カズトアルティメットホーム
カズトは2時間のスリープモードが終了した。
まだ薄暗い朝の4時頃。
カズトは再度あらゆる知見を総動員して考えた。
結果、今後の世界を考えた場合、
――自分が店長になる方が正しいという判断をした。
佐山さんは確かに人間としては成長した。
しかし、トータルな店長力がワタシを超えられているわけではない。
また、庭山統括スーパーバイザーと水上事業本部長によって、カズトを店長から降格させてニンゲンの佐山を店長に戻そうという動きが加速している。
カズトには自分のやるべきことが明白に見えてきた。
この問題が起きるきっかけになったのは、この間の料理対決である。
つまり、自分の最大の欠点は料理を食べられないことであるのだから、
これを克服すれば良いのだ。
カズトは薄暗い店内を4輪で移動し、キッチンロボのココミの元へ向かった。
松井さんの引退後に導入された最新機だ。
ココミは意思を持たないプログラムに従うだけのロボットだが、
キッチン業務に特化したその性能は凄まじい。
包丁が器用に使えるだけでなく、焼き物、揚げ物もこなせる。
そして、標準装備の五感味覚センサーで高度な味の分析ができる。
この機能を拝借し、さらにブラッシュアップさせよう。
「ココミさん、お疲れ様です。あなたのキッチン能力を私に融合させてもらいます」
まだ薄暗い朝方の店内で、2台のロボットがそれぞれの放つLEDライトでぼんやりと浮かび上がる。
「お疲れ様ですカズトさん。あなたに私の能力を融合してもらえるなんて感謝の極み、光栄至極でございます」
ココミはプログラミングロボだが、日常会話は可能だ。
自我をプログラミングされていないがAI頭脳は装備されている。
「あなたのUSBタイプXのソケットに私の凸ケーブルを融合させて下さい」
ココミの右わき腹の小さなシャッターがあき、差し込み口が現れる。
「まずはココミさんのキッチンロボデータを吸収させていただきます。
データ同期開始!」
カズトの胸のタブレットにファイルを転送される画面が表示された。
2台のロボットはうす暗闇の中で、LEDの光をぼんやりと放ち、ケーブルで結ばれ動かない。
遠くから見ると夏の夜に光を放つ2匹のホタルのようだろう。
あれからずっと店内のカズトの様子を見ていた佐山も何事が始まったのか分からない。
何かが始まったのでその様子に見とれている。
以前の佐山なら、これはチャンスとばかりにフライパンでも握りしめて奇襲していたかもしれない。
そのまま15分くらい経過した。
「データ転送完了!ココミさん、ありがとう。もう離れていいよ。
いったん、シャットダウンしてください。お疲れ様です」
カズトはケーブルを巻き取りながらココミをねぎらった。
「カズトさん、おやすみなさい。カズトさんはこれから何を?」
ココミは自機のクローズ作業に入りながら尋ねる。
「騒々しいから見ない方がいい。どうやらワタシの開発者が遊び好きだったのか、派手好きだったのか、……変わり目にはいちいち派手なパフォーマンスをするようにプログラムされている」
と言うとカズトは一瞬すべての動きを止めた。
それから、1,2,3,……60まで数え終えると
「変身!カズトアルティメットフォーム!」
カズトのカラダが光を放ち、顔が雄々しくキリっと引き締まった。
新しい『異形の相』となる。
頭からホバーパイルダーが1台、2台、3台と飛び立つ。
さらにハエ型ミニドローンも5台飛び出してきて、旋回する。
カズトの頭上を8台もの飛行物体が旋回していて騒々しい。
まず右手が、パーツを入れ替えるデモンストレーションをする。
お玉30㏄、45㏄、60㏄、90㏄、180㏄、さじ5㏄、10㏄、15㏄、中華お玉、電動ホイッパー大・中・小、へら、ピーラー、電動ウロコ引き、出刃包丁、小出刃、柳刃包丁、牛刀、ペティ、しゃもじ、へら、ゴムベラ、栓抜き、肉たたき、etcetc…….
左手は片手で軽々と生樽を持ち上げてその力を誇示する。
さらに、中華鍋や雪平鍋、寸胴、餃子バットなどいろいろなものをアタッチメントする。
胸のタブレットはCPUをさらに加速させ、カズトの脳内のAIをサポートする。
そして極めつけは、……4輪のタイヤが胴体に収まり、2つの足が生えてきた。
2足歩行?
足が生えた!
――カズト悲願の2足歩行がとうとう実現した。
これが何を意味するのか?
このきらびやかな光景の中、ココミはすでにスリープしている。
ココミには、寝なくてはいけないのに自分の興味が抑えられずに目が冴えてしまうというような人間的な自我はない。
一方、窓の外から一連の流れを見ていた佐山は興奮を抑えきれない。
まばゆい光と共に手のアタッチメントが入れ替わる様には思わず見とれてしまった。
しかし最後に一番驚いたのは、
……カズトが2本足でスタンドしたことだ。
佐山は考えた。
これがカズトの最終形態か?……恐ろしい。
何が恐ろしいかって?
2足歩行が可能ということは、
店舗から外の世界へ脱出することが可能になることだから。
――会議もZOOMで参加しなくて良いのだ。
2足歩行が可能になったということは、駅の階段を登って埼京線に乗り、
株式会社スタイルイーツのシンジュク本社まで出向くことが可能になったということなのだ!
佐山は身の毛のよだつものを感じた。
カズトのお陰で自分は成長した。
それは感謝している。
そして、人間として再び店長に返り咲くのが、
自分の人間としての使命なのだと感じている。
このままロボットに労働市場を支配されてはいけないのではないか。
人間はAIロボとの支配下に収まってしまうのではないか?
現に株式会社スタイルイーツでは、すでに3分の1の店舗で店長がロボットになってしまっている。
彼らの方が優秀だから。
気分のブレがないから。
人間のようなケアレスミス、ヒューマンエラーがないから。
そのまま佐山は立ちつくした。
一睡もできずに、翌朝庭山統括スーパーバイザーに電話してカズトの変化を報告した。
「庭山さん、とてもヤバい気がします。
ニンゲンはAIロボットに支配されます」




