サイタマ新都心オオミヤ駅の喧騒
タイゾーは生まれも育ちもサイタマ市のサイタマネイティブである。
実家から自転車で店舗まで通う。
しかし、2年前のトウキョウダイバの原因不明の放射能汚染以来、
サイタマ市オオミヤの人口流入の激しさには辟易へきえきとする。
しかも治安が悪くなった。
ダイバから流れてきた人たちは被害者意識が強い。
オレ達は何もしていないのに住むところを奪われた。
クニが悪い。
行政が悪い。
オレ達は被害者なのに救済措置が足りない。
しかし、クニにも正しい論理がある。
年間10ミリシーベルトの放射線量では人体に顕著な影響はみられない。
あの、フクシマのときも年間20ミリシーベルト以下になった地域から避難指示解除地域となったのだから。
通常時でも日本においては平均で年間2ミリシーベルトの放射線は浴びているのだ。
したがって、クニとしてダイバからの退避勧告はしていない。
人から人、ネットの情報が錯綜さくそうして、風評被害が人々の気持ちを煽あおって混乱をきたしているに過ぎない。
一応、ダイバから半径10km圏内の住民には特別御見舞金1人5万円を支給したのだ。
これだって、他の国民にしてみれば身体的被害も出ていないのに「そこまでする必要はない、バラマキじゃないか。」という意見もある。
それに、ダイバより原因不明の放射線流出が検知されるだけで、
国の瑕疵かしによるものではないので全面的に責任を負う性質のものでもない。
何だか、現代人特有の情報に踊らされているだけのような状態だ。
誰のせいにもできずにサイタマ市に流れ着いたのが、いつのまにかサイタマトライビトと呼ばれるようになったのだ。
その感覚は、タイゾーのようにサイタマネイティブのニンゲンには理解し難い。
何か今までいた近隣住民のサイタマ人とは肌感覚が違うのだ。
ある種の差別意識でもある。
しかも、サイタマトライビトは故郷を捨てざるを得なかったという被害者意識が強いので、相いれない。
タイゾーもまた、地元が急激に変化するので何か落ち着かない。
タイゾーは地元の商業高校を卒業して、新卒で株式会社スタイルイーツに就職した。
昔から物静かで目立たない子であった。
小さい頃から料理が好きで、飲食店で働いている母からコツを学んだ。
母親は高校生の頃からアルバイトしていた飲食店で、ずっと働いている。
結婚・出産で辞めてもその都度復帰して、働いているという。
母はパートであるがその店を誰より知り尽くしている。
店長すら頼りにする存在だ。
タイゾーはそんな母の影響を完全にうけて、いまの会社に就職したのだ。
「裏の勝山さんちから生のタケノコもらったから、やわらかく茹でたんよ。タイゾー食べてや」
茹で立てのタケノコはシャキシャキ瑞々しい。
生命をいただいている感覚になる。
店舗で利用している水煮のパックや缶詰とは歯ごたえが違う。
旨みのエキスが搾りだされる。
母はちゃんと素材から料理をする人であった。
タイゾーは自然とそれを学んだ。
調理の専門学校に行こうかとも考えたが、母子家庭であり直ぐに就職する道を選んだ。
今、5年目となり主任の肩書をもらい働いている。
佐山店長と折り合いが悪かったころは真剣に辞めようと考えていた。
カズトが店長になってからは、水を得た魚だ。
楽しいのだ。
カズトはタイゾーの料理の才能を認めて誉めてくれる。
厨房のことを一切任されている感覚がありがたい。
そして、天敵だった佐山元店長はカズトの店長更生プログラムの発動により人が変わった。
謙虚で低姿勢。
「タイゾーさん、何か追いつかないことがあったらお手伝いしますよ」
こんなこと言って声かけてくる。
気持ち悪かった。
カズトの手前だけ、演技していると思った。
しかし、どうやら本物らしい。
こんなに変わる人間なんて初めて見た。
記憶喪失人間と対峙しているような錯覚すら起きる。
今の佐山は、以前の記憶をすべて忘れ、
別人として新たに生まれた生命体みたいだ。
別人なら良いのだが、……顔が昔のままなので余計気持ちが悪い。
気持ちが悪いが、贅沢を言ってはいけない。
佐山の変貌は仕事としてプラスなので歓迎すべきなのだ。
タバコを吸わなくなった。
遅刻をしなくなった。
サボらなくなった。
無駄話をしなくなった。
威張らなくなった。
タイゾーの大嫌いだった、佐山元店長っぽさが無くなった。
歓迎すべきなのだが釈然としない。
そうだ、分かった!
佐山は心を失ったロボットになってしまったような感じなのだ。
楽しくなってきたのだが、違和感はこういうことか。
ロボットが店長になったら、今度は元店長がロボットみたいになってきたのだ。
サボり大明神が、バカまじめキャラにキャラ変したのだから気持ち悪さもひとしおだ。
――気持ちは悪いが、ストレスが減ってきた。
また、最近の居酒屋新世紀サイタマ新都心オオミヤ店の繁盛は、
居酒屋文化の復権と言える。
あの2019年の新型コロナウイルスの蔓延で、
居酒屋文化は壊滅的な打撃を受けた。
コロナ制限解除後も、低迷の時代が続いた。
しかし、2028年頃からの来客の増加には目を見張るものがある。
人々が処理しきれないほどの情報の洪水に、
ストレスを抱えて行き詰まってきている。
情報の量と進化が人間の能力を超えているのだ。
AIの進化は凄まじく、人間はAIがどのくらいの能力を獲得しているかを把握できていない。
やりきれなくなった人々は合法的なストレス発散法として、一番手近な飲酒に回帰した。
そんなご時世を反映させて、居酒屋文化を後押しするヒット商品も生まれた。
1日分の栄養が摂れるサワー
プロテインサワー
タウリンサワー
完全食サワー
AI頭脳になれるサワー
などのサワーが機能性カクテルとして、
時代の波をとらえてヒットしている。
――カズトの店は、大繁盛店への道を歩み始めていた。




