第1話 勇者パーティ
始まりは、俺が異世界に召喚された時までさかのぼる。
俺は勇者としてセレスティア王国へと召喚され、勇者として魔王に立ち向かうこととなった。当時の女神であるセレスティアから勇者としてのギフトを授かった俺は、その力で多くの人々を救う旅に出たのだ。
最初は一人で始まった旅だったが、旅を続けるにつれて仲間も増えていった。
まず仲間に加わったのは、神聖魔法の使い手であり、聖女と呼ばれていたセラだった。
出会う前の俺は、聖女というものを近寄りがたい存在だと思っていた。しかし、実際の彼女はそんな印象とはかけ離れていた。
セラはどのような身分の相手であっても分け隔てなく接し、誰よりも民を大切にしていた。彼女がいる場所には自然と笑顔が広がり、誰かが苦しんでいれば、自分のことを後回しにしてでも手を差し伸べる。まさに、聖女と呼ばれるにふさわしい女性だった。
腰のあたりまで伸びた銀色に輝く髪に、すらりとした美しい立ち姿。そして何より、彼女のまぶしい笑顔に、俺はすっかり心を奪われてしまった。
今思えば、一目惚れだったのだろう。
俺の勧誘を彼女は快く引き受けてくれた。
民を守るため。
世界を守るため。
彼女は高潔だった。
「――私たちで、世界を救いましょうね?」
こうして、セラがパーティーに加わった。
彼女の神聖魔法は俺たちの後方支援だけでなく魔族に対しても強力な力を発揮した。そして何より、彼女の存在そのものが、幾度となく俺たちの心の支えとなったのだ。
次に仲間になったのは、ソロのS級冒険者として活躍していた戦士のネルフだった。
ソロで活動することに固執していた彼を説得するのには、随分骨が折れた。
「あ? 興味ねぇよ。勇者だかなんだか知らねぇが、俺は誰の下にもつかねぇ。俺は一人で最強だ」
これは初めて勧誘した際に言われた言葉である。ついでに睨まれ、威圧もされた。俺たちは諦めずに彼の元を訪れたが、いい結果は得られなかった。
そこで俺は決闘を提案した。決闘で俺が勝てばパーティーに加わる、負けたら二度と顔を見せないという条件を出すとネルフも頷いた。
だが、いざ始まった決闘は一方的なものだった。どれだけ勇者のステータス補正やスキルがあると言っても実戦経験ではネルフに遠く及ばない。
俺の攻撃はほとんどいなされる一方、ネルフが振るう巨大な戦斧は一撃一撃が重く、受け止めるだけでも全身に衝撃が走った。
それでも、俺も引かなかった。
ネルフと接する中で、彼の実力と経験は俺たちの旅に必要だと確信していたからだ。それに、ここで諦めてしまえば、以前の自分と何も変わらない気がした。
俺は急所だけは何とか守り、傷だらけになりながらも懐へ飛び込んだ。そして、残された力を振り絞って必殺の一撃を叩き込む。
しかし、その一撃さえもネルフは寸前で受け止めた。
「もういい」
「いや…まだだ……」
「いや、終わりだ。お前は俺より弱ぇ。……だが、お前の覚悟は見せてもらった。条件とは違うがついて行ってやるよ」
その言葉を聞いた時、全身から力が抜けたのを覚えている。結局、俺はネルフに勝つことができなかった。だが、少なくとも俺の覚悟は、彼に届いたらしい。
こうしてネルフがパーティーに加わった。
口は悪く、不器用な男だったが、その実力は本物だった。彼の豊富な経験と圧倒的な戦闘能力は幾度となく俺たちを窮地から救い、最後まで頼れる前衛として戦い抜いてくれた。
最後に仲間になったのは、王国で名高い魔法使い、ロアリスだった。
彼女は魔法に対する好奇心が非常に強く、当時は森の奥にある小屋に引きこもり、魔法の研究ばかりしていた。
「ハァ? アタシがアンタたちについていくの? 嫌よ。アタシは忙しいの」
魔法第一のロアリスは、俺たちの話をまともに聞こうともせず、適当にあしらって追い返そうとした。
だが、俺が勇者の魔法を見せた瞬間、その態度は一変した。
「その魔法! そんなの見たことがないわ……。あなたもしかして勇者なの?!」
俺たちはもちろん最初に自己紹介をしたのだが、ロアリスは聞いていなかったらしい。
それからしばらく、俺は彼女の質問攻めに遭った。俺自身にも分からないことまで聞かれたが、それでも彼女の興味は尽きなかった。
やがて彼女は何かを決意したように立ち上がると、杖を持ち魔導書を鞄へ詰め始めた。
「分かったわ。ついていってあげる」
「さっきまで嫌だと言っていなかったか?」
「気が変わったのよ。アンタの魔法を研究するには、近くで観察するのが一番でしょう?」
どうやら、未知の魔法という魅力に彼女は抗えなかったらしい。
こうして、ロアリスがパーティーに加わった。
彼女の豊富な知識と多彩な魔法は、戦闘だけでなく旅のあらゆる場面で役立った。魔法のこととなると周囲が見えなくなる困った一面もあったが、それも含めて、彼女は俺たちにとって欠かせない仲間となったのだ。
こうして集まった四人で、俺たちは魔王討伐の旅を続けた。
道中では多くの町や村を訪れ、魔物に襲われた人々を救った。そのたびに感謝され、時には盛大に歓迎されることもあった。
そんな人々の笑顔を見るたびに、勇者として召喚された意味が少しずつ分かってきた気がした。
だが、旅は決して楽しいことばかりではなかった。
俺たちはその道中で、数え切れないほどの魔物や魔族を殺した。
初めの頃は、生き物の命を奪うことに強い抵抗があった。元々俺には殺しなど縁遠いものだったのだ。だから、たとえ襲いかかってくる相手であっても剣を振り下ろす瞬間には手が止まった。
だが、異世界はそんな甘さが通用する場所ではなかった。
魔物に人間のような知性はない。ただ本能のままに人間を襲い、魔力によって強化された肉体や、生まれ持った魔法で命を奪う。言葉を交わすことも、分かり合うこともできない。
俺がためらっている間にも、誰かの命が奪われる。
実際、俺たちはすべての人を救えたわけではなかった。助けが間に合わず、目の前で命が失われることもあった。
そんな経験を重ねるうちに、俺は少しずつ理解するようになった。
誰かを守るためには、時に誰かを殺さなければならない。俺が剣を振るわなければ、代わりに仲間や罪のない人々が傷つくのだ。
そう自分に言い聞かせながら戦い続け、いつしか俺は魔物を斬ることに躊躇しなくなっていた。
だが、魔族を相手にした時、俺は再び躊躇した。
彼らの多くは人間とよく似た姿をしていた。言葉を話し、考え、笑うようなそぶりをとることさえあった。魔物を迷わず倒せるようになってからも、人の姿をした相手へ剣を向けることには抵抗が残っていた。
しかし、魔族は人間と姿が似ているからといって人間を見逃したりはしなかった。
彼らは高い知性を持ち、村を襲い、人々を追い詰め、恐怖を与えた。魔族は人間の恐怖を好む。より強い恐怖を引き出すために、あえてすぐに殺さない者さえいた。
彼らにとって、人間は対等な存在ではない。ただの獲物であり、食糧だった。
その現実を目の当たりにしてから、俺は魔族を前にしても剣を止めなくなった。
相手がどれだけ人間に似ていようとも、守るべき人々を脅かすのであれば、迷わず斬る。それが、勇者としての俺の役目だった。
そうして俺たちは、幾度となく死線をくぐり抜けながら、魔王のもとへと歩みを進めた。
そして、長く過酷な旅路の果て――
ついに、俺たちは魔王を打ち倒した。




