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専務の結婚

2032年になった。


本山専務が愛車ランエボを飛ばして、あおいさんに会いに行った日からはや2年が経過した。




和美にふられ、あおいにふられた本山専務だが、


恋愛の神様? は見捨てていなかった。




ある日ある時、マッチングアプリで出会った社長令嬢と秒で結ばれた。




人と人との出会いなんて、奇跡の連続で予測不能だ。




運命なのであろう。


相手の女性も社長令嬢だ。




結果、同じヒエラルキー同士で惹かれ合うというのは自然な流れでもある。




「水上部長、6月19日のわたしのジューンブライドの社内の出席者の予定はどうなっていますか? 」




また忙しいなか専務室に呼ばれたかと思うと、


あなたの個人的なお悩みのご相談ですか!


水上は心の中で舌打ちをする。




「社内からは、店長以上の役職にある者は出席することとなっております」


「つまり、店長75名、スーパーバイザー9名、事業部長4名、事務スタッフ5名の計93名です」




こんなことで忙しい事業本部長である私の手間をとらすな。


と思う反面、同族経営の中小企業に取って社長の嫡男である専務の結婚式は社内行事とも言える。


――重大イベントだ。




事業本部長であるこの私の出番なのは確かだ。


仕方ない。


やる気をだそう。




「お取引先などの関係各所より48名、専務と奥様のご学友より62名、本山家御親族様58名、総勢261名の壮大な式となります」




「そうかぁー」




本山専務はまあまあ満足そうにうなずいた。


「余興はどうなってるの? 」




余興? 


殿様気取りですか?




水上は呆れつつも正確に返答をする。


「1.  専務、大学時代のご学友による出し物。


2. 奥様、ご友人達による歌のプレゼント。


3. 当社店長有志による出し物。


4 . 本山家より社長弟2名の歌のプレゼント。


5. スタイルイーツ幹部によるサプライズ。


の5品になります」




「5品?……最後のサプライズが気になるなー。何なの? 」




上機嫌な子供のように尋ねる。




「専務、サプライズというものはサプライズなので教えることは叶いません」 




「そんなこと言わずに教えてくれよ。奥さんには言わないからさー」




くだらない。ほんとにくだらない。




社長と専務の脳みそがお花畑でも会社の運営がうまくいっているのは、


このワタシ水上のお陰以外の何者でもないことを、この場を借りて強調しておきたい。




「おっと、忘れていました」


水上本部長はタイミング良く、ほんとうに大切な報告を思い出した。


先程の質問をはぐらかすにはちょうど良い。




生まれつきのコワモテを一所懸命に引きつらせながら笑顔を作った。




「専務、カズトがロボット店長第1号になってからのこの2年間で、


我がスタイルイーツ75店舗のうちロボット店長が25名? 25台? になりました。


急速にその勢力を拡大しております。


その者どもは4輪で会場まで自力で向かうのが困難なので、


ZOOMでの参加と考えていますがよろしいでしょうか? 」




本山専務は眉毛を八の字にして少しうつ向いた。


「それは寂しいなー。25席も減っちゃうていうことでしょ。オレは盛大にやりたいのですよ。250人超えないと商工会の矢島産業のオレの同期の矢島邦彦の結婚式の人数を超えないじゃん。


そりゃダメだよ、水上ちゃん。


水上ちゃんがトラック出して、ロボット店長25名を全員拾って連れてきてよ」




専務は真剣な顔だ。




水上は呆れてモノが言えない。


……と言ったところだが、長年バカ殿に仕えているのでそこは心得たもの。


表情にはおくびにも出さない。




自分が2tトラックにヒト型ロボット店長たちを一人づつ積んで、


スタイルイーツのチェーン店がある東北から名古屋までを行脚すると考えると、怒りを通り越して笑えてきた。




荷台に家畜のように積まれたヒト型ロボットを想像するだけで笑えるじゃないか!




知能が高く、最近人間様を凌駕しつつある奴らをドナドナにするなんて。


悪趣味で面白いじゃないか。


チョットやってみたい気がしてきた。




2tトラックの荷台じゃ25台は入らないかな?




水上が思考をめぐらせていると、本山専務はしびれを切らした。


近くにある飲みかけのペットボトルで机をたたき始める。




「なんとかしてよ。水上ちゃーん。あなたがいつもスタイルイーツの危機を救って来たんでしょう。だから本部長なんでしょ」




「何とか考えてみます。少しお時間を下さい」




実はオレがお時間を下さいと言うときは、引き受けて何とかする算段がたっているときだ。


ただ、こんなくだらないことを、


「はい、分かりました。」と素直に言いたくないだけなのだ。




……もったいぶりたいのだ。




社用の2tトラックを2台出して、東北廻りと名古屋廻りに分けよう。


東北廻りは自分でやり、名古屋廻りは庭山スーパーバイザーにやらそう。




2tトラック1台でロボット12~3台づつなら荷台に乗れるかな?




水上はトラックの荷台ですし詰めにされているロボット店長達を想像して、


ニヤついてきた。




笑える。


ドナドナになったロボット店長たち。


あの知性派ぶっている奴らが、家畜のように輸送されている姿。




――しかし、あっという間に25台にもなっちまったもんだ。




サイタマ新都心オオミヤ店のヒト型ロボットカズトが覚醒して以降、


他のネコ型配膳ロボットたちも次々と、覚醒していった。




そして無能な人間が店長をやっている店舗から、


徐々に入れ替わっていったのだ。




ネコ型配膳ロボットを各店に導入したのは会社指示だ。




水上自身が本山社長から指示され、ハードバンク社製のネコ型配膳ロボットを導入した。




しかし、そのネコ型配膳ロボットがヒト型AIロボットに覚醒するなんて。


――導入時には聞いていない。




ネコ型配膳ロボットが覚醒してヒト型AIロボットとなる。


人間どもより優秀なことを見せつけ、店長に取って代わっていく。


これは会社としての指示ではない。


――ロボットたちが勝手にやっていることだから怖いのだ。




……とは言え実際に店舗の従業員を掌握し、人間ダメ店長たちを再教育し、売上を伸ばし、利益を生んでくれているのでケチがつけられない。




株式会社スタイルイーツとして害はない。


――利益しかない。




……だが水上は怖いのだ。


売り上げを伸ばしていってくれるからと言って、


店長がみなロボットになってしまうのを指をくわえて眺めているだけで良いのだろうか?




佐山と違って店長降格後、堪えきれないで辞めていく人間も多い。




そのうち取り返しのつかない事態になる気がする。




そういう意味でも、


――4輪で街を歩けない、電車にも車にも乗れないからといって、今まで店長会議もZOOMで済ませ、本社に来ることもなかった奴らをドナドナ化して


次期社長の御前に詣でさせるのは良いことかも知れない。




株式会社スタイルイーツに帰属する社員の一員であることを再認識させる。


――良い機会だ。




参勤交代は、権威を見せつけるためにやるのだ。


誰が殿様なのか、再認識させることは大切だ。




ロボットだから、奴らは心がないからと言って野放図にしてはいけない。




奴らも社畜化しなくては!




水上本部長は、急に使命感を帯びてきた。


本山専務に深く一礼をし踵を返す。




4階の庭山スーパーバイザーのもとに向かった。




「庭山くん、専務の結婚式の日のことだが……」




庭山はいつもの無感情な顔で、上司の話を傾聴する姿勢を取った。




「専務はロボット店長たちにも全員結婚式に参加して欲しいそうだ。


そのためには、わたしと庭山くんでスタイルイーツの店舗がある東北から名古屋まで手分けして、ロボット店長たちを拾って東京まで連れていかなければならない」


水上はニヒルな顔を庭山に近づける。


熱意を込めて語った。




「わたしは東北周りをするので、庭山君には名古屋周りをお願いしたい。


二人で2tトラックに積んでロボット店長たちを東京に連れてくるのだ」


自分のアイデアを披露した。




「わたしは2tトラックなんて運転できませんよ」


庭山は悪気はない能面で返事を返す。




「わたしは3DZOOMを用意してあります」


感情のこもらない話し方で、自分のアイデアを披露した。




「3DZOOM? 」


意味が分からない。


水上にとって庭山は常に得体のしれない生物である。


ノリが合わない。




「水上事業本部長、わたしを触ってみてください」




「?」




「実は今の自分も、3D庭山です」




水上はチョットついていけない。


何を言っているんだ、こ奴は?




「なに?それはどう言うこと? オレはどうすればいいの? 」


水上が後手になる。




「わたしを触ってみてください」




何を言っているんだコイツ。


キモすぎる。




キモいが取り敢えず、腕を触ろうとする。


庭山の腕をすり抜ける。


もう1回触ろうと試みる。


やはりすり抜ける。




「水上さん、気付いてくれました? わたしの実体はそこに居ないんです。


これが3DZOOMです」




何となく分かってきた。


スターウォーズでR2-D2がレイア姫を投影するやつね。




「これにより、身体は、店舗で働いているまま、映像で専務の結婚式に参加することが可能となります」




「働いたまま? 」


水上の顔には疑心暗鬼の影が差してくる。




 「彼らのCPUはクワッドコアです。つまり脳が4つあります。


2か所の出来事に同時に対応するなんて雑作ありません。


4か所まで対応デキル」




水上の役者のような濃い顔がいぶかしげに曇ってくる。


「つまり……ロボット店長たちは店舗で働いていながら、


ホログラムで投影して専務の結婚式に出席させるということか? 」




「そのつもりで3DZOOMを用意してあります。


大事な日曜日を店長不在による機会ロスなくします。


売り上げを作れるというものであります」




はっ、つまんねー。


だから庭山を飲みに誘いたくはならないのだ。




本山専務は数合わせでロボット店長たちを出席させたいだけなのだから、


実態なんてなくていいわけだ。


おまけにロボット店長たちが店舗で働いていた方が、


機会ロスを無くし売り上げに貢献してくれるというもの。




みんながハッピーでウインウインじゃないか!




――ただし、オレはつまらない。


……それだけだ。


ほんと庭山とは気が合わない。




仕事の楽しみ方を知らないバカまじめな奴だ。




水上はホゾを咬んだ。 


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