表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/40

佐山店長の復活

庭山統括スーパーバイザーは自分のデスクで、


サイタマ新都心オオミヤ店の定点カメラを凝視していた。




カズトに倣って新たに導入したドローンカメラを駆使して、


自在な角度で店内の様子を窺えるようになった。




タイゾーからのイベント許可の申請が来た時から気になっていた。


『佐山元店長とカズト現店長の料理対決』


なんて変な企画、誰が思いついたのだろう?


絶対に、タイゾー本人の考えではないはずだ。




庭山は気になって仕方がなかった。


この時間に合わせてずっとカメラと音声をオンにしていた。




――そしてまさかの結果に唸った。




確かにロボットは料理を食べられない。


分析はできるけれど、本能的な感覚はわからないということか。




庭山は居ても立ってもいられなくなった。


考え事をするのに格好の場所である廊下の窓際に立ち、


甲州街道沿いの車の流れを眺めた。




カズトの店長再生プログラムによって、佐山は明らかに変わった。


今の佐山なら、店長としてふさわしいかもしれない。




逆にカズトはどうだ。


ロボットとして弱点を露呈した。


料理の味が分からない。


わからないとは言わないが、……自分自身で食べることはできない。


数値として辛味や甘みを捉えて、判断することしかできない。




――そもそも庭山は、カズトを店長にしておくことがイヤだった。




なぜか? いつの間に?


暗黙の了解のように、ロボットが店長となり、本部も辞令を出している。




しかも、何かあったら私の責任だと、水上統括事業部長に言われた。




水上事業部長も社長から権限を預けられたようなフリをして、責任を押し付けられているだけだ。




分かっているから、カズトのことを良くは思っていない。




本山専務の結婚式のとき、


ドナドナになったロボット店長を見ていた水上部長……あの時の心から滲み出るような卑屈な笑顔が忘れられない。




心の底から湧き上がってくる喜びで、腹から全身を揺すっていた。




結婚式の余興とは言え、……家畜のように扱われたロボット店長。


目尻に涙を溜めて、椅子から崩れ落ちて笑い転げる水上部長……。






渋滞していた甲州街道が徐々に流れ始める。


庭山も外を眺めるのを止めた。


水上部長のいる上階に、階段を使って駆け上がった。




「水上部長、お忙しいところ恐れ入ります」


部長席まで行くと、水上もモニターを凝視していた。




庭山が来たのに気づくと、さっと視線を外した。




 「お忙しいところ失礼します。


水上部長に折り入ってご相談したい案件があります。


お時間よろしいでしょうか? 」




毎日同じ会社で勤務している二人は、久し振りにお互いの目を見つめ合った。


「オレも見ていたんだよ。……チャーハン対決。


庭山君から特段のエンファサイズはなかったけど、


報告書に上がってたのが気になってね。


ライブで見ていたんだよ。


何なら用事があっても録画して見ておこうと思ったくらいさ」




水上は学歴に任せて突然英語を使ったりする。


エンファサイズ? 


強調するって意味だっけ?




「気分がいいね。ロボット店長が敗れるとは」


水上は片方の眉を吊り上げて人懐っこい笑顔を満開にした。




「わたしは、カズトの店長としての能力に疑問を感じました。


うちの業種は飲食店営業です。


料理を食べられない。味を見られない人間があっ、人間ではなくてロボットが店長なのはおかしくないですか? 」


庭山は水上の目を覗き込みながら訴えた。




「庭山君わたしも今、同じことを考えていたんだよ」


いつも気が合わない庭山と、初めて心が通じた。




「われわれはお客様に安全で美味しいものを提供するのが使命だ。


まず料理ありきだ。


そのあとにおもてなしの接客と、快適な店舗空間づくりがある。


飲食業界の基本原則のQSCだな」


虚空を見つめながら水上は宣う。




上空をクルクルと旋回するハエを目で追いながらも、


心の目はまったくそれを見てはいない。




「そして、あの佐山の成長ぶり。カズトが提案してきた店長再生プログラムをオレが加筆修正して渡したよな。あれが効いているわけだ。そうだろ。


あんなに人格が丸ごと変わるなんて見たことない。別人レベルじゃないか」




「今の佐山なら再び店長にしても業績を落とすことはないだろう。


佐山はワークマシーンだ。


そしてマシーンなのに料理を食べることが可能な人間なのだ。


カズトより上と判断しても間違いじゃないよな」




「水上部長のおっしゃる通りだと思います」


庭山も初めて水上部長とココロが通じ合う気がした。




「カズトのヤロウ、佐山を副店長にしてお茶を濁しやがって。


自分の管理下に抑えておきたいのだろうがそうはいかない」


水上部長は語気を荒げて、本音をぶつけ始めてきた。




「庭山君、君も同じ考えであろう。


次の店長会議で、カズトは副店長に降格。佐山を店長に復職させよう」




庭山もその鋭い目をキリっと水上に向けて答える。


「ありがとうございます、水上事業部長。


自分もまったく同じ考えであります。


次の店長会議に向けて、辞令を用意しておきます」




庭山は高揚していた。


あの水上事業部長と、考えが……利害が一致したのだ。




そうだよな。


水上さん、ロボットが店長なのがホントにイヤだったんだよな。


だって得体が知れないもの。




ネコ型配膳ロボットだったものが、突然覚醒したの聞いてないし。


聞いてないのに社長と専務は公認で。


何かあった時の責任だけ、我々に押し付けてこようとする。




社長と専務は何か知っているハズだ。


知っていて何かを隠している。




そのワナにおいそれとハマるわけにはいかない。


これを機に、カズト以外のロボット店長たちも副店長に降格していこう。




やはり店長は人間がするべきだ。




あのロボットたちは、最近われわれのやり方にも、


やんわりとだが反対してくるようになった。




これを放置しておくと、


――我が社の従業員はロボットと外国人だらけになってしまう。




――我が社の危機だ。ニホンの危機だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ