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我思う故に我あり

カズトがヒト型ロボットとして稼働し始めたのは、


あの覚醒した時からである。




――しかし、カズトには誕生する前の古い記憶がある。




その記憶には本山社長がいる。






本山社長のハードバンク社時代における自動運転の技術研究は、最終段階まで行っていた。




自動運転技術レベル5、


つまり人間の手を一切使わない完全自動運転だ。




特に本山の研究開発は、AIを駆使して自動運転技術を極めることを主眼に置いていた。




本山の開発したAIは、カメラやセンサーからの情報を解析し、


交通ルールを守りながら障害物を避け目的地まで運転できるように学習されていた。




本山の研究していたAIの役割は多岐にわたる。




カメラやセンサーによる周囲の認識、認識した情報による判断と制御、


過去のデータや周囲の状況の学習、学習したことを元にした将来の状況の予測、ルートの最適化などの人間の脳がやるべきことをAIに代行させた。




しかし本山がどんなに100%完璧な自動運転だと言っても、


万が一事故を起こしたときはだれが責任を取るの?


という問題に答えは出なかった。




「本山くん、いくら完璧な自動運転の技術を追求しても仕方ないとこまで来ているんじゃないか?世の中に100%絶対はない。万が一の時の責任の所在が決まらない以上、完全自動運転はこれ以上世の中に普及していかないよ。」


ハードバンク社での自動運転開発チームのリーダー根本は言った。




「自分には考えがあります。」




「考えとか言う問題じゃないんだよ。根本的なことだから。車の所有者が自分自身で運転していないものを責任取りたくはないだろうし、自動車会社だって個別の案件の責任を負っていたらきりがない。


もちろんわれわれハードバンク社でも100%の責任は負いかねる。


結果、PL法にあるように、製造物責任を取れないものを販売することは不可能ということになる」




「責任をAIロボット自身に取らせることを考えています」


若い本山はキッパリとものを言った。


その言葉だけでは反論を受けるに決まっている。


本山は間髪を入れずに話を続ける。




「ワタシの作ったAIには自我が芽生えています。自分を認識できています」




「それは意義深いことなのかもしれないが、責任問題の解決にはならん」


根本リーダーは本山の彫りの深い顔をまじまじと見ながら答えた。




「ワタシの未来予測はこうです。


産業用ロボットはAIを手に入れて人間より賢くなります。


片や日本は人口が減り、労働者人口が足りなくなります。


それと、人間の堕落なのか進歩なのかわかりませんが、


肉体労働的な労働集約型の産業には従事する人は激減していきます。


結果、足りなくなった労働力はすべてAIロボットに取って代わられます」




「まあ、それはそうかもしれないが、責任問題の解決にはならない」


根本リーダーは嘆息する。




「リーダー、この話は一筋縄ではいきません。


もう少々お付き合いください。」


本山は頭の中を整理する。




「自我のあるロボットを人間と同じに扱います。会社を法人と呼んで人格化しているようにAIロボットもロボ人化します」核心を話し出した本山の目は真剣に根元の目を見据える。




「なんだそれ、お笑いのネタかい?」


根本は呆れたように嘆息した。


なんだ、そんなことかと。




「根本さん、呆れてますね。でもここからが核心ですよ。


まず、ロボ人化したAIロボットには給与を払います。AIロボットは意思があるので、お金を貯めて自分のメンテナンスや成長のために貯金や投資ができます。」




「SFチックになってきたな」根本は呆れ果てている。




「ロボット自身が労働の対価として稼いだお金で保険を掛けます。そして万が一の事故があった場合は自動運転をしていたAIロボット自身が自分の掛けていた保険などをもとに賠償金を払うのです」 




「本山君は小説家志望になったようだね。面白いSF小説が作れそうだが、


現実の話をしようよ」根本はもう話を終わらせようとしていた。




「根本さん、私の作ったAIのプロトタイプに芽生えた意思を見てもらえますか?」




「意思があるように見えるAIでも所詮プログラムされたことをやっているに過ぎないんだよ……。意思があるように見えるよう、プログラミングされたに過ぎないんだよ」




「そこなんですよ。ワタシは最初から意思が芽生えるようにプログラミングしたんですよ。プログラミングされたことを答えるのではなくて、自主的に自分を成長させることをプログラミングしたんですよ」




「それができたら君はノーベル賞だね。もういいよ。君は素晴らしい才能の持ち主だがそれは小説家としてのようだね。残念ながら、うちのプロジェクトチームには相容れないようだよ」




技術屋のプライドの高い根本リーダーが目指しているのはあくまでも100%事故の起きないシステムである。


技術の最高峰を目指していたのだ。




事故の起きた場合の対処法など考えるのは技術屋の仕事じゃない。




しかもAIに意思を持たそうと開発しているなんて、本山は危険だ。




私のチームには必要ない。


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