カズト店を守る
5日間、店を閉めたのち、
本部の庭山統括スーパーバイザーから営業についての通達があった。
株式会社スタイルイーツ パートナー従業員様・ご家族様
この度は、サイタマ市における大規模暴動におきましてご被害に遭われた方々を謹んでご哀悼の意を申し上げます。
当社のサイタマ新都心駅オオミヤ店より数メートル先に爆弾が投下されました。
幸いにもサイタマ新都心駅オオミヤ店及び従業員に被害はございませんでした。
現代の日本において考えられないような事態でありました。
一部の暴徒による突発的な出来事ということです。
安全が確認されましたので、本日よりサイタマ新都心駅オオミヤ店は営業を再開させていただき運びとなりました。
今後の不測の事態にも安全・安心をモットーに店長・社員が先頭に立って営業して参ります。
パートナー従業員様・ご家族様におかれましては、引き続きよろしくお願いいたします。
株式会社スタイルイーツ 代表取締役社長 本山清羅
ということで、あの事件より5日後に店舗の営業は再開された。
街に瓦礫が残っていた。
人口の爆発で人は溢れかえっている。
いつものような活気はすぐに戻っていた。
爆弾はサイタマトライビトと言われる人達による、
テロの可能性が高いということで結論づけられつつあった。
活気は戻ったが、テロということで街にどことなく不穏な空気は残る。
17:00になる。
タイゾーはあの日以来の、営業開始の暖簾を掛けに行った。
「3名様ご案内です!」
開店待ちは1組だけ。
やはりしばらくは客足は戻らないだろう。
あおいと悠斗とは大事を取って休ませていた。
18:00を過ぎると続々とお客様が来店してきた。
18:30を廻ると満席になった。
従業員も、いつもより少ないので営業が苦しい。
カズトはフルスロットルになった。
「ホバーパイルダー発動!パワーアーム全開!」
3人分くらいの動きはこなしているようだ。
タイゾーは人気刺し盛りのトクトクお得セットを作りながらも、
カズトの動きを目で追ってしまう。
活力に溢れているが、決して慌ててはいない。
必要な時に必要なところにいる。
「タイゾーさん、次のお得セット持って行きますよ。」
「ありがとうございます!」
「ところで店長、忙しいところだけど聞いていいですか?
店長は人の3倍くらい動いてるけど、全然慌てていないですね」
「タイゾーさん。
予測してそれに基づいて行動するのはワタシが最も得意とすることですよ。AIは過去のデーターを分析して未来を予測することが一番得意ですから」
「この間の大爆発のような不測の事態のときでも、それほど慌ててはいませんでしたよね」
カズトはトクトクお得セットを、お腹の3段トレーの一番上に載せて動き出す。
「おかしな話に聞こえるかもしれませんが、
……想定外の事態が起こることも想定しています」
と話したカズトの顔は微笑んでいる。
……いやそんなはずはない。
あの鋼鉄でできた顔に、表情を作る機能は搭載されていないはず。
それとも人間に感情が伝わるように、表情を意図的に作るようになってきたのか……?
このままカズトに任せれば、店は回る。
――自分がいなくても、問題なく。
するとカズトの頭にサイレンが回り始め、炭焼き炉の方に向かって。
「警報発令!ウオーン、ウオーン、ウオーン」
どうやら焼き鳥の提供が大幅に遅れているようだ。
炭焼き炉の松井さんを見る。
メガネの下の大きな目がぎょろりと見開かれていて焦点を失っている。
額や首筋には大粒の脂汗がにじんでいる。
表情だけはプライドを失わず、何とか自らの力でこの状況を打開しようと必死にもがいく。
「松井さん、少し私に代わって下さい」
松井さんは今まで一度も自分のポジションを人に明け渡したことはない。
意地でも自分の力でやり通す信念を持った職人肌だ。
しかし、今回ばかりは違った。
カズトが近づいていくとその場をあっさり受け渡した。
「店長、すまない」
炭焼き炉に陣取ったカズトは凄まじかった。
「火起こしファイヤー」と叫ぶ。
左手が手首から折れ曲がる。
空いたところから、太い火の筒が炭焼き炉内の黒い炭に向かって放射された。
炭の補充と火起こしが遅れていた。
満載のオーダーをこなすには火力が落ちてしまっている。
次に火力の落ちている、ところどころに着火剤をまき始めた。
「松井さん、これお願いします」と、うちわを2つ渡す。
松井さんに両手で風を起こすことを求めた。
あっという間に火力がアップすると、
炭焼き炉の全体を使い、焼き鳥や焼き魚を載せ始めた。
通常なら手が熱くなり取れない、向かい側にも焼き鳥をのせ焼き始めた。
カズトの鋼鉄の手なら熱さを感じないだろう。
火傷をすることもないだろうから、効率的なやり方だ。
「カズト・バーニングイーツスタイル!」
カズトは雄叫びを上げた。
C3POみたいだった見た目が変容し、異形の様相をおび始めた。
顔と身体の背面から炎のような赤い変化のスタイルが顕れる。
火を操る化身となった。
火起こしファイヤーをしていた左手も元に戻す。
高速で焼き鳥や焼き魚を裏返したり、場所を変えたりと廻し始めた。
人智を超えた離れ業だ。
10年以上やっている職人松井さんでも、
人間離れした身のこなし、
熱さを全く意に介さない手さばき、
はマネできない。
溜まっていたオーダーが減り始めると、
カズト自らお客様のところに焼き鳥を運び始めた。
カズトは自分のおなかの3段トレイにぎっしり商品を詰めて、
近くのテーブルから商品を運んでいく。
「おっ、ロボット店長。今日はあおいちゃんはいないんかい?」
常連の下山さんがカズトに話しかけた。
「そうなんですよ。あの爆発がありましたからね。
大事を取ってまだ休んでいただいています。」
「こちら、卵たっぷりの子持ちシシャモになります。」
そう言って、商品を渡しながらカズトは次のテーブルに移動していく。
「あおいちゃんがいないと、この店来た価値も半減だな。
オレはテロも恐れず来てやったのに」
カズトはもうその場にいないはずなのに会話は続く。
「そう言わんといてくださいな。
良かったら今日はワタシが女装しましょうか? 」
「勘弁してくれよ。ロボットの女装なんて。」
「では、女型ロボットでも導入しましょうか? 」
「んー。それはどんな感じになるのかな。
想像してみるか……。
悪くないかも……」
下山さんは妄想にふけっていった。
カズトはとっくにその場にはいない。
ホバーパイルダーが音声を発して会話を続けていた。
下山さんはホバーパイルダーから聞こえる音声と会話を続けているだけだ。
カズトは焼き鳥を次から次へとお客様に運んでいく。
「おい、ロボット店長。」
カズトのAIセンサーが低い波動の不穏な響きの音声を察知した。
髪の長いアロハシャツの男から声を掛けられた。
連れは薄毛の緑のポロシャツと化粧をしているホスト風の男性だ。計3名。
「あそこの席の男5人がうるさいのだけど、黙らせてくれる」
そう言う5名の男性も、30代くらいのヤンチャ風だ。
騒がしいが居酒屋なのである程度はいたし方ない。
「あちらのお客様の話声は平均78デシベル、瞬間最大でも89デシベルが2秒間なので当店として注意するレベルの騒音ではございません。会話の内容も知らない他人が聞いて不快になる不適切な内容はいまのところ含まれておりません」
カズトはキッパリと言った。
アロハシャツの男は眉間にしわを寄せる。
鋭く細くなった目でサングラス越しにカズトを睨みつけた。
「おまえの意見を聞いているのではない。
オレが不快なんだよ。あの金髪の奴がオレにガンつけてきやがる」
と言った瞬間アロハの男は立ち上がっていた。
……金髪の男のところに向かって。
――しかしカズトも早かった。
「4輪フルスロットル! 」
と言った瞬間には、金髪男の目の前だ。
アロハ男を背後から羽交い絞めにした。
「この野郎ふざけんな!ちくしょう。
ロボットだからやたらと力がつええーや。放しやがれ」
カズトの鋼のボディのパワーアームに羽交い絞めにされては身動きは取れない。
罵詈雑言を吐くだけだ。
アロハ男の顔は苦痛に歪んだ。
――よく見ると少し不自然でもある。
カズトがそんなにキツク締めあげているとも思えない。
「ご退店願います」
カズトは羽交い絞めは外した。
アロハ男の左手をしっかり握りしめた。
「お会計は12,890円です」
「ひでーことしやがる。スマホ決済じゃ。手放せや」
カズトが左手を放すとアロハ男はその場にへたり込んだ。
……何か不自然だ。
そんなにキツク握られていたわけでもあるまい。
連れの薄毛の男は、さっきからスマホを見て我関せずといった感じだ。
……角度を見ると動画を撮影しているようにも見える。
ホスト風の男はいつの間にかその場にはいない。
「ウィーン・ウィーン・ウイーン」カズトの頭からサイレンが回った。
「顔認証一致。あなたはこの間出禁にしたはず。何をしに今さら……。あっ!そうか」
カズトは胸のカメラから白壁に映像を投射し始めた。
ライブ配信アプリの画面となり検索ワードが「サイタマトライビト 悪乗り」と入る。
ダイバプロジェクト第7弾”ロボット店長の悪事”という題名と共に今まさにこの店内のカズトとアロハ男の動画が流れている。
しかし、……リアルタイムの店内のハズなのに何か違う。
カズトの顔はダースベーダ―のように加工されている。
また、アロハ男の顔は殴られたようの加工されている。
ダースべーダーとなったカズトが話す。
「128,900円だ。なんだ払えないのか。ではこうしてやる」
ダースベーダーカズトはアロハ男にエルボーを見舞った。
アロハ男はその場に崩れ落ちた。
これはディープフェイクか?
薄毛の男が撮影した画像が瞬時に加工されライブ配信されているのだ。
すると、そこから消えたホスト風の男が画像加工係か?
それまでずっと見ていた佐山が唸った。
「店長、ここは私に任せてください。店長はサイバー対策をお願いします。」
「佐山さん、恩に切ります! 」
佐山はアロハ男の右手を捕まえた。
カズトはその場を離れ胸のタブレットを高速で打ち始めた。
「サイバーパトロールオン! 」
高速で先ほどのライブ配信のアカウントを突き止めている。
「サイタマトライビト・ダイバプロジェクトのアカウントをバン」
アロハ男のSNSアカウント自体をバンした。
さらにカズトはネットの中を縦横無尽にパトロールをする。
アロハ男のアカウントを削除した後は、その拡散先も追いかける。
一般的に不可能と言われる拡散先も1つ1つ消していった。
「佐山さん、ありがとうございました。彼らのアカウント自体を削除した後、拡散された映像も全追跡して全削除が完了しました」
佐山は大きな瞳をさらに丸くした。
このお方はそんなことまでできるのか!
カズトが店長でいる限り、この店の治安は警備会社が常駐しているように守られるようだ……。
――荒れるサイタマ市の店舗で、カズトの活躍が止まらない。




