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27 レイニーの事情

 ミポルがとても愛おしそうに私のことを見つめている。私はミポルから風の精霊王、火の精霊王、光の精霊王へと視線を移していった。皆様は私と目が合うと、優しく目を細めて頷いてくれた。……そして私は反対側へと、視線を移していった。スラミーから、水の精霊王、水の精霊女王、土の精霊王、闇の精霊王へと。皆様も同じように優しく微笑み返してくれた。


 私は……私を抱きしめているレイニーへと視線を移した。レイニーも微笑み返してくれた。


「じゃあ……レイニーは? レイニーはどうなの。レイニーだって魔力が多いわ。……レイニーの誕生は待ち望まれなかったというの?」


 私は悲しい気持ちで呟くように言った。レイニーは……レイニーは……。


 そっとレイニーごと、誰かに抱きしめられた。


「カミーラ、泣かないで。レイニーの誕生も、待ち望まれていたのよ。ただね、あの時のレイニーの生みの親には、レイニーを手放さなくてはならない事情があったの。一縷の望みをかけて精霊(わたしたち)に託してくれたのよ」


 微笑みと共に、私の目に浮かんだ涙をそっと拭ってくれた、水の精霊女王様。


「じゃあ、レイニーが望めば、生みの親に会うことが出来るの?」

「ええっ、もちろんよ。レイニーを育ててくれたご両親に遠慮をして、彼らからは会いたいとは言ってこないわ。でもレイニーが望めば、ね」


 私はレイニーのことを振り仰いだ。


「レイニー」

「うん、そうだね。……会ってみたいかな」


 レイニーの目が涙で潤んでいた。


 ◇-◇


 レイニーは……この国では珍しい髪の色をしている。この髪色はここより北の地に多いと聞いた。たぶん生まれはそちらなのだろう。


 水の精霊王様、精霊女王様がレイニーのことを我が子(・・・)といったのは、お二人がレイニーの養い親だからだ。……と、お二人は思っているけど本当は違う。レイニーを育てたのは人間の両親だ。


 養い親であるレイニーの両親は、私の親と同時期に妊娠をした。けどその子は産み月間近に亡くなってしまった。膨大な魔力を持ったその子は、母親のお腹の中で魔力を暴走させそうになったらしい。でも、母親を巻き添えにしないために、自分の意志でお腹から飛び出して果てたと聞いた。


 その二日後に私が無事に産まれて、周りは安堵したそうだ。ただ困ったことに私の母はあまり乳の出が良くなかったみたいで、レイニーの母からもらい乳をして育てられた。それが十日ほど経った時に、水の精霊王様と精霊女王様が揃って現れたの。腕には赤子を抱いていたそう。お二人は詳しい事情は語らなかったけど、親の無いこの子を育ててくれないかと言ったそうでした。レイニーの母は震える手で赤子を受け取り、その胸に抱きしめた。


 生まれてから約十日、ほとんど泣き通しだった私が、レイニーが側に来たことで泣き止んだそうなの。それからうちの両親とレイニーの両親との共同での育児が始まったというわ。


 ……いや、母よ。その前から私はお乳をもらっていたじゃないか。生まれた時から母親が二人いるようなものだっただろう。


 ではなくて、実は私はこの頃のことをおぼろげながら覚えているのよ。……ううん。本当はもう少し前。たぶん母親のお腹にいる時から、なんとなく周りのことがわかっていたわ。だから私と同じあの子(・・・)が、自分の意志に反した状況になって、母親を守るためにいなくなることを決意したことがわかって……。本当にあの子の気配が消えて、私は……怖かった。無事に母のお腹から出た後も、いつあの子と同じ状態になってしまうかと、震えていた。不安を訴えたくても、私の声は言葉として周りに届かなかった。


 そんな時にレイニーが側に来てくれた。初めて会った時、偶然だけど、レイニーと手が触れた。その時、とても安心したの。彼はこれからずっと一緒にいてくれる。私を守ってくれる、運命の相手なんだと思ったの。


 そうして安心した私は、レイニーと共にみんなに見守られて、健やかに育ったの。


 でもレイニーは物心がつくと、密かに悩みだしたのよ。一人だけ髪の色が違うと、気がついたから。私は髪の色は母から、瞳の色は父から受け継いだ。レイニーの養い親はどちらも茶色い髪に緑色の瞳をしていたの。レイニーの両親は幼い息子の疑問に、真摯に答えていたわ。血を分けた子供でなくても、レイニーのことが大切だと言っていたの。この後、お二人に実子が産まれたけど、分け隔てなく接しているのよ。だからレイニーは血のつながりがなくても、ご両親のことを大切にしているの。


 ◇-◇


「さて、すこし話が逸れてしまったねえ~。とりあえずは横槍を入れなかったことは褒めてあげるね~。というわけで、続きに行こうか。……というかさ、さっきも言ったけど、王位をさっさと返上したらどうなの?」


 抱き合っている(抱え込まれているというほうが正しいかな?)私達を横目に見てから、ミポルが話を戻すように言った。


 集められた人たちの視線が国王へと向いた。……だけど国王は、奇妙に落ち着いた表情をしていた。国王の視線は水の精霊女王様のことを見据えるようにしている。


「精霊女王よ。先ほど、其方は言ったな。第一王子が私の血を引いていないと。……ということは、フェリシアは不貞を働いていたということか? 私を(たばか)っていたということなのだな」


 地の底から呪詛を吐くがごとくに、国王の口から低い声が漏れ出たのだった。


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