40 思い込みって……
学院長に、宰相補佐が続けて質問をしていきます。
「そうなりますと、やはり魔力が多い者は貴族になりますね」
「そうです。大体が貴族になります」
「平民でも魔力が多い者も、学院に通うことになっていますよね」
「そうです」
「学院に通う年齢は何歳からですか」
「学院に入学できる年齢は十二歳です」
「何年通うことになりますか」
「初等部と高等部に分かれるので、六年通うことになりますね」
「それは対象者すべてですか」
「いいえ、違います」
「それはどうしてでしょうか」
「あー、それは学院に通うのは、無償ではないからです。平民には貴族より減額されていますが、それでも六年間通うのには、かなりの金額がかかります。なので、平民には高等部の三年間を通うように推奨しています」
ここで宰相補佐は私とレイニーのほうへチラリと視線を寄越しました。
「ですが、いま学院長もおっしゃられたように、三年間でも平民の方には高額になりますよね。支払えない場合もあるのではないですか」
「そのために奨学金を用意しています」
「奨学金とは何ですか」
「国が貸し出すお金です」
「貸し出すということは返金しなければならないんですよね」
「そうです」
「では、返金するためには何かしなければならないことが、あるのでしょうか」
「あります。というか、これをしないと全額返金しなければならなくなり、返金するためには職種によっては一生かかってしまうのではないでしょうか」
「全額返金しなくていい方法とは何ですか」
「それは学院を卒業後、国の機関で働くことです。最低二年働けば、返金額は半分で済むことになります」
ここまで聞いたところで、宰相補佐は学院長に「ありがとうございました」と言いました。そして視線を前へとしっかりと向けました。
「皆様、今のやり取りでお分かりのように、レイニー・フェンダルとカミーラ・ユンテスには、国の機関に勤めなければいけないという条件は当てはまりません」
一瞬、部屋の中は静まり返りました。すぐにざわめきが起こったけどね。人事担当の男性が立ち上がって口から泡を飛ばす勢いで言ったのよ。
「な、なにを言うのだ。二人は学院に通っていて、奨学金をもらっているのだろう」
「奨学金は使っていませんよ」
「二人は平民だぞ」
「あなたこそ、先ほどの精霊殿の話を聞いていなかったのですか。お二人はそこの小役人にちょろまかされたとはいえ、学院にかかる費用を全額自腹で払っています。奨学金の条件に縛られることはないのです」
「「「ああー!」」」
部屋の中の人たちが叫びました。……う~ん。私とレイニーも顔を見合わせたけど(そういえば言ってなかったかしら? 先ほどのシランのあれこれで椅子に座り直した時に、私は膝抱っこではなくて、自分で椅子に座っているのよ)、そこの条件のことはよーく考えてなかったわ。
というよりも、送られてきた学院の案内には、平民は奨学金が借りれることと、その返済の条件しか書いてなかったのよ。今考えると、平民で全額自腹で通った人がいなかったということになるのじゃないかしら。だから、私達が勘違いしていても、仕方がないわよね。
そのことに気がついた学院長まで、冷や汗を流しているみたい。精霊をもっと怒らせたと思ったんじゃないかとね。
「で、でも、国の機関に……」
「それなのですけど、この場合貴族の採用基準が適応されると思います。貴族の場合、学院を卒業して国の機関に勤めるためには、試験や面接を行います。ですがそれ以前に本人がそこに勤めたいという意思の確認が行われるはずです。フェンダル殿、ユンテス殿。この意思確認というのはありましたか?」
宰相補佐に聞かれて、私とレイニーはもう一度顔を見合わせた。
「いいえ、何も聞かれませんでした」
「私も。というより、眼鏡にカイナンの鱗を使って、それにいろいろな術式を組み込めるようにしたと、魔道具制作を教えてくれた教師に言ったら、いつの間にか魔法省に勤務することになったのよね。ミポルも知っていると思うけど、意思確認なんてなかったわよね」
嘘を吐かないミポル達にも確認したら、何故か宰相様たちまで、また顔色を悪くしてしまった。宰相様と学院長が口を開こうとしたのが見えたけど、ミポルが手をあげて止めた。
「それじゃあ、カミーラとレイニーは、村に帰っていいんだね」
「はい。それよりも不当に働かせたこともこれでわかりましたので、そちらの謝罪をさせていただきたいと思います」
ミポルは宰相補佐の言葉に「う~ん」と少し考えこんだ。精霊王様方に視線を向けるけど、精霊王様方はミポルに任せるつもりのようで、何も言おうとしなかった。
「不当に働かせたことについては、ちゃんとした対価を払ってくれればいいよ。こちらもよく分かっていなかったことだもの」
ミポルが機嫌よく答えた。
「それでは精霊殿にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「な~にかな~」
宰相補佐は口元に苦笑を浮かべた。どうやらミポルの機嫌がいい様子に、口元に笑みが込み上げてきたようだ。
「先ほどおっしゃられていた五年というのはなんのことでしょうか」
「あ~、それね~。カミーラがね、村を出る前に言ったの~。五年経ったら村に戻るって~。昨日で~、ちょうど村を発って五年なんだよ~。だからさ~、もう、村に帰っていいよね~」




