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六角の花   作者: フミ
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ヒョットコショー

鬼は舞い、喜悦の表情を表した。

舞いにより見る側にそれが伝わった訳ではなく、

鬼の面は精巧な仕掛けで目と口が動き、それらが表情を作り出していた。


「なんじゃ?!あの鬼は本物の様じゃ!」


「よく見えん わっしにも見せい!」


鬼の面の細かな細工など、一万人の群衆が一同に目に出来る筈などなく、良席をめぐっての押し合いへし合いが始まった。


「フハハハハハハ!」


すると鬼は高らかに笑い、空中に身を投げ出し、押し合いへし合いの上を滑空した。

見えぬなら良く見せてやろうという具合に、滑車の音を伴って。


「うわあ!鬼が飛んだ!」


「ひゃっひゃっひゃ、うつけが よう見い、綱が張ってあるのじゃ。」


鬼に観客の意識が向けられていると、ハリボテの天守閣の辺りから、今迄の流れとは異質の声があがった。


「父の!兄の!皆の仇!」


大工道具の鑿(のみ)を握り締めた、大工の装束に身を包んだ、十二、三 歳くらいの少年の甲高い声だった。

観客の只中に着地した鬼は、憎々しげに少年を振り返り、踵(きびす)を返し猛然と少年に向かい駆け出した。


「童(わらし)、逃げろ!鬼が行ったぞ!」


「敵(かな)うはず無いぞ、逃げろ!逃げろ!」


感情移入の完了した観客を他所に、少年は向かって来る鬼に、高々と鑿を振り上げ立ち向かう。


「童ぃ!」


鬼と少年が交差する刹那、多くの者が目を瞑り、予想される惨劇から目を背けた。

しかし予想は覆された。


「さっきのヒョットコじゃ!

いいぞ!ヒョットコ!」


赤い茶道着のヒョットコが少年を抱き上げ、驚く程の跳躍で鬼の突進を躱したのだった。

忌々しげにヒョットコを睨む鬼。

挑発するように手招きするヒョットコ。

すると鬼はヒョットコに向かい、大きく手を振り上げ指差した。

何者かに「来い」そして「行け」といった具合に。

すると大通りに面した建物の戸が次々と開き、鬼やら般若やらが数十人飛び出した。

それらはなぜか最初の鬼とは違い、赤い袴の能の衣装では無く、

南蛮の鎧やビロウドのマントを身につけていた。


「もうだめじゃ!ヒョットコ逃げろ!」


「逃げろ、多勢に無勢じゃあ!童(わらし)の命だけでも助けてやれ!」


懇願する観客を他所に、ヒョットコは真上を向き、天空を指差した。

そしてその指を鬼の大将に突き付けた。


ドドン!


そして太鼓の音。

そして互いを指差す鬼とヒョットコ。


ドドン!ピャララァァ〜!


そして太鼓の音に続き、感情的に鳴り響く笛の音。

そして笛の音を辿れば屋根の上に七つの人影。


「屋根の上に誰ぞおるぞ!」


「助太刀じゃ!ヒョットコに助太刀じゃあ!」


晴天の空の明るさに逆光の影になり、正体不明であった人影は、七人の赤い茶道着のヒョットコだった。

ヒョットコ達は次々に屋根を蹴り宙に舞う。

その先にはハリボテの天守閣があり、

ヒョットコ達は三段ある天守閣の屋根を、

一段一段宙返りを繰り返し降り華麗に着地し、

一例に並び鬼と対峙した。


ドンドコドコドコドコドコドコ!


小刻みな太鼓が僅かに強弱を繰り返し鳴り、睨み合う鬼の軍団とヒョットコ軍団を煽(あお)る。


「やれー!ヒョットコ!」


「鬼共を倒すんじゃー!」


ドドン!!


最後に一つ強く太鼓が打ち鳴らされると、一斉にヒョットコ達が前方に宙返りした。


ドドンカラドカラカ!ピャァ〜ララララァララ!


再び強く激しく祭囃子が鳴り響くと、宙返りの勢いそのままにヒョットコ達は、鬼の軍団に襲い掛かった。

受けて立つ鬼達の両手の袖から白刃が飛び出し、

一人二刀の回転する太刀筋は無数の風車のようであった。

しかし徒手空拳(としゅくうけん)で挑むヒョットコ達は、

白刃を軽業で華麗に躱し、手刀や蹴りを立て続けに食らわせ次々に鬼を倒していく。


「うおおおおおおおおお!」


観客の興奮は最高潮となり、海鳴りのような歓声は祭囃子を一時かき消す程であった。

その歓声はヒョットコへの声援であり、鬼の軍団は声援に苛立つように、抗うように、口から紫色の煙を吐き出した。

それを真っ正面から受けてしまったヒョットコ達は喉を抑え、片膝をつき、苦しみ出した。

それを見た観客も口を抑え、息を止めた。


「え〜お客様にお知らせいたします。

鬼の吐き出したる煙は、毒を表現する為の演出で御座います故 全くの無害で御座います。

引き続き安心して御観覧下さい。」


触れて回るはニザエモンのお側役リンタロウ。


「なんじゃあ、焦ったわい。」


「安心しておる場合では無いぞ、ヒョットコが危ないぞ!」


「え〜お客様にお知らせいたします。

ヒョットコを皆様の声援で力付けて下さいませ。

私(わたくし)に続きまして、ヒョットコ、ヒョットコと掛け声をお願いいたします。

それでは参ります。

ヒョットコ!

ヒョットコ!

ヒョットコ!

ヒョットコ!」


「ヒョットコ!ヒョットコ!」


「ヒョットコ!ヒョットコ!」


「ヒョットコ!ヒョットコ!」


声援に力付けられたヒョットコ達は震えながら立ち上がると、再び華麗な軽業で鬼達に立ち向かった。

次々に討ち取られる鬼達、遂には最初に現れた鬼一人を残すのみとなった。


「もう少しだ、ヒョットコ!」


「気張れ!ヒョットコ!」


しかし最初の鬼は恐ろしく強いらしく、

ヒョットコ達も一人また一人と白刃を食らい倒れ残り一人となり、

その最後のヒョットコに白刃が振り下ろされた。


「うわぁ!ヒョットコ!

なんと惨い有様じゃ!神も仏も無いというか!」


「早合点じゃあ!よう見さらせ!」


白刃取りだった。

額に触れる既のところで、鬼の白刃はヒョットコの両手のひらに挟まれ、

打ち下ろされた勢いを失い、

押し返そうとするヒョットコの手との力の均衡の小刻みな往来により小刻みに震えていた。


「うあああああああああ!!」


本日最大の歓声は、白刃取りに動きを封じられた鬼の眉間に、

飛び上がり突き刺した少年の鑿によるものだった。


「ぎゃああああああ!!」


地獄の底から響いて来るが如き断末魔を残し鬼は倒れた。

勝利したヒョットコは、高々と拳を突き上げ勝鬨(かちどき)をあげた。


「えいえいおう!」


観客も続き勝鬨をあげる。


「えいえいおう!」


「えいえいお?!」


観客の勝鬨は寸断された。

鬼の白刃に切られていたのか、なんの前触れも無く、

勝鬨をあげるヒョットコの面が縦に真っ二つに割れた。

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