35 シラン
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「このシランは産まれた時に魔精霊に入りこまれたようなんだ。ただ相性が良かったのか、その魔精霊はシランの中で眠りについた。けど、シランが三歳になった時にシランの住んでいた村が、盗賊に襲われてしまったんだよ。それで、魔精霊は覚醒をしてしまった。盗賊をやっつけたものの、村人はシランと村長の年老いた母親しか残らなかった。そして、幸か不幸か、シランは魔精霊と意識が統合してしまったみたいだった」
ミポルは精霊王様たちのことを……ううん、シランのことを静かな目で見つめながら言葉を続けた。
「だけどね、人の身に精霊を宿すのは大変なことなんだ。もともとシランは魔力が多かったんだろう。普通は精霊からの加護で、魔力を安定させるんだけど、シランは魔精霊に魔力を使われる(吸われる)ことで、安定していたみたいだ。でも歪みが生じるから、いつまでも隠し通せるわけがないんだ」
シランは精霊王様方の力を受けて、うずくまった状態になっていた。
「可哀そうだが今更引き剥がすこともできないだろう。このまま封じることとしよう」
光の精霊王が言った。それに闇の精霊王が応じるように言葉を返した。
「我に力を合わせよ」
いつの間にか精霊王様方は移動して、シランを囲むように立っていた。……どうやら、闇の精霊王様が封印の核となられるみたい。光の精霊の力を手にしているというのなら、闇の力に弱いはずだもの。
今までは目に見えなかったけど、力が光となって精霊王様方の手のひらへと集まっていく。光は精霊王様方の色を映したように、金色、青色、赤色、緑色、紺色、黒い色をしている。反する力だからか、光の精霊王様の力は四大精霊王様へと渡され、増幅された四大精霊王様の力が闇の精霊王様へと流れていく。らせんを作るように集まった力は、編むように広がり、まるで鳥かごのような形となってシランを包み込もうとした。
その時、うずくまるシランの前に小さな光が見えた。うっすらと人型になったそれは、まるでシランを守るように両手をめい一杯広げた。
『やめて。シランを封じないで!』
言葉が直接頭の中に響いてきた。精霊王様方も動きを止めて、その人型のことを見つめた。
「まさか……生きていたのか」
絞り出すような声で言ったのは、光の精霊王様。人型は光の精霊王様のことを見て、ゆるく首を振った。そして一度瞳を閉じ開いた時には、私の脳裏にある光景が映し出されたのだった。
◇-◇
燃え盛る炎に照らされて、凄惨な村の様子が見えた。茫然と立ち尽くす幼い子供。そのそばには、切り捨てられた子供の親らしい男の姿があった。どこからか、女性の悲鳴が聞こえてくる。
幼い子供のそばに影が忍び寄ってきた。それは手に持っていた剣を持ち上げて振りかぶった。振り下ろそうとしたそれは、見上げてきた幼い子供と目があった。それは動きを止め、震えだした。逃げ出そうにも、恐怖から足が動かないようだ。幼い子供が手をあげると、その手から風が巻き起こった。そうしてそれはズタズタに切り裂かれたのだ。
視線を移した幼い子供は、目に入った盗賊たちに向けて手をかざした。盗賊たちは切り刻まれて、死に絶えた。その頃には呻き声しか聞こえてこなかった。移動をした幼い子供は、壊され荒らされた部屋の中で、母親を見つけた。胸には短剣が刺さり、助からないことは見て取れる。でも、幼い子供はそれがわからないのか、母親に縋って泣いた。母親は、子供の無事を喜ぶ言葉を言い、幼い子供の頭をゆっくりと撫でていた。
どれくらい経ったのか、気がつくと母親の手の動きは止まり、村の中から聞こえていた呻き声は聞こえて来なくなっていた。
幼い子供の中で禍々しい力が、膨れ上がろうとした。それはいけないことだと、小さな光が近づいていった。その光が子供に触れると、禍々しい力は光を取り込もうとしてきた。小さな光は、それで禍々しい力がどうしてそうなってしまったのかを知った。
禍々しい力は光を取り込むことをあきらめた。光に離れるように言ったのに、光は幼い子供のそばにあり続けた。幼い子供が変質していくのをそばで見守り、時には暴走しそうになるのを押さえるようなことをした。
だけど光は……光もまた幼過ぎた。この世界に精霊として生まれて、まだそれほど立たなかった光は、加護を与えられるほどの力を持っていなかった。それなのに大きすぎる力を制御するために力を貸し続けて、自身の存在を保てなくなるまでになってしまったのだ。
この時幼い子供はもう幼くは無くなっていた。このままでは子供も自分も持たないと判った光は決断した。自分の力を子供に渡し、子供と有る事にしようと。
光は禍々しいものとなってしまったものの気持ちが痛いほどわかっていた。自分をここまで引き付ける子供。この子供が死んでしまったら、自分も禍々しいものへと変わってしまうだろう。それがわかるから、子供を死なせたくなかった。
あんなことがなければ、禍々しいものが愛した人間に近しいものを持つこの子供の中で、いつしか満ち足りて禍々しいものは消えていくはずだったのに。
自分に力があれば……子供を守れて、この悲しき禍々しいものも、あるべき姿へと返せたかもしれないのに……。
力がなくてごめんなさい。
君を導けなくてごめんなさい。
共に在れなくても、一緒に滅せられてあげるから。
それまで、この力で健やかに生きてね。




