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料理対決

タイゾーは、いや……谷口泰三主任は、


本部に店舗独自の小規模イベントとして、サイタマ新都心オオミヤ店の


『ヒト型AIロボット店長カズトVSニンゲン元店長佐山新太のチャーハン対決』という企画を通した。




1週間前からポスターを張り出し、


店舗会員用SNSで告知して店の集客につなげた。




居酒屋として一番集客の多い土曜日の夜8時。




普段ならマグロの解体ショーや、


アンコウの吊るし切りショー、


カツオの藁焼きファイヤーショー


などの海鮮色の強いイベントを行う。




――今日は現店長と元店長のチャーハン鍋振り対決だ。




しかし、――このイベントを提案した熊川さんの狙いはそれではない。


AIロボットと人間を、人間の得意なフィールドで戦わせてみたかったのだ。




熊川さんは前の店長佐山が気に入って、この店の常連になった。


いい加減でお調子者の性格の佐山の方が、熊川さんには好みであった。




ロボット店長になって、売り上げは格段に伸びている。


しかし、熊川さんのような昔からの常連にはつまらない。




佐山店長なんて仕事を放り出して、ずっと俺の相手をしてくれた。




ここは居酒屋なんだよ。


いい加減でご都合主義の店長の方が、


俺たち昔からの常連には居心地が良いのさ。




その佐山店長さえ……あんなバカまじめに変わってしまった。


クダを巻く俺達の相手をしてくれる従業員が、いなくなっちゃったじゃないか。




タイゾーは入口水槽前のイベントスペースに立ち、緊張しながらもマイクを握っては話し始めた。


「それでは勝負を始めます。


今回1つのご注文を破格の500円で提供します!


二人のあおったチャーハンを、ひと山ずつ盛り付けます。


ご注文頂いた方にのみ投票権をさしあげます。


この対決チャーハンをご注文頂ける方どうぞ!挙手ください」




一斉に注文が入った。


『チャーハンふた山で500円』


イベント価格なので大変オトクだ。




――ほぼ全卓のお客様から注文が殺到する。




カズトと佐山は大忙しだ。




カズトのチャーハンの振りは美しい。




大量のオーダーが入っているが、大味にならないように2人前ずつ煽る。




フライパンを十分に熱する。


サラダ油を寸分の狂いなく毎回15cc正確に垂らす。


事前にボウルにゴハンを400g入れておく。


卵と酒大さじ3を混ぜ合わしておいたものを投入し混ぜ合わしておく。


フライパンを強火で温めて15秒たったら卵と和えておいたご飯を投入。


フライパンを返しながら玉じゃくしで良く馴染ませる。


程よい加減でネギとハムもご飯に絡ます。


塩コショウを2:1でミックスしたものを正確に5cc投入する。


あとは、ご飯がパラパラになるまで20回中華鍋を煽る。


程よくなったらしょうゆをこれまた正確に5㏄たらし香りづけをする。


最後にもう3回あおって完成だ。


――いつ何度食べても味にブレがない。


美味しいチャーハンがカズトによって作られる。






一方の佐山はダイナミックだ。




中華鍋が温まると適量の油をたらす。


煙がほどよく立ったら片手で割った卵を落とし、


即座に茶碗一杯のご飯を2人分投入する。


卵が固まらないようにいったん鍋を返す。


ご飯に引っ付いてきた卵が上になる。


玉じゃくしでご飯と卵を馴染ませて、米を卵で黄金色にコーティングする。


火力も強いが、腕力のある佐山が中華鍋を振るとごはんが大きく宙を泳ぐ。


さらに、鍋肌に酒大さじ1をたらして、鍋を騒がしくする。


何度か天地を返したら玉じゃくしでご飯をよけて、中華鍋の真ん中を空ける。


そこに刻みネギと薄切りにしたロースハムを投入し、火力の一番強いところで火を入れる。


程なくしたら、腕力に任せて中華鍋を何度も返し、ご飯を宙に舞わせる。


最後にチョット多いかな? と思うような量のしょうゆを垂らす。


大騒ぎとなった鍋肌を何度も煽る。


落ち着かせたら、玉じゃくしですくって器に盛り付ける。




何十年とやって体に染みついた技術はダテじゃない。




カウンターでこれを見ている常連はカッコイイと見とれるわけだ。


――それが『美味しい』につながる。




多くのお客さんが、


二人がチャーハンをあおる姿を見ていた。




二人は合計50人前ずつ、つまり25回ずつ振ったところで打ち止めた。


人間佐山には、さすがに疲労の色が見える。


カズトに疲労はない。いつも通りの自然体だ。




あおいが投票箱をもってお客様のところに練り歩く。




――結果は?




「それでは、じゃじゃあーんと、も、元店長ニンゲン佐山対現店長AIロボットカズトによるチャ、チャーハン対決の結果を発表します。」




タイゾーは恥ずかしさで噛みながらも、司会進行表に従って原稿を読み上げる。




「前店長佐山73票、現店長カズト27票。


……よって前店長佐山の勝ちです! 」




タイゾーはココロの奥でカズトを応援していた。


佐山の「圧勝です! 」とは言いたくなかった。




……しかし、想像以上の大差がついた。




「おおーーっ」とお客様のどよめきが響いた。




じゃあだからどうした? 


と言えば、熊川さんの悪乗りに乗っかったイベントだ。




予想以上にお客様の盛り上がりはあった。


集客もした。




佐山は彫りの深い顔をシワシワにして破顔する。


笑顔でありながらも謙虚に「みなさんのお陰です」


なんていいながら頭を垂れる。


――自然と笑みが溢れ出している。




一方のカズトには……やはり感情はないのか。


「佐山さん、おめでとうございます」


と言うと、粛々と業務に戻っていった。




料理を置くのに音を立てると、怒っているようにも見える。


下を向くと、落ち込んでいるようにも見える。


……しかしそれらは見る人のうがった見方なのであろう。




……いつも通り淡々と働いているといえばそのようである。




カズトにやはり感情はないのか?



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