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六角の花   作者: フミ
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御逢 咸経 船岡山に降臨

フナオカヤマの合戦、またはフナオカヤマの大籠城。

アキヨリを始め彼等世代の若武者達がそれを耳にし胸踊らぬ者はいない。


今を遡ること三十四年、日の本はオアイ ミナヅネを知る事となった。


アキヨリの高祖父サネアキ率いるシジマ軍と、若き日のゴクラクサイ、つまりシラセ ナガヨリ率いるシラセ軍の戦いは、

将軍家の私情より始まった後目争いに決着をつける為のものであった。


しかし乱戦は更に深く日の本の大地へと浸透し、更に広く日の本の大気を覆った。

巨大な火の鳥を出現させる迄に至った大戦は教訓や戒めとはならなかった。

酔ったのだ、

武に生きる者達は彼(か)の戦いに酔ったのだった。

火の鳥よりもたらされた何かがそうさせたのか、争い戦いを好む人間の本能に火をつけたのか。


ミアケ家を総大将とする東軍と、

オオガ家が影で牛耳る西軍は、

本来の目的さえ忘れ、裏切り寝返りを日常とする混沌の騒乱の坩堝(るつぼ)を製作し、自らもその住民となった。


どちらかが優勢になれば そこから寝返る者が現れ、

停戦調停が結ばれたなら、その当事者が暗殺され、

坩堝の熱は天井知らずに高まり続けた。


だが三十四年前の六月、たぎりにたぎった坩堝はビワ湖へと蹴り込まれ、もうもうと湯気を立てた。

オアイ ミナヅネによって。


六月の長雨は、東軍の本拠であるフナオカヤマ城の城門に設えられた櫓の屋根の上に立つミナヅネに降り注いでいた。

しかし城門の殺到した東軍の兵の目に映ったのは、優雅に風に靡くミナヅネの髪だった。


奪ったのだった。

髪を靡かせ十万の兵を睥睨する、

全くの無名の若者は東軍が城を打って出た隙に、たった三百の寡兵を率い奪ったのだった。


目的は目をこじ開けることだった。

戦を止めろと訴え続け、一月に渡る無謀といえる籠城は、

先ずジョスイの父、西軍の重鎮サナガ コウザンの目をこじ開けた。

胸打たれたコウザンはミナヅネに臣下の礼とりフナオカヤマ城に入城すると、

主力を失った西軍は城を奪われた東軍に追い打ちをかける事が叶わず、

命拾いした東軍も、ナリカワ ヒデオキがミナヅネに同調。


すると元来 節操無く戦乱を繰り返していた東軍 西軍は手を組み、フナオカヤマ城を取り囲んだ。


そこに火の鳥の一戦以来 東国 コウズケの地で雌伏の時を過ごしていたシジマ家の若武者アキナガが、

ミナヅネの籠城に義心を燃え上がらせ兵二万を率い上洛。

サナガ ナリカワ シジマは瞬く間に東西両軍を打ち破り堂々巡りの戦乱に終止符を打った。

それが世間一般に知れ渡るフナオカヤマの合戦の顛末である。

そして必ず語られるのは十万の大軍から一月もの間 城を守り通した、キラ ノブモトの武勇であった。

しかしそれからのノブモトを語る者は誰もいない。


「フナオカヤマの合戦は私の生涯で消し去りたい汚点なのだよ…」


自嘲なのか 柔らかく口元を緩ませ、しかし諦めたように伏せ目がちに ニザエモンは語りだした。



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