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六角の花   作者: フミ
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もう一つの宣戦布告

ヒデミツの膝が笑い始めた。

いつだったかアキヨリとダンザが殴り合った、ニザエモン邸の門の前で、大掛かりな猿芝居を見せられていたヒデミツは、震える足で一歩だけ進んで止めた。

ヒョットコの正体を知るが故に。

知るが故に面の下の顔を自らの両手で隠そうとして一歩進み。

間に合うはずが無いと歩みを止めた。

止めた理由はもう一つあった。


「皆様方、突然のさんざ騒ぎの御無礼 心よりお詫び申し上げます。

並びに 最後まで御観覧して下さいました事、このヒョットコ心から感謝申し上げます。」


面の下から現れたのは、切れ長の涼しげな目と、

通った鼻筋の下の少し厚みのある赤い唇だった。

いわゆる美女である。


「ひゃあ〜!ヒョットコはベッピンだった!」


「もそっとこっちへ来てくれいヒョットコ!」


「こっち向いてくろー!」


やんややんやの喝采に気を良くしたのか、鬼に切られ倒れたヒョットコが一人立ち上がった。

そして面を取った。


ヒデミツはまた一歩進んだ。


「今度は若衆じゃあ〜!」


面の下から現れた美少年は、桃色の頬に挟まれた小ぶりな唇に笛をあてがい、流麗に吹き鳴らした。

すると その笛の音に目を覚ましたかのように、次々とヒョットコは立ち上がり面を取った。

三人目の浅黒い大柄な女は太鼓を取

り拍子を刻む。


また震える足が一歩進む。


四人目の愛嬌のある、やや目尻が下がった女は、摺鉦を鳴らし太鼓の拍子に色を添える。


そして一歩。


五人目も笛、一見女かとも見まごう色白の、先程の美少年に負けず劣らずの美男子。


また一歩、取り囲む護衛がとうとう不審がる。


六人目、七人目は立て続け、履いていた高下駄を放り投げた、小柄な女 二人は瓜二つ。

扇子を取り 猿(ましら)の如き軽業の宙返りは空中で交差して、どちらがどちらか判別出来ぬ有様。


天下人は歩まぬ代わりに脂汗。


最後の一人は、長いざんばら髪の偉丈夫、また高下駄を履いていたかと思われる長身だが素足。


今度こそはと胸の動悸に急かされ再び一歩、は遮られた。


「狼狽えるな天下人。」


ヒデミツに立ちふさがり、脅すように、耳打ちするように諭すは、

フジカワ アクタ。


「どけ!アクタ!」


ヒデミツは腹心中の腹心、ナリカワ家軍師、竹馬の友を押し退け、まだ目にせぬ最後のヒョットコの正体を目にした。

ヒョットコの面の下にヒョットコの面を被っていたかと思われる程のヒョットコ顔の醜男(ぶおとこ)だった。

笑っていた膝が崩れ落ちる。

落下するヒデミツの帯を掴むアクタが言う。


「白壁の三層天守のハリボテ、

即ち我等が居城オオホリカワ城。

普請して後(のち)命を落としたるは、

即ちウジガワ ギンザエモン率いるワシノス組。

鬼共の纏(まと)いし南蛮の装束、

即ちイスパニアの駐留軍。

ヒョットコ即ち火男!

火男即ちシジマ アキヨリ!

この巫山戯(ふざけ)た寸劇、即ち我等への宣戦布告!」


「全て承知しているなら、一々説明せんぞ。」


「この街は我等への怨嗟が満ち満ちておるようだ。

根こそぎ断ち切らねばならん。

一万の兵を頼りに今ここで事を起こすは、兵達もあの調子だ奴等の思う壺だろう。」


ギラつかせ危機感を表すアクタの目はどこか笑みを表してもいる。


「事は急を要する。

他家の力を借りるは彼奴の策略に利用されかねん。

アクタお前は大名共を牽制する為に展開した、

エチゼン ミノの兵を、このサカイに集結させるよう万事手配しろ!」


「ならばお主は京の都にて我等の招きを待つ大名共を、

適当にもっともらしい理由をつけて追い返すがよい。

我等に手向かう者共を一人残らず葬れば、何とでも言い訳は立つ。」


「アキの水軍も呼び寄せろ、陸 海から幾重にも取り囲み、

これでもかという程に絶望を味合わせてやる。

水軍というならチクゼンのオオトモの所の毛等共もだ。」


「彼奴等を使うはサナガの馬鹿倅の二の舞ぞ!」


「なに 始めから彼奴等の企みは破綻しておる。

廃人になるまでこき使ってやるのが一番の供養よ。」


「感心せぬな、落武者と町人風情になりふり構わぬとは。」


「ならばセッツ辺りに待機させ、いざという時に使えばよい。

もう異論は挟むな、よいな!」


策略家が策略を巡らす。

それは鳥が飛ぶ、魚が泳ぐが如く、自らの有るべき様は気血を巡らし、青ざめた顔に赤みを取り戻した。


アクタが渋々了承したその時、転げ回り笑う男が二人。

アンドウ ダンザとトバ スミトモは櫓と舟、

それぞれ落ちぬように転げ回るには少々苦しげな様子である。


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