32 南の地に送られる罪人たちに……通達?
闇の精霊王様はミルキア様に話しかけました。
「ミルキア、其方はどうする。このままこちらにいて我と共に過ごすか、父について南の地にいくのか」
「私が選んでよろしいのでしょうか?」
闇の精霊王様の問いかけにミルキア様は困惑した声を出しました。
「もちろんだとも」
「で、ですが……」
ミルキア様はちらりと視線をクレメンス公爵に向けて、また俯いてしまった。
「その男のことをミルキアが気にすることはないぞ。そやつはお前の母のパターナを、婚約者がいるのにも関わらず、奪ったのだからな。そのまま大事にすればよかったものを、パターナに他に思い人がいると思い込んで、辛く当たっていたであろう。ミルキアにも同じではないか。この十八年、いかようにも話せたものを、無駄なプライドと嫉妬心で、訊くこともできなかった。自業自得というものであろう」
闇の精霊王様はクレメンス公爵のことを見つめながら、そうおっしゃられました。しばらくじっと黙って見つめていたけど、公爵が何も言う様子が見えないと気づき、小さくため息を吐き出して独り言のように呟かれたの。
「私がミルキアに会いに行ったのは、生後ひと月くらいの時だった。その時に加護を与えたのだが、ミルキアは見てのとおり黒髪だ。私が加護を与えた証は瞳の色が変わることで現れた。だが昼間、日の光の元でなら、ミルキアの瞳の色は本来の青い色になるのだぞ。お前は勘違いをしたと言っておったが、ミルキアとちゃんと向き合っていれば、わかったはずだ」
闇の精霊王様の言葉に、クレメンス公爵はグッと拳を握りしめた。その様子を見て、闇の精霊王様のことを見てから、ミルキア様は意を決したように口を開きました。
「お父様、申し訳ありませんが、私は南の地にはまいりません。お父様が誤解なさっていたとしても、今までのなさりようを忘れることはできません。結局お父様も、自分が見たいものしか見ておりませんでしたのね」
悲しみを湛えた瞳でクレメンス公爵のことを見た後、堪えきれなくなったようにミルキア様は涙をあふれさせてしまいました。隣に座るジョシュがそっとハンカチを渡したら、ワッと声をあげて泣き出してジョシュの胸に縋りつくように顔を埋めたのでした。
「な、なんだ、それは! ミルキア、お前は私の婚約者でありながら、他の男に抱きつくとは。お前こそ、不貞を……ぎゃあっ」
はあ~。ま~た、おおバカが騒ぎだしたわ~。……と思ったら、火の精霊王様がいつの間にかおおバカのそばに移動して、額を指ではじいたのよ。おおバカは額を押さえてのたうちまわっているわねえ。
「お前に不貞云々を言う資格はないだろう。どっちにしろお前とミルキアの婚約は解消だからな」
火の精霊王様は不機嫌にそう言うと、席へと戻ったのでした。……なんか、かっこいい~。
「さ~てと、それじゃあ~、南の地に行く人を教えるね~。もちろん、拒否権は無しだからさ~。あと、その家族にも教えるから~、どうするか決めるんだよ~」
ミポルがそう言ってすぐに、窓の外で悲鳴が上がった。……私には何も聞こえなかったから、南の地に送られる人と、その家族にだけ伝えられたのだろう。
「さっきも言ったけど~、向こうで~、必要だとおもうものを~、リストアップしてね~。一緒に送ってあげるからね~」
にっこりと笑顔をみせたミポルは、どこからか紙とペンを取り出して、国王以下南の地に送られる人たちのところに置いたのでした。
「あ、あの、家族に会わせていただけませんか」
後ろのほうに座っていた人が、意を決したような顔で、ミポルに言った。ミポルは「ん~」と、考えている。瞬きを数回した後、「ふむ」と言ってから、口を開いた。
「あ~、そうだよね~。お別れをしたいよね~。それじゃあ、一度邸に戻してあげるね。でも~、そんなに時間はあげられないからね~。一時間でいいかな~。それじゃあ、邸に戻りたい人は立ち上がってね~」
ガタガタと音がして、椅子から立ち上がった人たちを「ほい」という掛け声と共に、ミポルは窓から放り出した。……じゃなくて、その人たちはそれぞれ自分の家へと送られたのだろう。ああ~、風の精霊たちが楽しそうに、その人たちを引っ張っているわ。……まあ、運ばれていく彼らには、その姿は見えないのでしょうけど。
えーと、それで、邸に戻らないと、立ち上がらなかった人たちが何人かいるのよ。戻る必要がない人(つまりここが自宅? である、国王と側妃と第二王子)は、いいのだけど、騎士団長とその息子、あと宰相の息子が残っているの。……あと、先ほど窓の外に出されていた、魔術省の長官が部屋の中に戻されて、椅子に座らされているのね。
「さ~てと、それじゃあ~、もうすこ~し、話をしようか~」
にっこりと笑いながらミポルが言ったけど、目が笑ってないよ~!
「それはひどいですわ。私も部屋に戻り、持っていくものを確認したいですわ」
側妃がそう言ったけど、火の精霊王にジロリと睨まれて、体を縮こまらせた。
「その必要はないよね~。さっきいったじゃん。側妃の部屋の物すべてだって。一応さ、その紙に書きだしてよね。書かれたものは出来うる限り送ってやるからさ」
ミポルが笑顔を消して言った。
「先ほどと、言っていることが違いますわ」
「違わないよ。言っただろう。この国で代々伝わるような国のものは、省くって。先代の王妃のものとか国宝と指定されているものは、お前のものじゃないからな。それ以外で、そいつから送られたものなんかは持たせてやるんだ。それ以上を望むというのなら」
ここで言葉を切るとミポルは、にやーと、嫌な笑みを側妃へと向けたのでした。




