カズトの独壇場
「それでは、宴もたけなわになってきたところで、最後の出し物です。
プログラム5番。ヒト型AIロボット店長たちによる、本山専務と奥さんの未来さんに捧げる歌と踊りの出し物『ドナドナ』です! 」
すっかり酩酊していた水上本部長も目が覚めた。
なに! ドナドナ?
オレの妄想がなぜプログラムに?
聞いてないよ。
各テーブルで分かれていたロボット店長たちは、
ゾロゾロと新郎新婦の席の左にある余興スペースに集まった。
最新の技術なのでかなりの精度である。
よく見ると、本来ぶつかる人をすり抜けている。
見る人が見れば、3Dホログラムであることは明らかだ。
◇
時間は19時になろうとしている。
結婚式はクライマックスに差し掛かろうとしているが、
他方スタイルイーツの現場、居酒屋”新世紀”の各店でもピーク時間の忙しさを迎えている。
サイタマ新都心オオミヤ店では、いつものようにヒト型AIロボット店長のカズトが先頭に立つ。
お客様を案内し、料理を運びおもてなしている。
「佐山さん、次のお客様のご案内は大丈夫ですか? 」
カズトからの催促が来る。
以前とは人が変わった佐山元店長は、
額に汗しながらウエイティングタブレットの次のお客様をご案内する。
「3名でお待ちの澤山様。大変お待たせをいたしました!
こちらの席までどうぞ」
佐山が先頭に立ってお客様をご案内する。
それこそご案内はカズトのような高性能ロボットになる以前から、
人数入力すると席番の券が発行される、
従来のご案内ロボットを使えばいいのだが。
『お客様の最初のご案内は人間がやる』
というのが株式会社スタイルイーツの企業ポリシーだ。
もっとも、カズトなどの高性能ロボットも案内するので、人の力だけ? とは言い難くなっている。
……というより、カズトたちが人と変わらない働きをしているとも言える。
◇
本山専務の結婚式場では、舞台に2tトラックがゆっくりと入ってきた。
そして名曲ドナドナの音楽が流れる。
音楽にのせてホロのない家畜用のトラックにすし詰めとなったロボット店長たちが悲しい目をして揺られて出てきた。
「あーる晴れた、ひーる下がり、いーちーばーへつづーく道―」
トラックは大袈裟に揺れる。
ロボット店長たちは、生気のない顔で目が死んでいる。
……ロボット店長たちは顔芸までできるのか?
水上事業本部長は大喜びだ。
椅子をひっくり返しそうになりながら指を差して笑っている。
「にぃーばぁーしゃぁーが、ゴトゴート、子牛を乗せ―て行くー」
会場内も大爆笑の渦が起きた。
なんだこのシュールな出し物は?
「かーわーいーいー子牛ー、売られていーくーよ―。
かわいそーな瞳で見ているよ」
「ドナドナドーナ、ドーナ―、子牛をのーせーて、ドナドナドナドナドーナ、荷馬車が揺れる」
会場は大爆笑の渦で、割れんばかりの拍手が沸き起こった。
水上は大満足だ。
「見たか、あの顔。死んだような目。
普段エラそうに小理屈を述べるあいつらが、なんてザマだ! 」
◇
サイタマ新都心オオミヤ店は満席の入れ替わりでごった返した。
店内の人口密度が高い。
「おい、何見てんだよ」
青髪の若者が、化粧バッチリのスーツを着た営業マン風男に因縁をつけた。
カズトの危険察知レーダーがすぐに反応する。
「ウィーン、ウィーン、ウィーン。もめごと発生の模様。サイタマトライビト同士か? 」
「あっなんだ、人間だったの? あまりにも青いからトイレの芳香剤かと思って見てたわ」
「なんだこのおかまヤロウ」
青髪はおかまの上に馬乗りになり頬に右、左とパンチを入れ始めた。
しかしもう一度青髪が右手を振りかぶった瞬間、その右手ごと大きく宙にぶら下げられた。
「何しやがる」
宙に浮いた青髪は足をブラブラバタつかせる。
何というカズトのパワーだ。
人一人を簡単に宙づりしてしまう。
店に残っているのが、リアルカズトだ。
しかし、その瞬間、
青髪は右手から拳銃を取り出し、カズトをめがけて撃った。
――1発、2発、3発。
金属を跳ね返る音がする。
「ワタシのボディーは防弾チョッキを着ているようなもの。
そんなものは効かないよ」
すると青髪は今度は左ポケットに手を入れた。
「カズト、サムライスタイル!」
カズトの様相が瞬時に変容した。
現れた大きな日本刀で青髪の左手を切りつけた。
「ひぃ」と叫ぶと青髪は手に持っていたものを地面に落とした。
手りゅう弾だ。
「安心せい。峰打ちじゃ」
青髪の左手は切れてなかった。
「あなたたちは即座に退店してもらう。もちろんお会計はいただきますよ」
「佐山さん、この人たちはこんな武器まで所有していて悪質です。
サイタマメトロポリス110番に通報してください」
◇
リアルカズトがサイタマ新都心オオミヤ店で大活躍をしているあいだも、
3Dホログラムに投影されたホログラムカズトは物悲しいドナドナな表情を作って会場の大爆笑を誘っていた。
「大河さん、未来さん、いかがでしたか」
みな大爆笑だったので司会は安心して、新郎新婦にコメントを求めた。
「いや最高ですね。自分たちを落として笑いを取れるなんてやはり頭がいいのですね」未来さんが答えた。
本山大河は考えた。
いや最高なんてもんではない。
こいつらヤバイ。
しかもこいつらの実態は今各店舗で働いているのだ。
分身が別の脳みそで余興をやっているのだ。
――進化がヤバすぎる。
……ワタシの予想する『ロボットが労働市場を席捲する未来』はもう、
『既に起きた未来』なのかも知れない。
◇
居酒屋”新世紀”サイタマ新都心オオミヤ店にパトカーがやってきた。
青髪と仲間たち、そしておかま野郎たちも連行されていった。
警察官がカズトに話しかけた。
「この間の爆破事件の連中の仲間かもしれません。
奴らは自らを『トライビト』と名乗り、武装勢力を築いています」
とうとう、日本も武装した『テロ組織』が本格的に活動する時代になってきたのか?
――それもサイタマ市から。




