国は人材が減ってしまい、猫の手も借りたいくらいです。フェリシア様のことを猫扱いするのは申し訳ないのですが」
フェリシア様はクスッと小さく笑いました。
「私のほうから手助けをしたいと申したのですわ。猫扱いなどと思いません。逆に行く宛てのない私共に、そう言っていただけるだけで嬉しいのですわ」
と、和やかにウィルキン新国王とフェリシア様が話しているのに、何故か精霊たちはじれったそうに見つめています。
「ああ~、もう! ねえ、フェリシア~。君は気にならないのかい!」
ミポルが水を差すように大声を出しました。それにフェリシア様はキョトンとした顔をなさいました。
「ええっと~、何のことでございましょうか」
「いや、だからさ、さっき言ったでしょ! 君の騎士は姿を変えて君のそばに居るんだってば~!」
ミポルは叫ぶように言ったの。……えーと、部屋の中の方々は、目を点にしてフェリシア様と騎士のことを見つめています。
騎士はみんなに注目をされて、きまり悪げに視線をあちこちへと向けていました。フェリシア様は……今、気がついたというように騎士のことを見つめて、それから大きく目を見開きました。
「まさか……ダイス、あなたはヨアヒム……ヨアヒム・シュナイゼンなの」
小さな、蚊の鳴くような声で問いかける、フェリシア様。その言葉にそれまで視線が定まらなかった騎士は、フェリシア様のことを見つめました。そして力強く頷いて答えました。
「はい、フェリシア様」
騎士ことヨアヒムはフェリシア様の前に跪きました。そっと、壊れ物を扱うかのように、フェリシア様の手を取ります。フェリシア様の目にはみるみる涙が膨れ上がり、頬を伝って落ちていきます。
その涙がヨアヒムの手に当たりました。そこから解けるように姿が変わっていきます。今まではあまり特徴のないどこにでもいるような、平凡な顔をしていたのに、精悍な顔へと変わりました。体つきも今までより一回り大きくがっしりとして見えます。
姿が変わったヨアヒムの肩には小さな精霊の姿がありました。近づいてきた土の精霊王様が手のひらを差し出すと、フラフラと飛んで、その手のひらの上に着地したのです。
「よく、頑張りましたね」
土の精霊王様にいたわれて、精霊は嬉しそうに笑うと、その姿はスーと見えなくなってしまったのでした。
「あっ!」と、私が小さな声をあげると、ミポルが囁いてきました。
「大丈夫だよ。あの子は消えたわけじゃないんだ。土の精霊王様が、ギリギリのところで気がついて、力を分け与えていたんだよ。しばらく休めば、また姿を現すことが出来るからね」




