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34 人を憎む精霊の生れの果ては……

 光の精霊王様からは微かに悲しさが伝わってきます。……精霊たちは……シランが言う通りにまずは加護を与えた人間のことを優先します。それはそうしないと、その人間が大きな力に振り回されて破滅しかねないからです。一人だけならまだしも、周りに甚大な被害を与えてしまうこともあるから、目が離せないのです。……つまり加護というのは名目で、本当は要注意人物のチェックを……えーと、マーカーをつけただけなのよ。


「ボクたちを拒絶するように仕向けた人間が、よく言えた言葉だよね」


 ミポルは余裕で言い返したの。……そういえば、シランは三歳からことを起こし始めたと、言っていたような……。


「そうさせたのはお前たちだろう。お前たちのほうが被害者ぶるなよ」

「被害者ぶってなんかいないよ。事実を言っているだけだよ。でもさ~、どうしてもボクにはわからなかったことがあるんだけど、教えてくれないかい」


 ミポルの言葉にシランは口元を歪めた。


「精霊ならなんでも知っているんじゃないのかよ」

「そんなことがあるわけないだろう。ある程度のことなら知ることが出来るけど、それでも場所や時間の特定ができないものは、知りようがないんだ」


 謎かけのようなミポルの言葉に、シランはもっと口元を歪めた。


「はっ! そんなざまで、神の代理人なんてやれるよな」

「うん、返す言葉はないね。だからさ、教えて。君はあの子(・・・)どこ(・・)出会った(・・・・)の?」


 ミポルの言葉にシランの体が(おこり)にかかったかのように震えだした。


「お前……が……お前ら……がー!」


 シランは自分で自分を抱きしめるように腕をつかんで、苦しそうに体を折り曲げた。それを見た精霊王様方が一斉に立ち上がると、シランに向けて左手を突き出すようにした。ミポルとスラミー、水の精霊女王様は部屋の中にいる人たちを移動させて、自分たちの後ろに来るようにした。

 その間にも、シランは苦しそうに転げまわりだした。机やいすをなぎ倒しながら転げる姿は、とても異常だった。


「何が起こっているの?」

「もうね、彼の体は限界だったんだ」


 私の口から出た呟きに、ミポルが悲しみがこもった声で言った。そして、精霊たちがやっと知り得たことを、とつとつと語ってくれたのよ。


 ◇-◇


 それはとても悲しい話だった。


 昔、人間と精霊はもっと近しいものだったそうなの。精霊は神に言われた『人間を教え導く』ために、精霊を奉る神殿を建てさせて、そこで神官や巫女に使えさせていた。まだまだ人間は幼くて素直だったそうなの。


 だけどある時、火の精霊を奉る神殿で、火の精霊に特に気に入られた巫女を、害することが起こったそうなの。その巫女は神殿に使える者の中では、魔力もあまりない、ただ素直さだけが取り柄の娘だった。だけどその素直な心に、精霊は癒されていた。だから見かけると声を掛けた。


 それが他の者にはひいきと映った。そのうちに娘はいじめられるようになった。でも、そのことを、火の精霊に伝えることはなかった。それがまた腹立たしいのか、謂れのないいじめはエスカレートしていった。


 娘が瀕死の怪我を負ったのは火によるものだった。きつい仕事ばかりを与えられ、眠ったと思うとすぐに起こされて仕事をさせられた娘は、寝不足と過労でフラフラになっていた。その娘がバランスを崩した先に火がついたロウソクがあった。その火が服につき瞬く間に燃え上がったそう。


 本来ならありえない事故だった。火の精霊の神殿に使える者は、火に対する加護を与えられるからだ。だけど、例外はあるものだ。この神殿で加護を与えられるのは、神殿に入って一年以上経った者か、魔力が強くて早急に加護を与えなくてはならない者かだった。神殿には貴族の子弟子女が、箔づけと行儀見習いとしてくるから、一年以上という期間が条件になったようね。


 つまりその娘にはまだ加護がなかったの。火だるまになった娘のことを、周りにいた人は茫然と見ていたそう。我に返り娘に水をかけて火を消した時には、もう虫の息だった。火の精霊は茫然として、死にゆく娘を抱きしめた。


 精霊にひいきをされていたから、他の人たちは加護を与えられたと思っていたらしい。


 巫女を失った火の精霊は自身を炎へと変えて、神殿を焼き尽くした。神殿にいた神官や巫女は逃げ出したけど、ほとんどの人が精霊の炎に焼かれた。かろうじて助かった人たちも、ひどい火傷を負っていたそうだ。


 この事を知った火の精霊王がその精霊を押さえようとしたけど、押さえきれずに滅したそうなの。


 そして……他の神殿でも、似たようなことが起こったという。愛した人間を失い暴走する精霊たち。元に戻ることはなく、滅することでしか助けられなかった。


 精霊王たちは話し合い、神殿は神を祀るところへと変えることにした。精霊たちはその時から人と接することを極力控えるようになったそうでした。


 あの暴走した精霊たちのことは魔精霊と呼ばれるようになった。人を愛し、それゆえに愛に狂ってしまった精霊たち。


 神は精霊と人を相容れないものとしてお作りになられたという。心は寄り添えても、交わることはないものとしたと、ミポルは語った。


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