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「もう準備はできたのかい?」

「…突然なに?」


今日も今日とて当日の朝に呼び出されて向かえば、これまたいつもの様に優雅に紅茶を飲んで待っているレイハルクをみつけた。その様子にイラっときて嫌味を言っていれば突然話題が変更された。

自由な王太子に呆れながらも真意を問うシルヴィアは開始早々に疲れが顔に見て取れる。


「学園の入学準備が、だよ。あそこは全寮制だから結構準備が必要だっただろう?」

「一応終わっているわ。と言っても私は元々使用人が二人いれば充分だもの。他のご令嬢はもちろんご子息達は大変なんじゃない?」


そう、とうとう私達に学園入学という貴族社会に身を置く人間として重要な行事がやってくる。貴族の子息令嬢達は必ず王国が運営する王華学園に入学する。そこは所謂成人前の貴族の子供達が社交界に出ていくだけの知識や教養を実践をもって学ぶ場所。簡単に言えば社交界の縮小版の様なもの。

そこで婚約者がまだいない者は相手を見つけたり、婚約者のいる者は将来人生を共に歩む者として関係を深めるということも、学園の意義の一つだ。


「君の家はそういう所、賢いよね。学園に行く前に楽しみすぎて寝坊とかは止めてね?」

「だ、誰がそんな事…!!」


そう言ったレイハルクの顔は嫌味ったらしくニヤニヤしている。馬鹿にし過ぎよ!ほんっとうに意地の悪い…!

それからの会話もちょくちょく入れてくる嫌味に言い返す度にニヤニヤ楽しそうに笑っているレイハルクは、本当にいい性格をほしいままに体現している。

長年一緒にいるけれど此れだけは本当に許せない!


ぶすっとしてきたシルヴィアの顔に気づいたのか、意地悪く笑っている顔を今度は穏やかな笑顔に変えて此方を見てくるのだから、やはり今日もシルヴィアはレイハルクに敵わない。


「ふふ、本当にヴィーは面白い……、可愛いね?」

「全く隠せてないわよ!!この性悪王子!」








「また貴方は……」

「やめて、分かってるから言わないで、ランド!!」


今日も今日とてアリシアに嫌味を言ってしまって落ち込んでいるシルヴィアと、それを呆れた様子を隠さず苦言を呈するランドの姿がシルヴィアの私室で確認された。因みにメイドのサリィは落ち込む主人の為にお菓子を取りに厨房へと走って行った。比喩でなく本当に走って行ったためメイド長に怒られているので時間が倍以上かかっているのはご愛嬌だ。

ほんのこの間シルヴィアがレイハルクに言った『意地の悪い』や『嫌味たらしい』はそのままシルヴィアにブーメランしていると誰もが気づいているが、それを言わないのは優秀で忠信的な使用人の証拠である。多分。


今回は偶々廊下ですれ違ったアリシアの顔色が少し悪かったため心配して言った、つもりだ。口から出た言葉が例え「体調管理も自分でできないなんて本当に馬鹿な女ね」だとしても、シルヴィアとしてはアリシアを心配して出た言葉だったし、例え!その態度が高圧的だったとしてもシルヴィアはアリシアを心配して出たものだったのだ。



「シルヴィア様に言われた後のアリシア様の顔、見ました?元々顔色が悪かったのに更に真っ青になられていましたよ。余計に悪くしてどうするんですか。」

「知ってるわよ!!…と、とりあえずアリシアにハーブティーでも渡しておいて…。」

「はいはい、今回も名前は伏せられるのですか?」

「…だって、元凶の私に貰っても落ち着けないでしょう。」

「はあ…そんなに気にするなら言わなければ良いんですよ、馬鹿なのはお嬢様ですね。そろそろソレルがバラしますよ。」


「…それだけはやめて…。


………あと、ランド。話があるから表に出なさい。」

「あ、遠慮します。」



何度言っても態度を改めないランドは本当にシルヴィアを主人として敬っているのか。

すいーっと視線を反らせたランドの視界に入った小説の山に今度こそ、全く、一寸もオブラートに包むことをせずに言い放った。


「これを渡すのに後どれくらいかかるんですかね…はあ…。」

「うぐっ」


それは昨日王宮でレイハルクとセシルといつもの様に茶会をしていた。そこでレイハルクに促されてセシルからアリシアが最近倭国に興味を持ったという話を聞いた。

この三人も倭国に興味を持ってから色々調べた過去があり、シルヴィアは倭国の書物を一時期趣味として読んでいたことがあった。その為シルヴィアの私室の壁際にある本棚にはその四分の一ほど倭国の書物で埋め尽くされている。その中にアリシアが読み始めたという物語の本もある為、アリシアに贈ろうと取り敢えず机の上に置かれていた。

補足として言えば王宮から帰ってきた途端本棚に走り寄ってその本たちを取り出したのは誰がなんと言おうとシルヴィア本人が自ら行ったことである。その行動の早さにランドたちは一瞬動きを止めはしたが、猪突猛進のきらいがあるシルヴィアの行動は今に始まった事ではないため然程驚いてもいなかったが。


「もうあれから数日経ちましたよ?いつ渡せるんですか。機会なんて幾らでもありましたよね?」

「…アリシアは基本的に部屋から出ないから会えないじゃない…?」

「すれ違ったとしてもその時は本を持っていなのですから渡せないでしょう。何故すれ違った時限定なんですか。アリシア様が部屋にいるのなら持っていけば良いでしょう。」


大丈夫か、この人。と言いそうな顔をして心底理解できないと言うランドに言いたいことが山ほどあるシルヴィアだったが、話の内容が内容だった為言い返すことができない。

言えないからかギンっと瞳を鋭くさせてランドを睨み付けるシルヴィアは元々がキツめの顔をしているため迫力がある。しかしそんなもの慣れているという様にランドは素知らぬ顔をしている。

なんとも主従関係がおかしな二人だ。


睨みつけて暗に責めていたシルヴィアだったがランドは全く応えていない状況に諦め、膝の上で組んでいた手を降ろして一つため息をこぼした。


「…お父様がアリシアに許可をだしたら持って行くわ…。」

「では今日ですね。先程アリシア様が執務室に入られた様ですから。」


「タイムリーね本当に!!!!!」






そしてやっとアリシアに本を渡すことができ、アリシアの部屋から出た。シルヴィアとランドの背中の後ろでパタンと音を立ててドアが閉まる。数歩、二人がそのまままっすぐ自室へと進んでいたが途中でその歩みが止まった。シルヴィアの顔は引きつっておりその色は真っ青を通り越して真っ白だ。一方ランドの顔はそんなシルヴィアの顔を真顔で見続けていた。


「……(ジー)」

「………(たらり)」


「…渡せてよかったデスネ。」

「やめて。ランドに流されると余計胸に刺さる!!いつも通りに言えば良いじゃない!!」


では、と咳払いをしてんん、と喉の調子を整えた。


「何故本を渡すだけで嫌味を言わなきゃできないんですか、馬鹿ですか。ああいや、馬鹿でしたね。私が止めなければ今度こそアリシア様を泣かせたんじゃないですか?姉として最低ですね。というか、折角気分の上がった人に水を差すなんてむしろ人として最低です。」

「限度!!限度があるよね!?あんた私の従者じゃないの!?」


「ちょっと、シルヴィア様。ここ廊下ですよ。もう少し静かにしてください。」

「あ、ん、た、が!!!!そうさせてんのよ!!なにやれやれとか言ってんの!!」




ギャーギャー騒いでいる二人、失礼。シルヴィアだけが騒いでいる状況が珍しくないのか廊下を通っていく使用人たちは表情すら変えずに横を素通りする。

その数分後に廊下で見られたのは大声を出し過ぎたのかゼーハーゼーハーと肩で息をしているシルヴィアと、私は関係ないですとシラーっと正面に立っているランドだった。


「落ち着かれましたか、シルヴィア様。早く部屋に戻りましょう。」

「あんたが言うな、…はぁ。」


息を整えたシルヴィアは疲れを滲ませるも鋭いツッコミをランドに与えつつ歩みを進めた。





「あ、お帰りなさいシルヴィア様、ランドさん!お茶の準備できてますよ!」


今日はクランベリーのシフォンケーキもご用意してあります!とニコニコ満点の笑顔で二人を迎えたサリィは森のなかの湖の様な涼やかで穏やかな癒しを持っていた。

そんなサリィを見てシルヴィアは目元を抑えながらその肩を掴む。


「サリィ、貴女がいて本当によかったわ…!!」

「わわ、如何なさいましたか?」


お腹空いてますか?と見当違いな事をいっているけどそこから放たれるマイナスイオンはシルヴィアの傷ついた心を癒す。


「何してるんですか、シルヴィア様。紅茶冷めますよ。」

「………。」

「?」


とうとうシルヴィアはツッコミを放棄してしまった。さすがランドだと言いたいが、それでいいのか従者、と思わなくもない。


諦めた色しか瞳に映さないシルヴィアは、いつもはピンっと伸びた背中に今日はなんだか影が見える。ここまでくると応援したくなってくるのは仕方ないのか否か。本人たちには(主にシルヴィアにとって)大事な問題である。


ここだけ見ればシルヴィアとランドの関係は悪く思えてくる。しかし全寮制の学園へシルヴィアについて行くことを当然の様に捉えているランドも、ランドが付いてくることを疑っていないシルヴィアも結局は二人ともがお互いをなくてはならない存在として大切に思っている証拠である。

そんなことを知ってかしらずか、サリィは今日もそんな「喧嘩するほど仲がいい」?を体現する様な二人を苦笑して見つつも、変わらない二人に安堵と尊敬を持って接している。


シルヴィアやレイハルク、セシルの三人が学園に入学するまであと数日。

三人が、いや、この王国がどうなっていくかどうかは神のみぞしる…―――――。











シルヴィアが苦労性系令嬢だったりランドが遠慮なさ従者だったりしたのは決して趣味じゃないです…(震え)

気づいたらそうなっていたんです。。。


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