総大将?聞いてないよ!押すなよ!推すなよ!じゃあ俺が どうぞどうぞ
当たり前であるが胃の入り口は口である。
おかしな例えであるが脳を胃に例えると、
口にあたるのは五感それぞれの入り口の目や耳や鼻や舌や皮膚であり。
「ナリカワと一戦交える」と言ったニザエモンの言葉は、口に神社に奉納する様な巨大な鏡餅を捻じ込まれた如く、村長達の耳に捻じ込まれた。
つまり咀嚼し脳に飲み込むまで かなりの時間を要した。
「さてどう出るか…
散々 野良仕事の手伝いやらで若大将のやつが世話焼いて来たし、
何よりニザエモンの旦那は外の集落にも心を砕いて便宜を図って来た。
京の都やカマクラは最盛期にも中心部を外れれば死体の転がる貧民窟だったというぜ。
それに比べりゃサカイの外町や農村部は天国さ。
だがそれをこいつらが自覚しているかっつったら話は別だ。
ニザエモンの旦那は人に協力を求めるには先ず誠意なんて言ってたが、
やっぱり一人一人にサシで会って、説得に応じそうもねえ奴にには何も知らせずにおいた方が良かったんじゃねえか?」
ジョスイは長引く沈黙に危機感を募らせた。
しかしそれもニザエモンにとっては自ら演出した沈黙であった。
「もちろん勝算は御座います。」
その言葉は微笑むニザエモンの口から ゆっくりと力強く語られた。
相手は天下に今にも手が届くかといったナリカワ家である。
「一戦交える」とだけ言われて、
「はい そうですか」
とも
「頑張ってください。」
とも
「私は反対です。」
とも中々言えぬものである。
せいぜい
「それは本当ですか?」
と言うのが関の山である。
つまりはどうすれば良いのか分からないところに、わざと少しの間押し黙り尚更どうすれば分からなくなったところに。
「勝算あります」
と言って
「ああ勝てるんだ。」
と半ば思い込ませたのだ。
しかし中には小細工の通用しない者もいる。
村長達の一番後ろで睨みを利かせる
「正気ですか?」
と目で訴える男を見据え、実際に口にする間を与えずニザエモンは続ける。
「先ず我等はナリカワの弱みを握り、大義名分を奪い諸大名より孤立させるに至りました。
そして彼奴等を打ち破るに余りある猛者を我が軍に迎え、盤石の構えを整えて御座います。
紹介いたしましょう。
先ずは西国一の賢者サナガ ジョスイ殿
名門シミズ家からは ヘイクロウ ナリタカ殿
オウミの旋風と武勇轟く キリュウ マサナオ殿
その名を聞けば毘沙門天も裸足で逃げ出すヤツガサト衆からは、
イセの炎龍 サカキバラ ドウゼン殿
水軍都督には セイゲンジ家水軍を打ち破りしトバ スミトモ殿
そして当代最強と誉れ高きシジマ家からは
百発億中 アンドウ ダンザエモン殿
並びに
閃光の鎌鼬 フジオカ ヤスキヨ殿
そしてワシノミヤ組棟梁 ウジガワ ギンザブロウ殿が設えし
函谷関の如き城壁と化した土蔵は一兵たりとも我が町へ立ち入らせはいたさぬで御座いましょう。
皆様方は 開戦の折には城壁の内側へと避難して頂きます。
となれば今皆様方がお住まいの家や田畑が気掛かりで御座いますが、
戦火にて倒壊 消失したならば全壊 半壊関わらず全て建て直させて頂き、田畑が荒されたなら予想収穫量 全額を保証いたします。
他にも御要望があれば出来る限りお応えいたす所存で御座います。
では総大将シジマ アキヨリより皆様に一言御挨拶が御座います、
アキヨリ殿前へ。」
「えっ?!総大将?!ご挨拶?!
聞いてないよ!
まただよ、楽しんでるよ、ほくそ笑んでるよ。
ああもうやるしかあるまい。」
そう呟くアキヨリはニザエモンを一つ睨んで前に出た。




