36 シランの封印
◇-◇
私は涙が溢れてきて止まらなくなった。レイニーは泣いていなかったけど、私を守るように抱きしめる手に力が入っていた。
「カミーラ、大丈夫?」
ミルキア様が心配そうに声を掛けてきてくれた。そっとミルキア様を見ると、ミルキア様はジョシュに庇われるようにして立っていた。もう、涙は止まったようだ。
他の方のことも見ると、怪訝そうな顔をしていた。どうやら今の光景は、私とレイニー、それから精霊様方だけが見たようだ。
それがわかった私は「大丈夫です」と答えて、視線をシランへと向けた。
精霊王様方は透ける人型のことを、複雑な心境だろうに、それを顔には出さないようにして、ただ見つめていた。……というよりも、どうしていいのか困ってしまったようにも見受けられた。
「精霊王様方、彼を封じる以外の方法はないのですか」
私は黙っていられなくて、声をあげた。
「……このままにしておくことは出来ない。先ほどミポルも言ったけど、精霊の力を宿すのは、人には負担が大きいのだ。分離させようにも、ここまで同化していてはすぐには出来ぬ」
「そんな……」
と唇を噛みしめた私は、すぐにハッと気がついた。
「分離をさせることが出来るのですか?」
「時間がかかるだろうが、出来ぬことはない。だが、それをするためには時間が足りないのだ」
体が持たないと、ミポルも小さな光の精霊も言っていた。大きすぎる力が原因だとも。それなら……。
「では、精霊王様方、力だけを封印することは出来ませんか」
「力だけ……できないこともないが、だが力だけでなく精神も封印することになると思うぞ」
「精神もですか」
「そうだ。先ほどのあれでわかったが三つの力が絡み合っているのだ、力だけでなく精神も封印した方が、分離させやすくなるだろう」
どうやら闇の精霊王様は、シランと魔精霊と、それからほとんど形を持たない光の精霊を、分離させる方法を見つけたみたいだ。……ということは、今までにもそういうことがあったということね。前例があるのなら、分離という言葉が出てきてもおかしくないもの。
「それでいいか、小さきものよ」
光の精霊王様が透ける人型にやさしく語りかけた。人型は淡く微笑むと、すっと姿が消えたのでした。
「やれやれ。先ほどより難しくなってしまったな」
「ですが、カミーラの望みでもありますよ」
「おいおい、一番大変なのは、制御する闇の精霊王だろう」
「そのためにも、もう一度練り直しましょう」
四大精霊王様は手のひらに光を集め直しだした。先ほどより、光が淡く柔らかい気がする。今度は光の精霊王様と闇の精霊王様のお二人で、光の網を作り始めた。金と黒の光に赤、青、緑、紺の光が優しく絡みついていく。出来上がったものは、やはり鳥籠のような形をしていた。
籠が移動してシランを包み込むとスーと収縮していった。そのままシランの体の中へと光は吸い込まれてしまったのでした。
シランは……穏やかな顔で眠っている。眠るシランをどこからか持ち込んだベッドへと寝かせたミポル。光の精霊王がシランのことを覗き込むようにして何かを囁いた。微かにシランの口元が笑みの形に動いたように見えたのでした。
◇-◇
元の席に座った部屋の中にいた人たちは、毒気を抜かれたような顔をしていた。小さな光の精霊が見せたものは知らなくても、その前にミポルが語った神殿のことと魔精霊のことは、かなりのショックを与えたみたいだ。……私も人を愛しすぎた精霊が、魔精霊になるとは思わなかったもの。
「思ったよりも時間が経っちゃったね。君たちも持っていくものを紙に書きだしてね」
何事もなかったようにミポルが言った。……っていうか、いいの。ミポル?
「あの、ミポル様。ラキアも南の地に送られるのですよね」
宰相様が確認するように口を開いた。
「もちろんだよ」
「どうか、お許しいただくわけにはいきませんか」
宰相様は懇願するように言った。それを驚いた表情で見る莫迦二号。……コホン、宰相の息子のラキア。
「う~ん。ねえ~、逆にさ、ボクのほうが聞きたいんだけど~、宰相は自分の子でないラキアの嘆願が出来るわけ?」
ミポルの言葉に宰相は顔を歪めた。ラキアは……顔を俯けてしまったけどね。
……そうなのよ。実はね、少し前にミポルが指を鳴らして何かの力を解いた時に、容姿が変わった人がいると言ったじゃない。それは国王と騎士団長、第二王子と騎士団長の息子、そして宰相の息子であるラキア。推測するまでもなく、ラキアも宰相夫人が不貞を働いた結果ということよね。だって、偽装? が解けたら、ラキアの容姿は騎士団長にとても似ているのよ。そっか、三バカは異母三兄弟だったのね。
「血は繋がっていなくても、十八年我が子として育てました。ラキアを諫めきれなかった私にも、責任はあります。なので、どうかお許しください」
「父上……」
宰相様はそう言って頭を下げた。ラキアが潤んだ目で宰相のことを見つめている。
「う~ん、でもな~、宰相には~、子育てで~、悪いところはないと思うんだけどな~。大体さ~、夫人がラキアを身ごもったのだって~、国王が仕事しなくて~、そのフォローで~、邸に帰れなかった間じゃん。夫人とのあれをして~、月足らずでラキアが産まれた様に~、見せかけられたんだよ~。本当は宰相も~、疑ったことが~、あったんでしょう~。ラキアが生まれてからも~、忙しい中でも~、精一杯~、ラキアのことを構っていたじゃん。それなのに夫人は~、ラキアに、宰相の悪口ばかり吹き込んでいたんだよ~。ボクはそれを鵜呑みにして~、王宮に出入りするようになっても~、宰相の苦労をわかろうとしなかったラキアには、この罰は当たり前だと思うんだけどな」




