33 黒幕は……って、ええっ!
側妃だけでなく、残った人たちは顔色をまた悪くしていた。真顔に戻ったミポルは腕を振った。開いていた窓が閉じて、外の喧騒が聞こえなくなった。
「こっからはさすがに国として醜聞が悪すぎるからね。他の国の人には内緒にしてあげるよ」
鋭い視線を国王たちへと向けるミポル。
「先ほどのことも、十分に醜聞ではないですか」
ラザクレア騎士団長が、皮肉気な声をあげた。
「別に人間の世界ではよくある事だろう。だけどさ、精霊殺しをしたと、他の国のやつらに知らせることはないんじゃないの」
「えっ?」
……これは誰の声だったのかしら。私の口から出たような気もするけど、他の人が言ったような気もするの。……とにかく精霊殺しという言葉に部屋の中にいる人は、息を飲んだのよ。そして、探るように部屋の中に残された人の顔を見ていったわ。
「神様がすごくお怒りだと言っただろう。神の代理人であるボクらを、蔑ろにしただけでなく、力を奪って死に至らしめたんだ。『神を恐れぬ所業だな。人間はこの世界にいらないだろう』とまでおっしゃられたんだよ。でもさ、それをされるとカミーラがいなくなっちゃうじゃない。それは困るから、この国を亡ぼすことで、いいにしてもらおうと思ったんだ。でもこれも、カミーラの友人たちが、ひいてはその家族、あとカミーラによくしてくれる人たちを殺すことになって、結局カミーラを悲しませることになってしまうからね。だから面倒だけど、カミーラに害になる者たちを排除して、ついでに正当な血筋に戻せば、あとの憂いもなくなるじゃん」
あっけらかんとミポルは言うけど……かなり衝撃的な内容なんですけど。正妃様や第一王子様、宰相様も真っ青な顔をしているんですけどー!
「君に気づかれないように動くのは大変だったよ。本当に君は巧妙に隠れていたよね。最初は君の父親が企んだことかと思っていたけど、違っていたんだよね。すべては君が企んだことだった。驚いたよ。まさか三歳の子供がすべてを企んで、周りを操っていたとは思わないじゃない。そして十五年を掛けてここまで成し遂げた。……でも、結局は潰えることになったんだけどさ」
ミポルの視線を追って、ミポルが見つめている人物を見たみんなの顔が、驚きに見開かれた。
「ま、まさか……お前が」
隣に座っていた騎士団長の息子が立ち上がって離れる。その彼の反対に座る人たちも、慌てて立ち上がって廊下側へと、寄っていった。
「君は本当にうまく擬態をしていたね。第二王子や騎士団長の息子たちを隠れ蓑にしながら、怪しまれない立ち位置で王宮にも出入りしていたようだし。魔術師団長の息子という立場もいい隠れ蓑だったんじゃないのかい。……ああ、違ったね。隠れ蓑にするために魔術師団長に近づいて、養子になったんだった。ねえ、シラン・ドワイト」
ミポルに指摘されたアホ……じゃなくて、魔術師団長の息子のシラン・ドワイトは、表情を変えずにミポルのことを、キョトンと見つめた。……けど、なんだろう、違和感を感じる。
……そうだ。目よ。シランの目は何も映してないのよ。
「ひどいですね。私に何かできるわけないじゃないですか。第二王子に宰相の子息、騎士団長の子息に、私が逆らえるわけがないですよね」
「それが狙いだったんだろう。派手な金髪の三人の陰にいれば、自分は目立たないとね」
確かにミポルの言う通りよ。シランは三バカと比べると、普通の茶髪にあまり彫の深い顔はしていない。三バカに比べたら、平坦な顔をしている……のだと思うもの。えーと、なんだったかしら。前に精霊たちが言っていた……モブ顔? どこにでもいそうで、印象に残りにくい顔をしているんだよね。それに比べて三バカは揃いも揃って金髪だし、くどいくらいに彫が深い顔立ちをしていたのよ。……えーと、おおバカが肩までゆるいウエーブのある髪を伸ばしていて、馬鹿一号は短髪にしていて、莫迦二号はこの二人の中間ぐらいの長さにしていたわ。
「本当にさ、見事だったよ。力を奪ったのが光の精霊だったせいで、ボクらは気がつくのが遅れたんだからさ」
ミポルの言葉にシランは眉をひそめた。それから息を吐き出して言った。
「心外ですね。どちらかと言えば私がしようとしたことは、精霊様方と同じことですのに」
「こいつらを操って、この国を瓦解させることがかい。でも、それをされると困ると言っただろう」
「そんなにカミーラ・ユンテスとレイニー・フェンダルが大事ですか?」
シランの台詞に棘が隠れている気がした。……押さえているけど、怒りのようなものを感じる。
「もちろん大事だよ。でもね、この世界に生きる人間すべてが大事であるんだよ」
「嘘を言わないでください! あなた方精霊は加護を与えた人間だけが大事なんだ。それ以外の人間がどんな目に遭ったって、助けようとしないくせに」
シランはミポルのことを睨みつけた。……ううん、ミポルだけでなく、前に座る精霊王様たちのことを睨みつけていた。
その視線を端に座る光の精霊王様は、眉をひそめて見つめたのでした。




