37 宰相様とラキア
ミポルの言葉に、青い顔をして顔を俯けたラキア。心当たりが在りすぎるのだろう。
「それよりもこれを機に、宰相はあの性悪女と離縁して、新しい人生を始めるべきだと思うよ」
ミポルの言葉に、宰相はもう一つのことに気がついたようだ。
「もしかして、ラキアだけでなく、ラティアも南の地に送られるのですか。……ではなぜ、なぜ私には妻と子が送られるというのに、知らされないのですか!」
宰相は不信感を目に浮かべて、ミポルのことを見つめた。
「う~んと、あと少しで、南に送られる人間は~、ここに集めるからね~。それでいいかと思ったんだけど~。……でも、配慮が足りなかったようだね。ごめんよ~」
ミポルは素直に謝った。そんなミポルに戸惑った視線を向ける宰相。
「でもさ、悪いんだけど、君はどんなに願っても、南の地にはやれないからね。ここに残ってもらうから」
……宰相様は言葉に詰まったようだ。でも、私もミポルのいうことは分かる。国のトップが入れ替わるのはいいけど、他国に対して宰相様がいてくれるのと、いてくれないのとでは、大違いだと思うもの。
「父上、申し訳ございませんでした」
ラキアの小さな声が聞こえてきた。宰相家がどんな家なのかは知らないけど、宰相様はラキアに対していい父親だったのだろう。ラキアは尊大なところはあったけど、よく宰相様のことを尊敬しているようなことを言っていたから。……いつか、父親の助けになりたいと思う気持ちはあったんじゃないのかな?
シラン……魔精霊の影響で……う~んと、人間を憎む気持ちを持ったシランの甘言で、その気持ちが変えられてしまったのは、ラキアの弱さよね。第二王子について王宮に出入りしていたのだもの。宰相の苦労が当たり前のものではなく、国王や他の人たちが仕事をおろそかにしたせいだった……って、わかるかい!
ミ~ポ~ル~! ただ出入りしていただけでわかるようなら、私だって気がついたわよ。
ギッと目に力を入れて睨んだけど、ミポルは気がつかないようだ。(それとも気づかないふりかしら?)
◇-◇
「それじゃあ、時間だ。南に送る人たちを戻すことにしよう」
その声と共に、あちこちから悲鳴が聞こえてきた。今度は女性の声も聞こえるから、家族ぐるみで送られる人達も、集められたことだろう。
「さっきこの部屋にいなかった人たちは、大広間に入れておいてね~」
ミポルの言葉に、精霊たちは自分が担当した人たちを連れて移動をしていく。……精霊ってこんなにいらっしゃったのね。
この部屋に最初に集められた人たちは、出てった時と同じように窓から部屋に入れられて、そこで、べちゃっと云う感じに床に降ろされた。……え~とさ、私が云うことじゃないけど、ベッドを部屋に入れたから、空いている部分が少ないのよね。そこに次々に放り込まれるから……なんかやっつけられた人の山のように、折り重なっていっているわ。動こうにも上にすぐ人が乗せられて、身動きが取れないみたい。
精霊様方~、面白がってないでよ~。呻き声がうるさいんだけど。それに一番下になっている人は圧迫死してないでしょうね?
……あ~、あまり重みが加わらないように魔法で守っているんだ。えーと、これも罰の一つなの? わかったわ。
私の視線に気がついた精霊が一人近寄ってきて、教えてくれたのよね。私は言葉にしてあまり言わないけど、精霊たちには私が考えていることはお見通しみたい。目を見ればわかるといっていたけど、そんなにわかりやすいのかな?
さて、他の人には見えないだろうけど、精霊たちは自分たちが担当した人物の要望を書いた紙と共に、ミポル達に報告している。ミポルは紙を一瞥しては、机の上に置いていった。二つに分けているから、そのままOKというものと、条件つき? みたいなものとに分けているんじゃないかな?
最初に座った席に移動する人達……だけでなく、この部屋に集められた人たちも、紙が宙に浮かんでミポルのところに集まる様子を、目を丸くしてみていた。
窓から、紙の束を持った精霊が入ってきた。これは大広間に集められた人の分だろう。……これも、精霊の姿が見えないようだから……って、もういいか。
その紙の束を見終わったミポルが、部屋に残っていた人たちに言った。
「みんなは~、どうするの~。このままだと~、必要最低限のものに~、なっちゃうよ~」
言われた人たちは慌てて紙に書きこみをはじめた。その中でラキアだけが、なにも紙に書こうとしなかった。ラキアの様子を見ていた宰相様が立ち上がり、ラキアのそばへと行き、紙とペンを取り上げて、何事か書きつけていった。書きあげたものを見て頷くと、ラキアの前にその紙を置いた。
「父上」
書かれたものを読んだラキアが、宰相様のことを見上げた。宰相様はラキアの肩に手をおいて「母のことを頼んだぞ」と言った。……宰相様はこの短時間で、受け入れたようね。……ううん、受け入れてはいないのかもしれないけど、時間がない事はわかっているのでしょうから、いま、出来得る限りのことをしているのではないのかしら。
「はい。はい、父上」
ラキアはそう答えると、唇を噛みしめて俯いてしまったのでした。




