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ストックが10本ほど溜まったのでこれから毎日更新していきます。朝9時です。第3章についてはまだ書けてないので未定です。
これから十数話ほど、毎日お楽しみくださいo(`ω´ )o
かちゃん、と陶磁器が奏でる音ですらこの場に存在しないほどの無音の空間が王宮の庭園の一角に出来ていた。先ほどまでの騒々しさはいったい何だったのかと思わせるほどシーンとしている。
セントフォーズ家のご令嬢にそれぞれ仕えている従者のソレルとランドは困ったと隠しもしない表情で顔を見合わせる。ソレルはそわそわと自身の主人を案じて、ランドはこれから起こるだろう面倒・・・未知の出来事にどう対処すればいいのか頭を巡らせて…。
そんな二人の前にはセントフォーズ家のご令嬢が二人。固まってしまったまま暗い顔で俯いているアリシアの背中にはこんな状況になったことへの混乱が見て取れる。一方この状況にした元凶である自分の婚約者に罵声を心の中で叫んでいるシルヴィアの表情はいつもの様に澄ましてるように見えて、ウロウロする視線は俯いてしまったままの愛しの妹を捉えて離さなかった。
時間が経っても固まったままの二人を見兼ねて、ソレルとランドが一歩踏み出そうとしたとき、ゆるりと姿勢を戻したアリシアの姿が見えた。その姿に驚いて動かそうとした足を寸のところで止める。
見えたアリシアの瞳には今まで見たことのない、強い覚悟の色が見て取れる。
それに気付いたシルヴィアは、自分の知らないうちに成長したアリシアに心の奥がチクン、と痛んだ気がした。
自分では変えることのできなかったアリシア、自分の言葉で縮こまっていたアリシア。そのアリシアが今、その瞳に強い覚悟を乗せて自分を見ている。
その事実に、嬉しさを感じるけれどそれ以上に寂しさと、変えた人物への嫉妬の炎を燃やしてしまう。
私には出来なかったのに。
「・・・お姉様、今朝ぶりですね・・・。あの、今日は此方で・・・その、」
「・・・・・・貴女と同じように、婚約者と会う約束をしていたのよ。」
伝えられたのは今日だけど、とは言えなかったけれど。
「・・・・・・本は、進んだのかしら?」
「!は、はい。お姉様に頂いた本は今、最後の巻までいきました…!」
「・・・そう。どうだったのか感想を聞きましょう。」
「っはい、あの章の・・・―――、」
アリシアは今の状況が夢なんじゃないかと思った。目の前には自分の話を静かに聞いてくれて、時々シルヴィア自身の感想を話してくれる姉の姿に。視線こそ時々しか交わることがなかったけれど、今の状況は人生で初めてと言っていいほど、穏やかな雰囲気が二人を包んでいた。
シルヴィアは二人の間に流れる穏やかなそれに、心の中で安堵した。いつも自分はアリシアに向けて辛辣な言葉しか与えてあげれなかった。アリシアはいつも不安そうに視線を彷徨わせて自信がなさそうに体を縮こませていた。
その態度がいつも、公爵家の令嬢として相応しくないと、苦言を呈しては彼女の顔を青くさせて。
その彼女がいま、ハッキリとした口調で瞳を真っ直ぐこちらにむけて、熱心に話しているではないか。こんなにも、アリシアは・・・―――。
なんでだろう・・・、こんなにもスムーズに会話が進んでいることに驚きと嬉しさが募るのに、涙が出そうになるのは。嬉しいはずの妹の成長を、待ち望んでいたはずの妹の成長を目の前にして、なんでこんなにも寂しいのだろう。
「――・・・、お姉様?」
「、ん?なにかしら。」
「・・・いえ、その、体調が悪いのでしょうか?先程からお元気がないようなので・・・。」
真っ直ぐこちらを見るアリシアの視線に、私は・・・。
「・・・何でも無いわ。それで、後どれくらいで読み終わりそうなの?」
「は、はい、あと半日もあれば終わると思います。だんだん文字にも慣れてきたので。」
「・・・そう。・・・それで?」
「え?」
「なに、まさか本を読んで終わりかしら?貴女は研究がしたいのではなくて?中途半端で満足したの?」
「っいえ、次の本は今探している途中で・・・。」
「そう。まあどこまで続くのかしらね。」
私は、変われない。口から出る言葉は、貴女にとって刃物になってしまう。思っている言葉はいつも正反対になって口から出ていってしまう。直したい、私だってそう思ってる。周りの呆れたような視線の意味だって気づいてる。
この私たちに生まれてしまっている溝は、私が変わることによって埋められるって事を。
わたしには昔、妹がいた。随分歳の離れた可愛い妹が。天真爛漫で好奇心旺盛、甘えん坊で泣き虫な愛おしい妹が。あの子はいつもわたしたちの後ろをついて回っていた。もう小学生なのにその甘えた、舌っ足らずの声でいつもわたしたちを呼ぶ。おねえちゃんって、呼ぶ声がいつも後ろから聞こえてきていた。
学校から帰れば真っ先に自分の部屋でゲームするわたしの背中に回って、わたしとあそんでって言う。わたしが嫌だって言えばわたしがしているゲームを、自分も一緒に遊べるようにじっと画面をみつめる。
あの子はいつも愛を請うていた。幼いから当たり前だと、一言で終わらすことの出来ないくらい真っ直ぐに。それと同じくらいわたしたちに愛を惜しみなく表現する。だいすきって満面の笑みで。
わたしはいつもそれにありがとう、としか返せなかった。愛おしい妹からくれた愛なのに、恥ずかしくて照れくさくていつも上手く返せなかった。口を尖らせて拗ねるあの子の頭を少し強引に撫でればだんだんと嬉しそうに笑うあの子に甘えて、わたしはいつも愛を返せなかった。
この世界であの時の記憶が蘇ったとき、わたしは何であの頃に返してあげられなかったんだろうと、シルヴィアである私の妹を思い浮かべて後悔した。あの子を数年成長させた姿のアリシアの今をみて、もしかしたらあの子の未来なんじゃないかって思って。
私が返せなかった愛のせいでアリシアは怯えるように暮らしている。では、あの子もそうなったんじゃないか。わたしが返せないせいで、あの子もアリシアみたいになってしまうんじゃないかって。
そう思うならなおさら、って思うのに。もう手遅れなんじゃないかって思う。だってアリシアはあの子の未来の姿なんだから。もう、遅いのかもって。
今返せば、あの子への愛と一緒にアリシアに返せるのだろうか。
「・・・なにうだうだ考えてるんですか、シルヴィア様。」
「っちょ、ランドさん!?」
「っえ、?」
突然後ろから聞き慣れた、不満を隠さない声が聞こえてきた。その声元はスタスタと私の隣まで進んできた。
「あんた馬鹿なんですから素直に伝えたら良いんですよ。馬鹿なのにうだうだ考えてるから拗れるんじゃないですか。」
分かってます?そういうランドの顔はいつものように呆れを隠しもせずに、主人である私を馬鹿にしたように。
・・・・・・・・・。・・・え、なにこいつ。今私のことなんて言った?
「・・・ランド、貴方今なんて言ったのかしら・・・?」
「馬鹿っていいました。」
「・・・・・・ふふ、聞き間違いかしら?主人である私のことを『馬鹿』って言ったなんて。」
「いや、聞き間違えてないですよ。大丈夫ですか、耳聞こえてます?」
「え、あの・・・ランド?どうしたの・・・、お姉様・・・?」
「ら、ランドさん・・・!?」
ガタンッッッッッッと大きく椅子が引かれた音がした。それにアリシアはビクゥッと身体を跳ねらせ、目を大きく開かせる。その横でソレルは口を引きつかせていた。
「――・・・さい。」
「あの、お姉様・・・?」
「表に出なさいランド!!今日という今日は許さないわ!主人のこと馬鹿にしてんじゃないわよ!!」
「事実をいっただけなので遠慮します。」
「あーーー!!!!憎たらしいわね、本当に!!あんたは私の従者なのちゃんと理解してる!?」
「勿論ですよ。当たり前じゃないですか。」
「それなら態度改めろ、この馬鹿従者!!」
「・・・え、あの・・・?」
「だいったいねえ、あんたはいっつも!!」
「落ち着いてくださいシルヴィア様、顔が真っ赤ですよ。」
「あ、ん、た、が!そうさせてんのよ!!」
「・・・アリシア様、あの・・・」
「・・・・・・ソレル、これは?」
「・・・いつものことなので、お気になさらず・・・。」
「い、いつも・・・?」
「さっさと表に出なさいランドお!!」
「そのまえに素直にアリシア様を褒められては?『こんなに短期間で読破するなんて凄いわ、次になにを読むの?私の持ってるものならあげられるけど。』とか、ちゃんと言わないと分かりませんよ。」
「っだれが、そんなこと・・・!」
「わかりにくすぎですよ、そんなんだからアリシア様に泣かれるんですよ。」
「っつ!ま、まだ泣かれてないわ!!」
「いやいや、時間の問題ですって。」
「・・・え?」
「・・・・・・すみません、アリシア様。こっちを見られても、俺からは何も・・・・・・。」
「はやく素直にアリシア様を可愛がられてみては?セシル様にとられてしまいますよ。」
「なっ!!セシルなんかにアリシアを渡すわけないでしょ!アリシアは私の!!大事な妹よ!!ひょっと出の男なんかに渡すものですか!」
「それ本人に伝えてください。」
「言えたら苦労してないわ!」
「威張らないでもらえます?」
「・・・・・・。」
「ア、アリシア様・・・!!」
「この私が本人に言えるとでも?」
「いやいや、言うだけですよね?」
「無理ね!!」
「アホですか、目の前にいるんですからさらっと言ってくださいよ。」
「アホじゃないわ!目の前にいたっていえ、る・・・わけな・・・い・・・・・・?」
「・・・・・・(ぷしゅうー)。」
「アリシア様ーー!?」
「・・・ランド。」
「はい。」
「な、なんか・・・目の前にアリシアがいる気がするわ、ねえ。気のせいよね?気のせいって言いなさい。」
「気のせいじゃないですね、完全に。」
その時の状況はカオスとしか言いようがなかった、というのは王宮に仕えている給仕のものが後日語った言葉だった。
アリシアは身体全体を余すことなく真っ赤に染め上げてテーブルの上にうつぶせに倒れ、ソレルはその状態の主人に慌て、顔を真っ青にしながら何度も名前を呼び続け、シルヴィアは今やっとそんなアリシアの状態に気づいたようにガチンッと身体を固めて、ランドはそんな主人を見て呆れと同時に隠しきれない笑いを口元で抑えていた。
つまりは、だ。
ランドの誘導尋問によって披露された最大級のデレに耐えられなくなったアリシアが潰れ、その誘導尋問にまんまと引っかかったシルヴィアが呆然と立ち尽くしていると言うことだ。
呆然と立ちすくんだままだったシルヴィアは、今やっと頭が追いついてきた。そして固まっていたはずの身体はどんどん小刻みに震えだし・・・。
「ランド・・・!!!!!」
自分の従者に恨み辛みを余すことなくぶつけたのは、しょうがなかったのであろう。
そして、平行線だった一組の姉妹の思いが少しずつ進路を変えて交わろうとしていく・・・―――。
きたきたきた-!!!お待たせしました!!




