創業の秘密
「それでは、新郎のご尊父様であり、株式会社スタイルイーツの社長である本山久博さまよりお祝いのご挨拶をお願いします」
本山社長はゆっくりと立ち上がった。
万感の思いが込み上げてくる。
あの変わり者の息子によく結婚相手が見つかった。
まあしかし、相手もなかなかのタマだ。
何とか収める鞘さやがあって良かった。
「本日はご多用のところ、お二人のためにお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。たくさんの方々から祝辞や、励ましのお言葉をいただき、心より感謝申し上げます」
本山社長は多くの来賓に心から頭を下げた。
息子の結婚式で、多くの取引先関係者も来て頂いている。
会社行事の様相も呈している。
「息子が生まれたのは、わたしがこの会社を立ち上げたのと同じ年でした」
そう、あまり大っぴらにはしていないが、自分はもともと理系のエンジニアだ。
大学卒業後、ハードバンク社に入社した。
ハードバンク社では自分の夢であった自動車の自動運転技術の研究をさせてもらえた。
あの時はエンジニアとしての夢に燃えていた。
自動運転という技術を世界で初めて実用化する。
夢のある仕事に携わっていた。
自分らの研究は独創的で自信があった。
当時としてはまだ開発段階のAIを利用した。
自動車に頭脳を積んで運転をするという発想であった。
自分は自動運転を追求していく研究の過程の中で、重要な位置を占めるAIの研究に傾倒していった。
……そして次第に、自動運転の研究よりAIの研究に溺れて行く。
道を踏み外していった。
自分が作ったAIに自分の立場を追われたのだ。
次第に会社にも追われる身になっていった。
AI技術の核心に迫りつつあるところで、AIに会社を追い払われたのである。
オレが危険になったのか?
ハードバンク社を辞める羽目になり、何か始めなくてはならなくなったのが、株式会社スタイルイーツを立ち上げたきっかけだ。
「エンジニアだったワタシが、酒に少しこだわりがあったぐらいで飲食店を始めたのが運のつきでした。
まだ安定しない店の経営を何とかするためにと東奔西走の毎日で、
息子の大河には全くかまってやれませんでした。
家族で旅行に初めて行ったのも大河が中学生になってからでした。
そういう意味では妻にも頭があがりませんし、大河がここまで育ってくれたことにも感謝の念しかありません」
拍手が散見される。
本山社長は天井を見上げ、涙が滴らないように堪える。
当時のことに思いを馳せると気持ちが昂ってくる。
酒のせいもあって感情が動きやすい。
ヤバイ、気をつけないと泣いてしまいそうだ。
……そう、ワタシが作ったAIは画期的であった。
あの当時で、すでに自律した意思のようなものを持っていた。
自律した意思のようなものプログラミングすることで、
AIに心を持った人格の萌芽を感じていた。
危険を感じたのでこのプログラムを一時隠しておこうとしたら、
ハードバンク社から追われた。
「親のワタシが皆様の前で言うのもお恥ずかしい話ですが、大河も学業に優れており、しかも理系のニンゲンでした。
私が経営する飲食業には興味はないと思っていました。
大学卒業後、IT企業に勤めたのも自然な流れで、研究開発の道に進むものかと思い、跡取りとなってもらうことはあきらめておりました」
大河にはやはりワタシの血が流れている。
あのClose AI社の日本法人に就職した。
かなりハードに働いているという話を聞いていた。
順調にやっているものだと思っていたら、30歳になる頃突然辞めた。
そしてうちの会社に入れてくれと言ってきた。
ワタシは親としてこの上ない喜びを感じた。
息子がワタシの起業した会社の跡を取ってくれると言ってくれるなんて!
しかし……しばらく一緒に仕事をしていると、
――大河は少し頭がおかしくなったように見えた。
今の大河は、わがまま坊ちゃん丸出しスタイルが全開だ。
ワタシの知っている大河は、あんなおバカキャラではなかった。
……でもワタシには分かる。
あの子は頭のいい子。
あのスタイルは周りを欺くための演技に違いない。
「大河が30歳になったある日、スタイルイーツに入りたいと言ってくれました。なぜCloseAI社を辞めたくなったのか心配した反面、息子がわが社スタイルイーツに入社すると言ってくれたことは、この上ない喜びでした。
子供の頃ぜんぜんかまってやれなくて、父親らしいことはなに1つしてやれなかったのに、わが社に入る決断をしてくれることは感謝の念に堪えませんでした。ワタシは、ここまでこの会社を起こして頑張ってきたことが、すべて報われたような気持になりました」
……表向きにはそういうことだが、
――ワタシには分かっていた。
あいつもきっとClose AI社で研究していたAIロボットの現場実証をやってみたい気持ちを抑えられなくなってきて、わが社に入る決断をしたのだ。
ワタシはこの件に関して息子と話し合ったわけではない。
……でも分かるのだ。
あいつの考えていることが。
親子だから。
「ワタシはこのカイシャを100年続く企業にしたいと思っております。
ワタシの社長室に入ったことのある方はご存じだと思いますが、
ワタシの机の後ろには『100年企業』と書いた額縁が飾られています。
しかし、――息子の大河が入社してくれたことで、
安心していたワタシに新たな不安がよぎりました。
息子は30歳をとうに過ぎている。
いい人が見つかるのだろうか?
100年企業を作るためには3代目が必要じゃないか。」
息子がオクテのエンジニアであることはよく分かっていた。
ハードバンク社に勉強させるためと称して研修に行かせたのも、
あそこの美人秘書の香山さんと仲良くさせるためだった。
しかし、うまくはいかなかった。
あいつは女性ではなく、AIの研修の方に力を入れていたから。
「私の3代目への懸念を知っていたかのように、ある筋のご紹介により未来みきさんという素晴らしい女性と出会えることができました。
そして、あっという間に結婚の話まで進むとは!
人生なんて、わからないものであります。」
まさか、マッチングアプリで相手を見つけてくるとは。
今風ではある。
そして、相手がグルグル社の日本法人の社長の娘であったとは。
……そうなのだ。
この結婚の出会いは偶然ではない。
大河の意図を感じる。




