モグラ叩きのような人
「メシ?!」
とキリュウ。
「ありがたい、腹の虫が唸り始めたところであった!」
とフジオカ。
小高い丘となっている道祖神塚の、麓から続く一本道を登り切った、少し開けた場所に待機させた荷車の前で、
俺の方が、いや拙者がと、
より重い材木を奪い合っていた二人は、一時停戦と笑みを交わし、麓からの一本道を振り返った。
もちろんメシ目当てであった。
だが。
「何と優美な!」
と目を見張ってフジオカ。
「かっけぇえ…」
と口を開けたままのキリュウ。
彼等が目を奪われたのは、五人の人足が引き、同じく五人の女給が押したり腰掛けたりする、
握り飯やら、鶏の丸焼きやら、汁の満たされた巨大な鍋が載った、一本道を登り来る荷車では無く、
荷車を先導し駆ける一騎の騎馬武者の羽織る、
濃紺に輪郭だけ浮かび上がった金のアサガオが咲き乱れる陣羽織だった。
「さすがは剣聖 キラ ノブ…んごっ?!
旨え!」
「それはもしや、フナオカヤマの合戦にて キラ ノブ…ふごっ?!
美味い!」
材木を放り出し、目を輝かせ陣羽織に駆け付けた二人の口に握り飯がねじ込まれた。
「あっはっはっは!
二人共 手が汚れておるだろうから、お節介させて貰ったよ。
それと一つ忠告しておくが、人が捨てた名を軽々しく口にするものではないよ。
さあさあ!皆様方一休み一休み!」
「飯だぁぁ!」
「やったああ!」
砦の建設に汗を流していた、およそ百名が昼飯へ殺到して来た。
それを待ってましたとばかりに、手際良く女給達がさばいていった。
「アキヨリさん、昼飯が届きやしたぜ。
俺達も一休みしやしょう。」
アキヨリは頭の上から声をかけてきた声の主ギンザブロウを見上げた。
「もう少し キリのいい所まで掘ってからにするよ。
これだけ深い穴となると、
意外と出たり入ったりは面倒だし疲れるだろう?
もうこの穴には入らずに済ませたい。
せっかく声をかけてくれて悪いが、先に行ってくれギンザブロウ殿。」
「そうは行かねえよ。
普通は皆が気を使わねえように大将が率先するもんだ。
ご家臣さん達だってあんたを差し置いて飯なんか食えねえだろうよ。」
「何?ギンザブロウ殿 飯が届いたとな?!」
その声はアキヨリが掘る穴とは別の、十数カ所点在する穴の中から聞こえて来た。
「ああ そうさ。
今あんた等の大将を引っ張り出すから少し待っててくれ。」
「それには及ばん。
アキヨリ様、先に行っております故。」
穴の中から一人の坂東武者が飛び出し、昼飯へとまっしぐらに駆けて行った。
「俺も!」
「拙者も!」
穴掘りに従事していた坂東武者達の姿は既にそこには無かった。
一人残されたるは御大将。
「見ての通り我等が間では、
食う、寝る、たれる、
は所構わず早い者勝ち、が決まり事となっている。
乱世において食いっぱぐれは死活問題、
食える状態にある者から食って行ったなら、
何らかの変事が生じ食事を中断された際に、
それが一番食いっぱぐれを少なくする方法だ。」
「へえー、そいつは合理的だ。
まあ もっとも、もう少ししたら、
あんたの分のメシを競い合って届けに来るんだろうけどな。
じゃあ俺達も行くとするぜ。
おめえ等 聞いての通りだ、お言葉に甘えてメシとするぞ!」
「おう!」
「へへぇい!」
砦の建つ予定の道祖神塚の最頂部の開けた野っ原には、穴と材木とアキヨリだけとなった。
「へへっ、皆いなくなったな。
これを見たなら皆欲しいだ、くれだ としつこく言い寄って来るに違いない。」
アキヨリは偶然掘り当てた一尺 (約30cm)もある、大きなオウム貝の化石を懐にしまいほくそ笑んだ。
しかしアキヨリ以外にそんな物に興味を示す者など居ない。
「さて 俺も飯とするか。」
アキヨリが穴より這い出すと、すぐそばの材木に腰掛けた一人の後ろ姿がに入った。
「?!」
即座にアキヨリは一歩後ろに飛び退き、臨戦態勢へと心身を切り替えた。
「只者ではない…」
アキヨリに気配を悟られず、この近距離まで接近した、歴戦を思わせる年季の入った紺地に金の刺繍の陣羽織、そしてその着こなし。
しかしそこまで注意が行ったなら、浮かび上がる人物はただ一人。
「ふう…」
一つ溜息をついたなら、肩をストンと落とし、陣羽織の隣に腰を下ろした。
「親父様。」
そう呼ばれニザエモンは機先を制された。
アキヨリの口にも握り飯をねじり込んでやるつもりだったが、目を見開き首を傾げて見せ。
「私の事か?」
と動作で問うのみとなった。
「昨日 我等を息子と呼んで下さった。」
ニザエモンの眩しそうに細めた目は。
「悪くない。」
そう言っていた。
そして口では。
「無刀逆流れ、誰から伝授されたのかな?」




