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アリシアは入学早々、寮内の食堂をキョロキョロとしていた。視線をあっちにやったりこっちにやったり。その様子は何かを探しているようだった。従者のソレルはそんなアリシアの様子は初めて見たが、理由を知っていたため苦笑してそっと側で見守っていた。
「…今日こそ、いると思ったのだけど…。」
「おいでになられていませんか?」
「ええ、ソレルにも紹介したかったのよ?凄く可愛い子なの。」
そう、入学式を終えて早数日。アリシアは食堂に来るたびに初めて出来た友達であるサラを探していた。しかし、どんなに時間を変えようともサラの姿を見つけることは出来ず、アリシアはいつも肩を落として食事をしていた。シュン、とした主人の様子にソレルは何とかしてあげたかったが、なにせ従者は寮内の行動と授業外の付き添いしか許されていない身。ソレル自身もサラを見たこともないのだから手伝うことは出来ずにいた。
そうして今日もサラを見つけることが出来なかったアリシアが、落ち込んだ顔を隠しもせずに近くにあった席に座った。それと同時に給仕のものが今日の食事を聞きに来たため、アリシアは沈んだ声のまま魚メインのコースを頼んだのだった。
「アリシア様、また魚ですか?時には肉類も食べて頂かないと…。」
「うう、だって…、私、味濃いものは得意ではないの。知ってるでしょう…?」
学園の食堂はとても豪華であった。全ての料理が国最高のシェフによって考案されたメニューを使用しているのだから当たり前だが、アリシアにとって豪華な作りの料理はあまり好きではなかったのだ。
もともとセントフォーズ家の家風が質素倹約に努めていたため、料理もあまり凝ったものは少なく、味もそれほど濃いものはなかった。ちなみに前世でも美穂は薄味が好きで家庭内は薄味を基本としていたためその名残があると思われる。
そのためせめて、と魚料理を選び肉料理をとらなくなっていた。そんなアリシアの様子に、ソレルは困っているのも仕方のないことだった。以前までは屋敷で個人で作られるメニューなどなく、全員が同じものを食べていたため肉料理も(味を薄くしているが)食べていた。しかし学園では選べる事になっているため一切肉料理を頼まなくなっていた。
しかし、改善策はないことはない。シェフに立った一言味を薄めてほしいといえば通るようなことだったのだから。実際他の生徒は自分好みの味付けにして貰えるように頼んでいるのだから、アリシアがしてもなにもおかしくないのだが、アリシアからしたら。
「せっかく作ってくださった料理にケチつけるなんて出来ないわ…。」となってしまうのだ。アリシア様控えめ、可愛い…、とはソレルの心の声である。
しかしその控えめな所は良いとは一概に言えないのも、また事実。ソレルが一人で頼むことができるがアリシアからダメだと言われている事に、主人第一なソレルが裏切ることなんてできないでいる。
「あら、アリシア。貴女一人で食べているのかしら?」
「お、お姉さま!」
ふと後ろから聞こえて来た声は慣れ親しんだ姉の声で、アリシアは慌ててコップを置いて振り返った。そこにはランドを従えてこちらを横目で見ているシルヴィアで。
「学園が始まってもう数日経っているのにまだ一緒に食べる方がいないのかしら?」
「あ、う…はい、その…。」
「待っていても人は勝手に来たりしないのが分かったでしょう。自分から話しかけて友人を作りなさい。」
「…はい(しゅん)」
「…隣失礼するわよ(また言い過ぎた!?)」
「え、」
「なに、一緒に食べては駄目かしら」
「!い、いえ!嬉しいです…!」
「…そう(嬉しいって、嬉しいって!!!!聞いたランド!)」
「では給仕のものに此方に持ってくるよう頼んで来ますね(はいはい聞いてますって)」
あの日前世の記憶も共有し、また今世での姉妹関係が修復したと思われていたが、現実問題そんな簡単にシルヴィアのツンギレがなくなったわけではなかった。
しかし、ツンギレがツンデレに進化したとだけ言っておこう。シルヴィアの名誉の為に。シルヴィアの名誉の為に!
そんなこんなあり、姉妹の元に料理が運ばれてくる頃には、食堂中の視線が二人のもとに集まっていた。それは学園で有名なあのセントフォーズ姉妹が揃って食事をしているからに他ならない。キリッとした瞳で凛々しい女性の美を感じさせるシルヴィアと儚く可憐な少女と女性の間のような美しさを持っているアリシアがいるのだから当然である。二人が話している光景は周りに花が飛んでいるように感じられるのだから。
しかし、その視線に気づいているのはそばにいる従者二人だけだった。アリシアは最近やっと関係が進んだ姉と話すことが出来て幸せそうに微笑んでいてホワホワしているし、シルヴィアはそんな妹の可愛さにやられて内心何度もランドに向けて叫んでいるのだから周りを気にかける余裕がないのだ。
そんな二人の主人の様子にソレルとランドは顔を合わせあって苦笑した。
「…さっきは何を落ち込んでいたのかしら?」
「え、あ…知っておられましたか…。」
「(え、まさか落ち込んだアリシア様を見つけて来られたとか言うことはありませんよね?)」
「あの、少し…人を探していて…、でも見つからなくて…。」
「…人?…セシルかしら?」
「(そのまさかだ。突然走って行かれたぞ。)」
「あ、いえ!…その、ゆ…友人を。」
「!、あら出来ていたのね?」
「(友人って言うのに照れるアリシア様本当に天使だ!!!)」
「(落ち着け)」
セントフォーズ姉妹が話している最中にコソコソと視線を主人からそらさずに会話を続けていることに優秀と褒めて良いのか否か。
「はい!サラという可愛い子なのですよ!是非お姉さまにも紹介したいのですが…その、食堂で会えなくて…。」
「あら、中々食堂で会えないことは少ないというのに…、教室では会えるの?」
「はい、そうなんですが、食事の時はどうしても見つからなくて…、避けられているのでしょうか(しゅん)」
「!?そんな事ないわよ!次教室であった時に聞いてみたらどうかしら?」
「はい…。」
しゅん、と落ち込んだまま食事をするアリシアの何とも可愛い…可哀想なことか。小さい体をさらに小さくして落ち込んでいる姿にシルヴィアは内心焦っている。そしてそのまま視線をグインッとランドに向けて如何にかしなさい!と目で言っている。
しかし無情にもランドに首を振られてしまったのだけど。
その隣でソレルは落ち込んだ主人に可愛いと悶えれば良いのか、可哀想だと心配したらいいのか真剣に悩んでいた。
そして次の日、いつものように朝サラに挨拶をし、昼休憩のとき聞こうと意気込んで授業に望んだアリシアがいた。朝のうちに聞いてもいいのでは?と思ったが、昼のことは昼に聞かなければいけないという謎の概念がアリシアにあったためそれは遂行されなかったのだけれど。
そして昼休憩開始直後、アリシアは待ってましたというように勢いよく椅子から立ち上がりドア近くのサラの席の方へと視線を向けた。
しかしすでにサラは席にいなくて、ドアから出ていこうとする姿がチラリと見えただけだった。
(え、早くないですか!?)
アリシアは慌てて教室を飛び出し先ほど出て言ったサラを追いかけていった。廊下に出た時はもう既にサラの背中は見えなかったが、一方通行で先には階段しかなかったため、アリシアは階段まで駆け足でむかった。
ちょうどその時、上の階の踊り場にサラを見つけた。彼女はどうやら上の階へ向かうよう。
しかし学園内にある食堂はアリシアたちの教室の階がある下に位置している。それに疑問に思いつつアリシアは駆け寄った。
「っサラ!」
「え、アリシア!?」
咄嗟に掴まれた腕に驚いてサラは振り返る。そこにいたのは息切れを起こしているアリシアの姿が。
「な、なに?どうしたの?」
「…いつも、食事の時間だけいなくなる、から…気になって。」
「…あー、」
「もしかして、なんだけど…私とご飯一緒じゃ嫌かな…?」
そう、アリシアは一度だけサラを食事に誘ったことがある。その時は用事があると断られたため、次の日はどうだろう、としたがその日から何故か食事の時に限りサラは姿を消してしまうのだ。
「い!…嫌じゃないんだけど、その…。」
「…」
「アリシア目立つから!!!」
「、え?」
「そりゃあ逃げたくなるもん!だってセントフォーズ公爵家のご令嬢だよ!?目立たないわけがない!教室の中だったらまだしも食堂なんか行けば針のむしろ!!視線があんなに集まる中で食事なんかできない!むしろ立っていることもできないんだもん!」
「あ、の…サラ?」
「私だってアリシアとご飯食べたいよ!?だけどそれ以上にあんなに注目されたら身体に穴が空くもの!見た目平凡な令嬢代表格の私があの中に入るなんて無理だよお!アリシアと一緒に食べたいけど!」
大事なことだから二回言った。
「私だってサラと食べたい!」
「無理だよ!アリシアだよ!?視線が集まる中でなんて食べれないよ!」
「わ、私だって食べれないよ!それに注目だってされてないわ!」
「何言ってんの!公爵家のご令嬢だよ!」
「私じゃなくてお姉さまだもん!」
会話の内容だけ聞けば喧嘩にすら聞こえない。しかし声の大きさは喧嘩をしているかも、と感じさせるほど大きい。これでは目立ちたくないとの当初の目的が果たせていない気がするが。
そんな二人の喧嘩?はこの後も続くことだろう。
そして、彼女たちが気づいた頃はもう視線を全身に集めていることに気づき、足早にその場を離れることになるだろう。
一方そのころ、学園の敷地内の中央にある中庭では、
「…あの、書庫って何処でしょうか…?」
「…君が来た方向を戻れば着くが…。」
「ええ!?」
漆黒の艶やかな髪を風に靡かせてぷっくり膨らみ赤く色づいた唇が印象的な女子生徒が書庫の場所を訪ね、藍色のサラッとした髪に白銀の瞳をもった男子生徒の答えを聞くや否や慌ててお礼を言いつつ、足早に駆けて行った。その姿はあまり貴族のご令嬢らしくないものだったが、その女子生徒には彼女を良さを際立たせる可憐なものに見える。
その無邪気さはこの貴族社会では珍しい、しかしそれがはしたないと感じるものではない可愛らしいものだった。
「…変わった奴だ…。」
突然来て、しかしすぐにその場を去って行った彼女の背中を目で追いつつ男子生徒、セシルはポツリと言葉を零すのであった。




