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31 誤解は……取り返しがつかないことを引き起こす

「私もですの?」


 やっと降ろされた側妃のガルシアが口を開いた。まだ恐怖が拭えないのか怯えた顔をしているけど、それでも目に力が入っていた。


「そうだよ。当たり前じゃん」

「私は……いえ、わかりましたわ。それでしたら、私も私の部屋の物すべてを持っていきますわ。よろしいのですわよね」


「ん~」と、ミポルは少し考えた。


「この国に代々伝わるもの以外ならいいよ~」

「きっとですわよ」


 念を押すように言ってから、ガルシアは視線を前に向け、すぐに逸らした。ガルシアの視界に国王が入ったからだろう。


「私も南に送られるのですかな」


 今度はクレメンス公爵が口を開いた。


「そうだよ」

「それならば、家族と共に行くこととしよう」


 公爵の言葉に、私の目の端に見えていたミルキア様がビクリと体を揺らした。……私はつい『何を言ってんだ、こいつ』と、公爵のことを睨んでしまった。


「バッカだな~。そんなことを許すわけないじゃ~ん」


 ミポルがにっこりと笑いながら公爵に言った。公爵は怪訝そうにミポルに問いかけた。


「精霊殿は先ほど家族と一緒に行っていいとおっしゃいましたよね」

「言ったよ~。家族が(・・・)一緒に行ってもいいと言ったらね~、とね」

「ならば、私が一緒に連れて行くと言えば、いい事でしょう?」

「だ~か~ら~、罪の無い家族が、なんで流刑地についていかないといけないのさ。選択権は罪人にはないんだよ~」


 この言葉に目を見開く人たち、多数。……私はホッとしたのよ。罪人側にミルキア様の父親であるクレメンス公爵がいたからね。あの、おおバカがミルキア様との婚約破棄を言い出した時も、ミルキア様のほうを怒った人だもの。無理やり連れていかれたらどうしようかと思っていたのよ。あ~、よかった~。……それなのに。


「何を言われますか。妻が夫に従うのは当たり前でしょう。娘にしても、婚約者が向こうに行くのなら、娘も行くべきでしょう」


 と、のたまいましたよ。私は「それを」と言いかけたところで、圧がじわじわと広がってくるのを感じて、口を閉じたのよ。見ると、闇の精霊王様から力が漏れ出ていらっしゃるの。


「お前にパターナもミルキアも、ついていかせはせぬからな」

「な、何を言われますか。妻と娘のことは家長である私に……ぐっ」


 果敢に言い返したけど、圧力に屈して胸を押さえて黙り込んだ公爵。それに冷ややか視線を向ける闇の精霊王。


「本当に愚かな男だな。お前は罪人だと言っているだろう。罪人に家族がついてくると思うほうがおかしいだろう」

「で、ですが……妻と娘が残っても、領地はその南の地で」


 ……知らなかったわ。クレメンス公爵領は南にあったのね。……えーと、でも、精霊王様方が、そういうことを考えてないわけは……ないわよね? 人間の世界のことには……ああ~。そうよ~。疎いわけがないわ。学院に行くまでいろいろなことを教えてくれたのは、精霊たちだったもの。それなら、安心……よね?


「お前がそのようなことを心配する必要はないわ。我が加護を受けしパターナとミルキアは、生涯我に使えることになるのだからな」

「はっ? な、なんと?」


 クレメンス公爵は体を震わせだした。思いがけないことを言われたと思っているようだ。その様子を、闇の精霊王様は目を細めて見ている。……というか、公爵って、本当に気がついていなかったの? ミルキア様に闇の加護がある事に。……え~、マジなの~。ええっ~! それだから、第二王子の婚約者に選ばれたんじゃ、なかったのー! うわー、そこまでこの国の上層部ってマヌケばかりだったんだー。


「ええっと、いつ、娘に加護を与えたというのでしょうか?」


 マヌケな質問をする公爵。……ん? ということは、公爵は出産時に邸にいて、いまかいまかと生まれるのを、待っていたということなの? それにしてはミルキア様に対して、愛情を示すような行動は見られなかったと思うんだけど? 宮廷内の噂では、ミルキア様の瞳の色が公爵とは違うから、夫人の不貞を疑ったとか、何とか……。


「お前はそれを忘れているのか? ミルキアが産まれた時に私と会ったこともか」


 闇の精霊王様は眉を寄せて、クレメンス公爵のことを見つめた。公爵も闇の精霊王様のことを見つめ返し……何かに気がついたような顔をしたと思ったら、汗をだらだらと流し始めたのよ。


「ま、まさか。あの時に会ったのは、精霊王だったのか」


 ……あー、なんか、見えたかも。たぶんミルキア様の出産時に、闇の精霊王様が加護を与えにいらしたのね。その姿を見た公爵は、夫人の浮気を疑ってしまった……と。たぶん加護のせいでミルキア様の瞳の色が黒に変わってしまったことも大きかったのでしょうね。


「なんだ。私のことは、気がついていなかったのか」


 闇の精霊王の言葉に、頭を抱えだしたクレメンス公爵。


「なんということだ。私は……私は、なんという勘違いを……。ミルキアの瞳の色が私達と違って黒かったから、てっきり不貞を働いてその子供を産んだのだと思っていたのだ」


 顔をあげてミルキア様のことを見たクレメンス公爵は、何とも言えない顔をしていた。許しを請うような、泣き出しそうな、何とも頼りない表情を……。


 ミルキア様は悲しそうにクレメンス公爵から目を逸らした。


「ミルキア……」


 公爵はそう言ったきり、言葉に詰まり顔を伏せてしまったのでした。


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