おっ始めるぞ!
祭りの後は更に祭りであった。
宣戦布告と言う名の一つ目の祭りの翌日、
昨日の今日で引き上げねばならぬなどと一体何事かと訝しみ、
更なるもてなしへの期待から後ろ髪引かれ、
京の都の駐屯地へと去って行くナリカワ一団の後ろ姿を、
東の門の跳ね橋の門柱に寄り掛かり
見送るギンザブロウはいきり立った。
「さて、さて、さて、さて!
忙しくなるぜえ!!」
「おう!いよいよで御座るなギンザブロウ殿!
拙者も此奴等を牢にぶち込みし後 助力いたす!」
ギンザブロウが声に振り向くと、縄でぐるぐる巻きになった、
いかにも旅人といった見なりの男三人を引きづり歩くヘイクロウだった。
「 ナリカワの間者はそいつ等で最後かい?
この街を探ろうとしてた五十何人を全部捕まえちまうなんざ、
流石ヘイクロウさんだぜ。」
「いやいや拙者の手柄では御座らぬ。
昨夜 町中に散った彼奴等を一網打尽としたるは。
アキヨリ殿 ダンザ殿 スミトモ殿
御三方のドーマンの術を駆使した追跡と、
拙者の手下共の粘り強い働きによるもので御座る。」
「謙遜しなさんな。
大体あんたんとこの若ぇ衆が必死こいて働くのは、あんたの背中を見てるせいだし。
あの三人は人間離れしてるから番外として、一番の功労者はやっぱりヘイクロウさんだ。
しかし いきなり戦う事になった俺達を探ろうとして放った下っ端共が、一人も帰らねえなんて腰抜かすだろうぜ金袴の大将もよ!」
「いや、十人程 帰還する筈で御座る。
此奴等を旅の者だと信じ込んだ町人を装い、意気投合したふりをして酒を飲ませ。
何が理由かは分からぬが大旦那達は常にいがみ合っている、
近頃おかしな浪人が増えたが、足のふらつく年中酒浸りのごくつぶしばかりだなどと、
嘘八百 吹き込んだ後 解き放って御座る。」
ぐぁらがらぐぁら…
「あれまあ、これでもかって程の念の入れようで。
ジョスイさんはそういった策略が好きなのは、見た目からして分かるが、
意外と見た目のさっぱりしたアキヨリさんも相当好きなんだよな。」
ぐぁらがらぐぁらがら!!
「いかにも、全てお二方でニヤニヤしながら出した案に御座る。
おお!早速参りましたな。」
ヘイクロウの視線の先には、西から大通りを爆進しやって来る巨大な荷車があった。
荷車の荷物は材木であり、荷車を構成する骨組みも材木として使用できるらしく、幾つかほぞ穴が開けられている。
それを見たギンザブロウは髪を逆立てた。
「てめえ等馬鹿じゃねえのか!
ナリカワの奴等まだ見える所にいやがるんだぞ!
そのまま道祖神塚まで行ったらバレバレじゃねえか!
ヘイクロウさん達の苦労が水の泡だ、ちったあ頭使って考えろ馬鹿野郎!」
ぐぁらがら…ぐぁら…
荷車は停止した。
先頭の二名の内 巨馬は怒鳴られた事により項垂れ、
昨日から赤い茶道着を着たままの男は引いていた綱を置き、済まなさそうに頭を掻いた。
「いやいや申し訳ないギンザブロウ殿。
もう少しゆるりと来る筈であったのだが、
いよいよ道祖神塚の砦の普請だと、無駄に意気を上げてしまった俺とアクヤにつられ、
皆おかしな興奮状態となってしまったのだ。」
「全くガキじゃねえんだから、そんなに はしゃがねえでくだせえよ。
アキヨリさんは代わりの効かねえ大事な御身体なんだから、
途中で潰れちまわねえ様に自重してくんな。」
「この茶を以ってシジマ アキヨリの宣戦布告といたす!!
無刀逆流れ でりゃあー!」
「ぎぃやー!降参で御座る降参で御座る!お助けえ!」
「いいぞ!フミ殿!」
「かわいいぞ!シノちゃん!」
昨日のアキヨリを演じるはフミであり、
刺客ヒサハルを演じるはミクリ屋女中シノ。
舞台は荷車であり、
観客は荷車を引く二十名のワシノミヤ組と坂東武者の混成部隊。
荷車を引く二十名の意気が無駄に上がったのは
意気軒昂の為と、昨日の茶室の出来事を実際に見聞きしたフミに、芝居にして見せてくれと皆が詰め寄り実現した、
荷車の上で繰り返し行われる寸劇のせいでもあった。
相当いい気になっているようで、ギンザブロウのお冠にも止む様子が無い。
「あのさあ…二人共 少し休もうよ。
もうその場面は十回以上やってるじゃないか。
なんだか気恥ずかしいし、更に怒られそうな気がするんだよね…」
「誰も怒ってなんざいやせんよ…」
「ほら怒ってるじゃないか…」
コソコソ声でアキヨリが皆に告げ、皆が笑い声を漏らすと。
ぐぁらがら!ぐぁらがら!ぐぁらがら!ぐぁらがら!ぐぁらがら!!
「どけ!どけ!どけってんだこの野郎!」
顎をしゃくらせ キリュウ マサナオ。
「皆の者!負けるでないぞ!些細な勝負事でも手を抜けば負け癖がつくというものだ!」
眉を吊り上げ フジオカ ヤスキヨ。
「てめえ等!俺達本職がお侍方に負けたとあっちゃ格好がつかねえ!
意地でも負けるんじゃねえぞ!」
肩をいからせ ワシノミヤ組 若頭筆頭ハンシロウ。
ぐぁらがら!ぐぁらがら!ぐぁらがら!
最早狂気の域の荷車三台が土煙を上げ大通りを殺到して来た。
「てめえ等!!」
ぐぁら…がら…がら…
怒りの余り「てめえ等」と言ったきり言葉を失ったギンザブロウの怒髪天に、
訳も分からないまま三台の荷車は停止せざるを得なかった。
それからはアクヤに跨ったギンザブロウを先頭に、丁度良い速度で計四台の荷車は道祖神塚へと再出発した。
「アキヨリさん組はこっちだ、こことこことここ、
まずは図面にある通りに柱を立てる穴を掘ってくれ。
キリュウさん組とフジオカさん組は材木を解いて、おいらの指示する所に運んでくれ。
ハンシロウ てめえはキリのいい所で次の材木を持って来い、
それと土蔵を繋げる渡り廊下の進み具合も見て来い、
足らねえ物 不具合なんかを一々知らせろ。」
目的地である道祖神塚に到着するとギンザブロウは手際良く現場を仕切った。
作業は順調に進み太陽が天宙の真上へと位置すると一頭の馬の蹄音が近づいて来た。
「皆様方 お疲れ様です。
お食事をお持ちしましたぞ!一息入れてください!」
いつもの茶道着姿とは打って変わり、陣羽織を羽織ったニザエモンだった。




