カスハラの撃退
「店長、ありがとうございます」タイゾーは素直に礼を言った。
事の成り行きを見届けていたお客様からも拍手が散見されたが、
またみな銘々の会話を楽しみに戻った。
閉店後、カズトは非定例の終礼を招集した。
通常時給の1.25倍がつく残業代付きの終礼ということで、閉店後の緊急招集にも関わらず、みなイヤな顔もせず集まってくる。
朝礼時と同じように、レジから水槽の前で1列に整列した。
従業員がそろっているのを確認すると、カズトは始めた。
「みなさま、本日の業務もおつかれさまでした」
「さて、サイタマ市は人口の爆発で治安が乱れています。
今後も今日のようなアクシデントはますます増えるでしょう。
正当なクレームを盾に、従業員の良心に付け込んでカスハラをしてきます」
「いわゆるサイタマトライビトなど、気持ちに余裕がなくなっている方たちも増えて、世の中が荒れる原因になっています。」
タイゾー、佐山、あおい、アディー、ラフマン、悠斗、亮輔、松井さん、みな真剣な面持ちでカズトを見ている。
「でも、ご安心ください。みなさんはわたしが守ります。
このサイタマ新都心オオミヤ店では、わたしのAIと人工知能機能がフル活用されています」
「1. 店舗が堅牢に作られていてシェルターにもなる構造です。
2. わたしが勤務を開始した2年前から、店内のカメラ映像をAIが解析しています。危険を察知した際は、複数のホバーパイルダー(ドローンカメラ)がより精細な映像と音声を記録します。
3. これらのデータは圧縮され、10年以上保存されます。
4. わたしの4輪駆動システムは、100mを9秒で走破するスペックを持っています。
5. パワーアームは、20Lの生樽を2つ同時に運搬できる出力を備えています」
「みなさんは完全に守られているので、安心してお働きください」
――凄い!
もう、カズトと対等に渡り合える人間はいないんじゃない。
では、対等でない人間はどうなる?
――答えはもう出ている。
多くの人間は、選択することすらやめていった。
「スゲーな、店長」悠斗が言った。
「やっぱ、人間の店長よりもスゴイかもな」
やんちゃな悠斗が発するとみなに共感が広まった。
「ありがとうございます。さすが店長」
カズトの店長再生プログラム”地獄谷の700日間”でトレーニング中の佐山も合いの手を入れた。
佐山はすっかりヒトが変わってきている。
発する言葉が以前と違う。
タバコも止めたようだ。
人って簡単に変われるものではない。
カズトの教育が余程良いのか?
最後にタイゾーが締める。
「正直怖かったけど、天井に小型のホバーパイルダーが飛んでるのを見たときにちょっとホッとしたんだ。きっとカズト店長が見ていて、手が空けば駆けつけてきてくれるに違いないってね」
そういえば……タイゾーは思った。
2年前から店内が記録されているということは、まだネコ型ロボットだった時からと記録していたということなのか?
ネコって人間の近くにいて、ものは言わないが観察している生き物だからな。
名前がまだないネコだって、人間観察にすぐれてたりするもんな。
「すごい時代になったな。ついていくのが大変だ」
松井さんが呟いた。
松井さんの顔はメガネの奥で笑みが佇み、
うれしさと切なさを同居させた複雑な感情が浮かんでいた。




