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どうしよう、この状況。
シルヴィアの頭の中にはこの言葉しか残っていなかった。
目の前には未だ顔をテーブルに俯かせているアリシアがいる。そんな状態になったのは先程自身の従者であるランドによって見せてしまった”シルヴィア”によるものだということは聞くまでもない事実だ。
髪から顔を見せている小ぶりな耳は真っ赤に染まっていて、彼女の感情をつぶさにシルヴィアに教えている。
かくいうシルヴィアも最初は真っ青な顔をしていたがだんだん状況を理解していくにつれて顔を真っ赤に染め上げている。
さっきシルヴィアが言った言葉は全てアリシアに隠していた自分の本音だった。いつも言えないでいた本当の気持ちを一寸も隠しもしないそのままの姿でさらけ出した。
それがどんな意味を持つかなんて、聞くまでもない。
「・・・・・・アリシア、」
「っつ!!!」
声を一声かけただけで敏感に反応するアリシアは全力で混乱している。いままで自分に対してドライだった姉から向けられた熱を全て知ったのだから。
いつも自分の態度や言葉で煩わせていて、面倒な妹だと思われているとおもっていた。
「・・・・・・アリシア・・・。」
次に聞こえてきた自分を呼ぶ姉の声は掠れていて、何かを懇願するような響きを持っていた。おそるおそる身体を起こす。まだ視線は姉の方を向けれていない。
まだ、混乱が解けていない。まだ、顔の熱は引いていない・・・―――。
「・・・アリシア・・・?」
「・・・お姉様、」
しかし、自分を呼ぶその声は今まで聞いたことのないくらい柔らかで、か細くて。もう、反応しないなんて選択をとれるわけがなかった。
お互いの視線がやっと交差した。
アリシアは今まで見たことのない姉の真っ赤になり少し涙目なその表情をみて、シルヴィアは今までで見た中で一番真っ赤に染まり溢れそうなくらい瞳に涙を浮かべて自分を請うように見てくるその表情をみて。
いまやっと、すれ違い続けて交わることのなかった視線が、交差した。
「・・・ふふ。」
「・・・おねえ、さま・・・。」
「ねえ、アリシア。」
「・・・はい、シルヴィアお姉様。」
「今から私たち、お互いのこと話した方が良いと思うのだけど?」
「・・・ええ、私もそう思います。」
「あら、一緒ね?」
「ふふ、はい。一緒です。」
「では、お話ししましょう?」
「はい。勿論、喜んで・・・!」
麗しい二人のご令嬢はその顔に笑みを浮かべなくても美しい。
しかし、二人がその顔を柔らかに花が綻ぶように微笑み合えば、それは一つの幻想的で魅力的な絵画のように美しい。
花びらが咲き誇る国随一の美しい庭園と名高いその光景が恥じらって隠れようとするほど、二人は美しく微笑み合う。
ソレルとランドはその光景を間近で見て、その瞳を眩しそうに細め思った。これ以上の美しさなんてこの世に存在しない、と。
幸せそうに微笑み合う大事な愛おしい主人たちが交わった姿に、待ちわびていたその光景に強く思った。
これこそ、自分たちが待ち望んだ姿だった、と。
「――・・・だったわ。」
「ふふ、そうだったんですか?私はてっきり・・・―――」
「・・・これは、」
「・・・ああ。」
レイハルクとセシルがテラスに戻ってこられたのはあれから時計の針が二周しようかとしている頃だった。こんなに時間がかかってしまったと、大丈夫だという信頼と少しの心配をもっていつもより早歩きで向かった。
しかし、その光景を見て一瞬で自分たちの心配は杞憂だったと思い直すと同時に、その光景に目が奪われた。
普段はその最高級の笑みなんて全く見せないのに、今は全てを出し惜しみなく披露している美しい薔薇を連想させるシルヴィア。
微かな間しか顔を見せず一瞬で笑みを隠してしまうのに、今はそんなしがらみなんか最初からなかったと言うようにふんわりとした華やかな桜を連想させるアリシア。
二人が微笑み合う姿は誰もがほう、と息を溢してしまうほど、美しいなんて言葉では足りないくらい神々しくて。『月も光を消してしまい、花も恥じらってしまう』この言葉はこの二人のために作られたのではないか、というくらいに・・・――――。
「――・・・あら、」
「・・・え、あ。」
ふと視線を感じた二人はその方向へと視線をずらす。そこには先刻、立ち去った婚約者の姿があった。二人は自分たちの方をみて立ち止まっていた。その光景に二人して首を傾げる。戻ってきたのなら声をかけてくれたらいいのに、何故その場に黙っているのだろう、と。
「レイ?」「セシル様?」
自分の名前を婚約者に呼ばれた二人は漸く時が進んだかのように動き出す。先程まで二人で話していた二人の姿はなく、こちらをどうしたのかと首を傾げて見ている姿があった。
一瞬にして幻想の世界から戻ったかのような感覚に襲われた二人は同時に一つ瞬きをして、先程まで座っていた席に腰をかける。レイハルクはシルヴィアの隣に、セシルはレイハルクとは反対側のアリシアの隣に。
「どうかしたの?」
「・・・いや、なんでもないよ。」
「・・・セシル様?」
「気にしなくて良い・・・。」
どうしたのか、と尋ねる婚約者たちに見惚れてました、なんて馬鹿正直に言えるはずもなく、二人は曖昧に笑ってごまかした。そんな態度の二人を初めて見たアリシアとシルヴィアはお互いの顔を見合わせて、再び首を傾げてみせた。
そんな状況が居心地悪く感じた二人は咳払いをして、話を変えるべく動き出す。
「二人は仲直りしたのかな?随分仲良しそうだね?」
「・・・ちょっと、仲直りって・・・喧嘩してたわけではないわよ。」
「な、仲良し・・・。」
「・・・アリシア、そんなに照れるのか?」
レイハルクの言葉に視線をそらし、つい言い返してしまうシルヴィアの耳は紅く染まっている。大方仲良く見えたといわれて嬉しかったのだろう。それを素直に表現できないのは本当に彼女らしい。
一方妹のアリシアは素直にその言葉に照れる。顔を高揚させて嬉しそうに頬を緩め、その頬をその小さく細い手で包む。ほわーっと夢心地のような声を出して照れる姿は可憐で美しい。
その姿にレイハルクは笑みを深めてシルヴィアを凝視し、セシルは初めて見たアリシアの反応に少し複雑そうに、しかし嬉しそうに顔を緩める。
「なんの話をしていたんだい?」
「・・・ちょっと、ね?アリシア。」
「はい、お姉様。」
「ん、教えてはくれないのか?」
「ふふ、秘密、です。」
「ええ、教えないわ。」
ゆるり、と瞳を緩めた二人は顔を合わせて微笑み合った。
その姿にはもう、以前のような距離も溝もなにもなかった。
その姿に、レイハルクとセシルはよかったと安堵し、その美しい光景に再び目を奪われる。交わった二人はもう憂いなんか一つもない。アリシアとシルヴィアは一つの大きな荷物をやっと下ろすことが出来たかのような晴れやかな表情をしていた。
通じ合った二人は最強ですね。あとはもう一つ乗り越えてもらうのでそれまでゆるりと幸せをかみしめ合ってもらいたいです。
まあ、シルヴィアのツンデレが解消されたわけではありませんが←




